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「原発」というパンドラの箱

2019年11月1日

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政治経済情報誌「ELNEOS」11月号寄稿

 関西電力の役員や幹部らが、高浜原子力発電所が立地している、高浜町の元助役から巨額の金品を受領した問題は、新たに設置された第三者委員会によって、調査がやり直されて年末までに報告書が出されることになった。

 高浜町にある建設会社の脱税事件かに端を発して、資金の流れが関電に行き着いた。

 関電の最初の第三者委員会が報告書を経営陣に挙げたのが昨年九月一一日のことだった。法的には問題がないとした、この報告書を根拠として、同社は取締役会にも諮らず、対外的に公表もしなかった。

 脱税事件がメディアにスクープされて、記者会見に追い込まれた経営トップは、元助役から誰にどのくらいの金品が渡ったのかも伏せたうえに、経営責任も明確にしなかった。

 企業の法務部門と広報部門は、レピュテーション・リスクを避ける役割を担う両輪である。法的に問題がなくとも、メディアの追及の要因となっている世間の「常識」は、法的責任の範囲を大きく超えている。

 ただし、ここでは関電の後方部門の非を鳴らすことが目的ではない。今回の事件は、原子力発電所という「パンドラの箱」が開いたのである。

  事件とは距離を置きながらも、原発を巡る利権の構造を見ていきたい。

 ヤクザ専門誌「実話時代」の編集長を務めたあと、ルポライターに転じた鈴木智彦氏は「ヤクザと原発 福島第一潜入記」(文藝春秋社、二〇一三年刊)のなかで、すでに原発という「パンドラの箱」に何が詰まっているのか、その構図を描いている。

 鈴木氏は、福島第一原子力発電所の事故直後から、作業員として構内の清掃、工事の準備に関わった。取材の通じて知り合ったヤクザのつてで原発の下請け企業に潜入した。ヤクザがかわている、作業員を手配する企業を見いだしたのだった。

 広域指定暴力団の三次団体の組長が証言する。

 「ただ、狙うのは新規工事限定だ。一発工事のほうがはるかにラクだし、ヤクザに向いている。面倒がないからな。民間会社なら定修(定期修理工事)、原発でいうなら定検(定期点検)ってのは2カ月ぐらいで終わってしまうし、ずっと営業しなきゃならないだろ。新規で入れれば最低2年ぐらい仕事が続く。その間はなにもせずに飯が食える」

 関電の最初の第三者委員会の報告書に元助役の発言について、社内で聴取した次のような下りがある。

 「(社員)自身やその家族の身体に危険を及ぼすことを示唆する恫喝として、『お前の家にダンプを突っ込ませる』などの発言があった。また、社内では過去の伝聞情報として、対応者が(元助役から)『お前にも娘があるだろう。娘がかわいくないのか?とすごまられた』」

 元助役の背景に何があるのか。メディアの追及が始まっている。関電の新しく設置された第三者委員会がどこまで迫れるか、は未知数である。

 関電の経営層は、元助役から受領した金品を個人的に保管していた、としている。「ふたりだけの秘密を共有しない」ことこそ、あらゆる勢力から経営を死守する要諦である。

          (以上です)

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