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企業の分析力

2019年9月19日

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政治経済情報誌「ELNEOS」9月号寄稿

 「米中新冷戦」は、米国が中国製品に対する制裁関税第四弾において、スマートフォンや玩具など一部五五五品目の課税が一二月に先送りされた。

 米中の制裁関税合戦の行方は、日本の企業の進路を大きく左右する。

 企業の情報分析力が問われる。インテリジェンスの世界においては、公開情報が八割、人的な情報収集であるヒューミリエントが二割といわれる。

 企業において、公開情報の収集にあたるのは、いうまでもなく広報部門である。官公庁の情報を収集する、渉外部門の情報収集能力も重要である。

 「米中新冷戦」時代の日本の企業戦略を占ううえで、携帯電話会社による中国のファーウェー社の新型スマートフォンの導入は、大きな試金石である。

 いうまでもなく、米中の関税の制裁合戦の端緒は、ファーウェーの通信機器による、中国政府のサイバー攻撃すなわち違法な情報収集にあった。FBIなどの調査を受けて、米国政府は二〇一八夏、ファーウェーとZTEの製品を政府調達から外すことを決めた。

 KDDIとソフトバンクは、ファーウェーの新型スマートフォンを販売する方向である。これに対して、NTTの澤田純社長は「米中の状況が厳しい現状において、販売再開はお客様に迷惑をかけるのではないか」と、両社の対応に疑問を呈した。グループのドコモは、ファーウェーの端末の予約を停止したままである。

 スマートフォンの製造のキーのひとつは、基本ソフト(ОS)である。ファーウェーはグーグルのアンドロイドである。トランプ政権は一時、アンドロイドの提供の停止を命じる意向を示した。

 もうひとつのキーは、スマートフォンに組み込まれる半導体の設計である。これについては、ソフトバンクグループのアーム社がほぼ世界の市場のほとんどを握っている。アーム社はすでに、トランプ政権の意向に従って、ファーウェーからの受注を停止した。

 ふたつの側面から、苦境に立たされているファーウェーは、独自のОSと半導体の製造を急いでいる。

 トランプ政権で新設された国家通商会議のトップに就任した、対中強硬派のピーター・ナヴァロはカリフォルニア大学アーバイン校教授時代の著作「米中もし戦わば」(二〇一六年、文藝春秋社刊、赤根洋子訳)のなかで、米国の製造業が対中貿易において真っ二つに分裂している、と指摘している。

 「一方の側には、中国の違法な輸出補助金によって大打撃を被っている無数の中小企業がある。……アメリカに本部を置く一握りの多国籍大企業が存在する。これらの大企業は生産拠点を中国に移し、製品をアメリカ市場に輸出することによって、中国の違法な輸出補助金や搾取労働や税金の抜け穴や大甘な環境規制を利用して大儲けしている」と。ナヴァロは、中国による通貨操作を止めさせることと、相殺関税についても論じている。トランプ政権は八月、中国を「為替操作国」に認定した。

グーグルはアンドロイドのファーウェーに対する供与について、水面下でトランプ政権と綱引きをしているのは間違いない。GAFAのロビイングの大きな課題のひとつである。ファーウェーの新型スマートフォンについて、NTTとKDDI・ソフトバンク分かれた判断の成否はまもなくわかる。           (以上です)

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