ブログ

リリース配信会社の陥穽

2019年2月28日

このエントリーをはてなブックマークに追加

政治経済情報誌・ELNEOS 1月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 P・F・ドラッカーは「マネジメント【エッセンシャル版】」(上田惇訳・ダイヤモド社刊、二〇〇一年)のなかで、「企業=営利組織ではない」という項目を立てて、それまでの経営学の常識を否定している。

 「利潤動機には意味がない。利潤動機なるものには、利益そのものの意義さえまちがって神話化する危険がある。利益は、個々の企業にとっても、社会にとっても必要である。しかし、それは企業や企業活動にとって目的ではなく条件である。企業活動や企業の意思決定にとって、原因や理由や根拠ではなく、その妥当性の判断基準となるものである」

 こうした観点から、ドラッカーは、企業の組織構成のなかで「コストセンター」と「プロフィットセンター」の区分を厳に戒めている。企業のすべての組織はマネジメントによって統合されて「高い利益をあげて、初めて社会貢献を果たすことができる」としている。

 企業の法務、人事、財務、経理、宣伝、IRそして、広報部門も「コストセンター」とみることは社会貢献という目的を見失わせる。

 ところがどうだろうか。最近の大企業の広報部門の動向をみるとき、部門をインハウスとして独立の会社組織としてグループ企業からの受注も見込んでいる形態は納得できないこともない。

 新興企業が上場までの間、PR会社の支援を仰ぐことも頭から否定するつもりはない。

 日本においては、そもそも広報パーソンの適格者が不足している。自社の新しい商品やサービスをPRするばかりではなく、危機管理の前面に立つ経験を持った人材である。

 さらに残念なことに、企業の経営者が広報とIR、宣伝の区別を認識していないことも多い。

 デジタル時代を迎えて、PR会社が記者クラブに対するリリースの配布やメディアの記者たちとの人脈を駆使する市場が激変している。

 リリース配信会社の登場と隆盛である。ネットを通じたやりとりで、リリースの作成からメディアへの配信、フェイスブックやツイッターなどによって拡散させることまで、引き受けてくれる。配信先のメディアも大手新聞社やテレビ局ばかりではなく、専門紙・誌も細かく選ぶことができる。

リリースが掲載されたメディアについて、リポートまでくれる念の入ったことである。それぞれの段階ごとに料金も確立している。

 この分野では大手五社が競争を繰り広げている。ネットならではの各社のサービスと料金の比較サイトまである。

 各社のサイトをみると、大手企業でもこのサービスを利用していることがわかる。

 友人から最近、ある企業を相手取った訴訟について広く周知したい、と相談を受けた。東京・霞が関の記者クラブの門戸は開かれていた。個人がからむ案件のために、断られるかと思ったのが杞憂だった。

 ところが、配信サービスは「リリースの考査の結果、引き受けられない」と断られた。考査の基準は明らかにされていない。企業を相手取った訴訟は配信できない、ということである。

 配信会社は、ジャーナリズムにつながる窓でも、企業の危機管理のてがかりにはとうていならない。

 

        (この項了)

このエントリーをはてなブックマークに追加