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BSプレミアム「植物男子ベランダ―」シーズン3

2016年6月16日

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都会のベランダは植物たちの小宇宙

主演の田口トモロヲがかもしだす不思議な世界

WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿    http://wedge.ismedia.jp/category/tv

 「そもそも俺には日記を書く習慣がない。小さな自己の毎日を書き残すことに意味を感じないからだ。だが、相手が植物となると違う。猛烈な欲望がわいてきて、なるべく正確に彼らの様子を写し取っておきたくなる」

  BSプレミアムの「植物男子ベランダ―」の原作である、「自己流園芸ベランダ派」のなかで、作者のいとうせいこうは、そう述べている。ベランダ―とは、ガーデニングをするガーデナーに対して、都会のマンションのベランダで植物を栽培する、作者の造語である。「植物男子~」は2013年に放映が始まって、4月からついにシーズン3(第1、2木曜午後11時15分~44分)に突入した。

 田口トモロヲ演じるベランダ―が、毎回ひとつの植物をめぐってその成長ぐあいを取り上げる。植物を眺めているようで、それは人生の本質をさりげなく綴っている。

 第4話「クレソンと弟子」(5月12日)は、ベランダ―のもとに弟子入りを志願する、20歳の若者の柊研一(村上虹郎)が現れる。居候となった、柊にベランダ―は植物に水のやり方から教える。

 「ほらほら、あんまりていねいに水をやっちゃだめだよ。こういう風に適当に」と。

言葉通りに適当に水を振り撒くベランダ―に、柊は唖然とする。

ベランダ―の今回の興味の焦点は、植物の根である。「そもそも根っことは何か?地上物ンの生命が終わった後も、地下ではひげもじゃなのでる」。

 弟子とともに、花屋に寄って、ひげの観察に適した植物を物色するが果たせずに、ベランダ―はクレソンの水耕栽培を思いつく。クレソンを手に入れる方法が、意表を突く。

 レストランでステーキを食べながら、付け合わせのクレソンを紙ナフキンに包んでシャツのポケットに隠すのである。

 ドラマは、田口トモロヲの語りで進行して、疑問を持つとカメラの方に向いて観る者に同意を求めているようにみえるのもおかしい。

 ついに、クレソンの根はペットボトルを使った容器のなかで大きくなって、別の容器が必要になる。

 ここで、「KING of Vegetable、クレソン」という曲目のラップと、学生服の男子学生や女子学生に扮した人々による乱舞である。「栄養満点クレソン!」「残さず食べる Baby!」……。クレソンが含む栄養素なども歌われる。

 植物を真剣に淡々とみつめるベランダ―と、ラップのギャップもまた、このドラマの魅力である。

 アクアショップでクレソン用の新たな大きな容器を、ベランダ―買い求めようとすると、小柄で太った、なまず店長(平田敦子)と、マネジャーの鉢須賀(山本剛史)が現れる。クイズに答えて、正解ならタダ、不正解なら10個買い上げる、という提案がなされる。

 クイズは、グルメ、映画、プロレスから選べる。ベランダ―は映画を選ぶ。

 質問は、SF映画「ブレードランナー」の原作とは?

 ベランダ―は、しまったという表情で答えに詰まる。弟子の柊は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」と正解を答える。ふたりはおおきな水槽を手にして店を去る。

 なにごとにも、まじめに取り組んで、それがどこか不思議な笑いとなる、いとうせいこうワールドをドラマは生かしている。

 原作は、基本的に新聞の連載をまとめたもので、植物をひとつずつ取り上げる1篇は短い。あたかも「徒然草」のようである。そこには、植物を通して、人間のさまざまな生き方が投影されているようである。まもなく訪れる梅雨とベランダ―のかかわりが綴られる。

 「ある意味、この時期は一年を通して最も難しい。ベランダ園芸家の腕が問われる季節と言えるだろう。

 なにしろ、ついこの間までは春を謳歌し、浮かれていたのである。それが急に雨がちになる。梅雨に備えて怠りなく気持ちを引き締めようとしている矢先に、走り梅雨となってしまう」

 ドラマに戻ろう。ベランダの作業を終えて、缶ビールを飲んでいるときに、弟子の柊がベランダ―のところにきた理由を打ち明ける。親の転勤で学校を頻繁に変わったために、友人ができずに、自宅で植物を育てていた、というのである。

 ベランダ―は、クレソンの根の話をしながら、柊にいう。

 「水だけであんなにでかくなって。ミネラルをすって光合成ができないので、葉は小さい。いつか鉢植えにすれば、葉っぱを茂らす日もくるから」と。

「ありがとうございました、師匠」と、柊は頭を下げて、ベランダ―のマンションを出ていくのだった。

 「植物男子~」は、深夜に見る者の心をとらえて、シリーズを延ばしてきたのだろう。ベランダ―を志す人も増えているだろう。

日本の都市は、欧米の都市に比べて境界線が曖昧である。世界的な建築家である槇文彦氏の説である。隣地と隣地をくっきりと分けるのではなく、その間に行き止まりであっても路地が形成される。街路を通ると、家々から塀を越えて樹木の枝や葉が伸びている。

都市の形がくっきりとはみえない。日本の都市の特徴を槇氏は「見えがくれする都市」と呼ぶ。

 ベランダ―は、都市が高層化しても、植物の栽培によって境界を曖昧にする伝統を引き継いでいるようである。

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