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漫画界が反発するダウンロード規制

2019年4月14日

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フジサンケイビジネスアイ 3月19日付 「高論卓説」 寄稿

漫画界が反発するダウンロード規制

日本文化は創作から二次作品が生まれる

 東京・神保町にある小さな落語の定席が10周年を迎えるのを記念して、武道館で落語公演会が2月下旬に開かれた。さだまさしとのコラボレーション企画とはいえ、1万以上収容の会場がほぼ満席だった。寄席からホール落語全盛時代となって久しいが、それでも観客数は多くとも1000人前後である。

 当代の噺家を代表するふたりが、さだと新しい落語公演の在り方を魅せた。立川談春は、遊女と染物師の愛の物語「紺屋高尾」、立川志の輔は、貧しい長屋に住む大工の妹が大名の側室となって、跡取りを生む「八五郎出世」を演じた。さだは、それぞれが高座を下りると、アンサーソングとして、愛し合う人が出会う「いのちの理由」と、子どもの成長をみつめる「親父の一番長い日」を歌った。

 落語と歌謡という異なる分野が、相互に刺激し合って大会場の観客の拍手と歓声を呼ぶ。古典芸能の世界では、歌舞伎と文楽、落語などそれぞれの分野で創作された作品が、他の分野に移されて二次作品として新たな命を育む。「紺屋高尾」はもともと浪曲の演目で、落語となり、時代劇映画にもなっている。

 「日本文化の中では、見立てや本歌取りのようにさまざまなオリジナルに対する二次創作として作品を展開するのは、ごく普通の手法である」と、東京工業大学教授の出口弘さんは「コンテンツ産業論」(東京大学出版会)のなかで説いている。現代の多様化するコンテンツの「最も影響力の強い物語の上流」として、出口さんは漫画をあげる。漫画はアニメとなり、テレビドラマとなり、映画となる。漫画自体も、世界的な同人誌の交流会であるコミックマーケットをはじめとする、書き手と読み手が相互に創作から二次作品を生み出す制作過程を踏んでいる。

 海賊版の違法ダウンロードの規制を強化する著作権法改正案に対して、漫画家が反発しているのは、日本文化のコンテンツの制作の歴史からうなずける。漫画たちは、ネットのなかで自分の作品の制作に必要と考える画像をダウンロードし、色彩についても参考となる色使いをそのまま作品に活かすこともあるという。超党派のMANGA議員連盟会長の古屋圭司・衆議院議員が安倍晋三首相に、違法ダウンロードの規制の拡大に反対する意向を伝える事態となった。自民党総務会は改正案の了承をいったん見送って論議を深めることにしている。

 中国や韓国が、日本のアニメの世界進出にならって産業政策に位置付けて、その振興を図っている。しかし、世界的なヒットになった、新海誠監督の「君の名は」や、アカデミー賞の長編アニメ映画賞にノミネートされた、細田守監督の「未来のミライ」に匹敵するものはないといえるだろう。

 漫画の歴史をさかのぼれば、江戸時代の葛飾北斎の絵手本「北斎漫画」まで至る。違法ダウンロードの規制問題は、はからずも日本文化の構造を政治家にも認識させたのである。

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