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グローカルの視点 6次産業論

2017年1月7日

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東日本国際大学・地域戦略研究所 紀要(抄録) 財界ふくしま2016年11月号

「いわき」から日本の企業のCSR(企業の社会的責任)活動が変わる―いわき発のベンチャー支援を絡めた論考―

 研究所副所長兼客員教授・一般社団法人麻布調査研究機構代表理事

 田部康喜

  東日本大震災後の企業のCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)活動は、被災地に対する単なる寄付ではなく、新しい持続的な産業を育てる方向に大きく変化している。キリンビールグループによる「キリン絆プロジェクト」は、持続的な農林水産業を育てる基本的な戦略を立てている。地元の特産物を掘り起こして、市場にどのような手法で投入すれば売れるのか、マーケティングの側面のノウハウを支援する。福島県産の梨を原料にした自社製品の飲料なども開発した。

 三菱商事復興支援財団は、郡山市でワイナリー設立を支援して、今春ロゼのスパークリングワインとシードルの初出荷にこぎつけた。三菱商事はぶとう栽培のボランティアに従業員を派遣した。CSRの対象の持続性に注目した活動として米国ではCSV(Creating Shared Value)という新概念が提唱されている。

 ■「1×2×3=6次産業」の発展

  「6次産業」の基本的な定義は、「1次産業としての農林漁業と2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業を総合的かつ一体的に推進を図り、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取り組み」(小林茂典『農産物流技術研究会年報』所収「6次産業化と流通システム」、二〇一四年)とされている。さらに、小林は具体的な「6次産業」の中身について「1、2、3次産業の連携によるバリューチェーンの構築を通じた農林水産物・食品の付加価値の向上」と、「農林水産業者が、加工や販売のノウハウを持つ2次・3次産業の事業者との連携等を図る」と表現している。1次産業×2次産業×3次産業=6次産業という方向性を打ち出したものである。

 「6次産業」にとって必要な要素は、民間の自主的あるいは自律的な起業に近い発想であり、「マネジメント」の観点が重要である。農林水産業を、地域のなかで「6次産業」によって成し遂げようとしている人々には、社会と個人に貢献しようとする「使命」の概念がある。

 ■グローカルな起業

  「いわき6次化協議会」は二〇一五年二月に正式に発足した。ファーム白石代表の白石長利さんが代表を務め、十三人で構成されている。

 スタートアップ資金の提供は「キリン絆プロジェクト」である。この支援事業は、岩手、宮城、福島の被災地に対して、地域の食文化と食産業の復興支援、子ども健康の維持などに対する支援、サッカーや祭りを通じた支援の三本柱で資金を投じた。支援先の選考では、企業のマネジメントつまり「使命」と、それが地域や個人に貢献するかどうか、資金提供に終わらずに事業が継続性を持っているかどうかの判断をしている。「民」の事業に「民」による支援が欠かせないのは、支援する側に回る「民」がマネジメントの概念を持っているからである。

 「いわき6次化協議会」には六千万円が援助された。この資金をもとに協議会は、小規模で量産(小ロット)ができる製造装置を購入してラボ(実験装置)と名付け、商品開発に取り組み始めた。白石さんは「小ロットで多品種の商品を開発して試験販売をしながら、売れ行きがよい商品は外部に委託して生産してもらえばいい」と語る。

 白石さんは、ラボの特性を生かして「ミニトマトのオリーブ漬」の商品化に成功し、ネット販売に乗り出した。地域の農産物を掘り起こして製品化する方向性が第一である。

 「6次産業」の商品の市場性は、商品の質つまり味覚や風味といった数値化がなかなか難しい壁をどう突破するかにかかっている。協議会でその役割を担っているメンバーが、地元で「Hagi フランス料理店」を経営する萩春朋氏である。協議会の商品第一号ともいえる、白石代表の生産物を使い、萩氏が監修した「シェフのトマトハンバーグ」弁当が、二〇一五年十一月に東京駅で販売された。「グローバル」と「ローカル」を合わせた造語である「グローカル」こそ、「6次産業」の将来のありかたの行方を示しているといえるだろう。

 ■NPO主導の地域起こし

  被災者支援をした地元NPOが、農業に乗り出す動きが出ている。震災後の耕作放棄地を放置しておいてはいけないのではないか、という地域の人々による気づきである。

 「いわきおてんとSUN企業組合」は二〇一三年二月に法人格をもって設立された。事業は四分野からなる。第一は、農作放棄地で有機栽培の綿を収穫してタオルなどの製品化を行う「福島オーガニックコットン」、第二は、太陽光発電を行う「いわきコミュニティ電力」、第三は、自然エネルギーを体験できるソーラを実装した特別自動車を使って各地で太陽光パネルの手作り教室などを開く「いわき自然エネルギー学校」、第四は、原発事故後に警戒区域となった富岡町や楢葉町などの視察や、先の三事業を体験できる「いわきスタディツアー」である。

 企業組合代表理事を務める吉田恵美子さんは一九九〇年十二月にNPOザ・ピープルの設立に参加した。ザ・ピープルは、震災が起きて5日後に、古着を被災者に届ける救援活動に入る。さらに「風評被害」によって農産物が売れなくなった状況をみて、首都圏で販売する活動も行った。そうしたなかでNPOの「JKSK(女性の活力を社会の活力に)」と交流が始まり、この縁で、オーガニックコットンの輸入や製品化にかかわってきた株式会社アバンティの渡邉智恵子さんと知り合う。

 吉田さんはオーガニックコットンに地域起こしの力をかけてみようかと考えるようになり、震災の翌年から事業に着手した。企業組合は、生産と商品の企画・販売を手掛けている。ブランドは、自分たちで考えた「ふくしま潮目」。いわき地域の豊かな自然のなかで暖流と寒流がぶつかり合う潮目、次にたくさんの人が集まる集合体の意味、そして、社会と時代を変える転換点の三つの意味が込められている。

 ■異業種から農業へ

  地域や個人に貢献することを「使命」とする経営者が、異業種である農業分野に進出することは新規性を感じさせる。しかし「マネジメント」の実践として考えるならば、建設業であろうが、農業法人であろうが、NPOであろうが、担い手の資格は十分である。

 農業法人「株式会社いわき遠野らぱん」の代表取締役・平子佳廣さんはもともと建設現場の鉄筋業の社長だった。公共事業削減が続いて売上高が減少し、異業種進出を考えた。地元農家を誘って農業法人を立ち上げたのである。

 「6次産業」が製品の製造に成功して立ち上がるときに壁になるブランディングと新規の販路の開拓に「マネジメント」の経験者である平子さんの知恵が生きている。最初に取り組んだのは地元のジネンジョ(トロロイモ)である。「山の神」というブランドをつけて、地元の杉材で長さ一㍍の木箱を作り、地元産の和紙で包んだ。価格は一本あたり一万円。日本橋の高島屋の外商部門に販売を委託すると、初年度三百本が完売した。その後三年ぐらいはこのペースで出荷したが、このサイズの供給が間に合わなくなった。そこで、ジネンジョを原材料に焼酎づくりに乗り出す。仲間と考えたブランドは「百千歳」。これも一本一万円で売り出すと三千百五十本が完売した。

 「ブランディングも難しいが、価格を決めるのも難しい。首都圏の高額所得層は、良いものなら高くても買うことを知った」と、平子さんは語る。

 ブランディングには「物語」が必要であることも、平子さんの口から普通の言葉のようについて出る。「コト消費」の時代だといわれる。買い物をするにしても、そのモノに物語がなければならない、というのが、日本のマーケティングの世界では常識になっている。

 ■地域金融の支援体制

  日本の金融界の再編は今、地方銀行に及んでいる。地方銀行トップである横浜銀行と、首都圏に店舗網を敷く東日本銀行は二〇一六年春をもって経営統合した。このような地域金融の担い手である地方銀行の再編は、地域において金融機能の役割が低下するという見方もある。

 その意味では、「6次産業」のような起業あるいはスモールビジネスの資金需要に応えているとは言えない。そこで、地銀や旧相互銀行である第二地方銀行が、信金を提供してファンドを組成し、ベンチャーキャピタルにその運営を任せる形が増えてきている。中小零細企業を顧客とする信用組合が、起業やスモールビジネスの支援のための子会社を設立して、自らの責任においてリスクマネーの投資に乗り出すケースもある。いわき信用組合が二〇一五年十月に発表した「磐城国地域振興ファンド」は、地域金融の常識を覆すファンドである。ファンドの資金提供は、起業やスモールビジネスに対して、百万円あるいはそれ以下での金額も念頭においている。しかも、経営相談や企業の経営戦略の立案も手助けする。

 「6次産業」のこれまでの論議に欠けているのは、資金の問題、金融論的な側面である。政府や地方自治体による補助金の助成があるゆえに、リスクマネーの観点が見落とされてきたのだと考える。いったん立ち上がって、商品化に成功した段階に至って、在庫リスクと抱えたり、大型の設備投資が必要になったりして、「6次産業」が飛躍するせっかくのチャンスを逃しかねない実態がある。

 いわき信用組合が自らファンドを運用してリスクをとる方式は、全国の信用組合としては先駆けで、業界では既に「いわきモデル」と言われている。

 「6次産業」の育成において、政府・地方自治体は、こうした地域金融のリスクマネーの投入の判断とともに、補助金のありかたを考えるべきではないか。二つの組み合わせがあって、「6次産業」がスタートアップから経営の発展段階に進める可能性が高まってくると考えるからである。

 

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