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新型コロナウイルスの偽情報

2020年6月1日

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政治経済情報誌「ELNEOS」6月号寄稿

 新型コロナウイルスに関する偽情報をSNで通じて受け取った人は多いと思う。

 筆者の記憶では、中国・武漢の病院に勤務する看護婦と称する人物からの予防法に関する情報と、日本国内の著名な病院の医師による医療崩壊の情報があった。

 リツイートに次ぐリツイートによって、既存のメディアでも取り上げられ偽情報であることが断定された。た。そもそも情報の発信者が、所属する組織を代表して発信できる立場ではないと推定されることから偽情報の疑いが濃い、と分析するのが広報パーソンをはじめとするプロの常識である。

 メディア史家である、京都大学教授の佐藤卓己氏は『流言のメディア史』(岩波新書・二〇一九年)のなかで、次のように「新型コロナウイルス時代」の今日を予言している。

「誤情報はすべて排除して正しい情報のみを残すべきだ、そうした主張は歴史上しばしば『表現の自由』を抑圧する権力側の口実としてりようされてきた。……『正しい情報』のみが伝えられた全体主義国家、たとえばナチ第三帝国であれ、ソビエト連邦であれ、それは流言にあふれた社会であった」

 「マスメディアの責任を追及していればよかった安楽な『読み』の時代はすでに終わり、一人ひとりが情報発信の責任を引き受ける『読み書き』の時代になっている。こうした現代のメディア・リテラシーの本質とは、あいまいな情報に耐える力である。この情報は間違っているかもしれないというあいまいな状況で思考を停止せず、それに耐えて最善を尽くすことは人間にしかできないことだからである」

 「新型コロナウイルス時代」の偽情報に対して、最善を尽くしているのは、欧州対外行動局(EEAS)である。この機関は、EUの外交機関の位置づけで、各国の外務・安全保障の上級代表によって構成されている。

 パンデミックに関する情報の波及の在り方や偽情報について、EEASは定期的に分析してリポートしている。

 偽情報の発信元として、ソ連と中国の存在が浮かび上がる。もとより両国はEEASに対して自らの行為を否定している。

・クレムリン派の情報源は「EUが新型コロナウイルスによって「解体」していると広めている。

・中国当局は、パンデミックに関する情報を統制し続けている。国境なき医師団(RSF)は当局による「統制と検閲」がなければ、おそらく現在の大流行を回避できた。

・中国の在イタリア大使館は、ツイッターによって新中国のハッシュタグのツイートをロボットによって何千も流した。イタリアにおいて、中国が友好的である、と考えている人が一月の一〇%から三月には五二%に上昇した要因と考えられる。

 先の新書の著作者である、佐藤氏が、あえて「流言」とタイトルにうたっているのは、戦前から終戦直後の怪文書やデマが歴史に少なからず影響を与えていることを実証しているからだ。フェイク・ニュースの泉源を学ぶ好著である。

          (以上です)

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