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ELNEOS 8月号 「ほまれもなく そしりもなく」 田部康喜 広報マンの攻防戦

 メディアが取り上げる経済記事について、日本経済新聞の報道が先行するつまり特ダネとなる「日経ファースト」について考えてみたい。

 ここでも、新聞記者出身である視点と、広報パーソンの視点のふたつを区別すると同時に、ふたつの視点が交錯するところに真相を求めたい。

 まず、特ダネとはなにか。一般的には、報道する事象がライバルに先行することをいう。

 世紀のスクープとなった、NHKによる、天皇陛下が生前譲位の意向を示されている報道が最近では群を抜いている。

 特ダネとは、このように情報をもたらしてくれた人物と、取材者が一対一の信頼感に基づいて、情報源を決して明らかにしない、と定義できる。

取材者に対して、チームのプレイングマネジャーであるキャップも、原稿を精査するデスクも原則として取材源が誰であるかは、聞かないものである。

 ところが、取材先が意図的に取材者に事案の詳細をレクチャーする、つまりリークする、その結果としてライバルに先行する場合がある。新聞記者時代に、私はこうした記事は、自分の基準として「特ダネ」とはカウントしない、と考えていた。

 ところが、そうではない、という考えもあるのだということも知っていた。

 ある日、同僚たちと会合を開いた際に、次のような発言があって、その場の空気がなんともいえぬ沈黙に包まれた。ある官庁の政策に関する記事の件であった。

「特ダネだったのに、デスクが一日寝かせたので、他紙に書かれてしまった」と。

 同僚の担当した官庁は複数社にリークしたのであろう。それでも、同僚は自分の記事を「特ダネ」という。リークは特ダネではない。

 ちょっと脇道に入って、官庁や企業はなぜリークをするのか。官庁ネタで多いのは、政府予算の概算要求が出そろう八月末にかけての時期が多い。

 予算獲得のために、与党の部会や財務省に説明する際に、大手紙の一面を飾った記事はそれなりの重みがあり、官僚が作った説明資料を簡にして要とする表現でまとめてあるので、予算折衝がやりやすい。

 それでは企業はなぜか。株式市場では、全国的なメディアふたつにその企業の情報が掲載あるいは放送された場合、その情報は公知のものとみなす。この基準に基づいて、企業の経営戦略からリークが発生する。

 経済報道において、経済専門紙である日経の優位性は、その人員の配置からライバルから卓越している。

 大手紙の流通担当がひとりあるいは複数にすぎないところに、消費産業部がある。日経に金融部があるのにたいして、他紙は証券と金融に複数の配置をしているにすぎない。

 ここに「日経ファースト」が生じる土壌がある。

 しかし、日経が取材の目的に定めた土俵が経済のすべてではない。日経の視点とは違った特ダネはたくさんある。こうした割り切りができない記者は、日経の背中を追うばかりで、その前に出られない。

          (この項続く)

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ELNEOS 「ほまれもなく そしりもなく」 田部康喜 広報マンの攻防戦

 プロ野球の福岡ソフトバンク・ホークスの快進撃が止まらない。本稿を執筆時点(六月十四日)のセパ交流戦のトップに立って、パリーグの戦績でも二位以下を大きく引き離している。

 ジャーナストの友人は、「あまりにも強すぎて面白くない」という。筆者の反論は、「戦後のプロ野球人気が沸騰したのは、巨人のV9時代だった。強いチームに相手が挑む時にファンが沸く」というものだ。

 ホークスの球史は、流通最大手だったダイエーが南海を買収したことにさかのぼる。ソフトバンクがダイエーから正式に譲渡を受けたのは、二〇〇四年十一月のことである。

 ここに至る裏面史を記すことは、プロ野球史の正伝には伝えられない外伝を残すことになるのではないかと考える。

 ソフトバンク・ホークス誕生の二年前のことである。オリックスの本拠地のネーミングライツを購入したトップが、宮内義彦オーナーの正体を受けて野球観戦をした。球場を埋め尽くしたファンの熱狂に触れたトップは、岐路にこう切り出した。

「プロ野球球団で買収できるところはないか」と。

 球界に詳しい友人やジャーナリストから、私はさっそく情報の収集にあたった。その結果は、のちに公になり、野球ファンや選手たちの反発を呼ぶ「一リーグ構想」だった。セパ十二球団のうち、ロッテとダイエー、オリックスと近鉄を合併して計十球団として、ふたつのリーグを統合するというものだった。

 こうした事情に詳しかった友人は、「本体の経営が悪化しているダイエーが球団を手放す可能性が最も高い」と断言した。

 球団買収の焦点は、ダイエー・ホークスに絞られた。譲渡の一年前、ダイエーが球団を売却するために、候補の企業に価格を打診して、入札(ビット)をした、との情報もあった。

交渉は機密性高く、確証にはいささか躊躇するが、大手飲料メーカーと広告代理店が争ったと聞いた。ただし、この時は最終的にダイエーが売却を止めることとなったという。

 経営が悪化したダイエーが、債権放棄と債権買い取りのために、政府の整理回収機構に救済を要請するのではないか、という観測報道がなされたのは二〇〇四年初秋のことである。

 休日に携帯電話が鳴って、トップに呼び出さると、いまは亡き側近の取締役とふたりで待っていた。トップは次のように命じるのだった。

「ダイエーが整理回収機構に再建を要請する前に球団の買収に名乗りを上げよう」と。企業買収には、意思の表明が第一である、という定石だった。

 この二日後にダイエー・ホークスの本拠地である福岡市と東京で、トップによる記者会見を開くことを決めた。広報部門をふたつに分けて、ひとつを福岡に先乗りさせた。

 広報部門は、社外に広範なネットワークを築ける、筆頭である。

 トップの情報収集の要望に応えるために助けてくれたのは、記者時代ではなく広報パーソンになってからの友人たちだった。

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都会のベランダは植物たちの小宇宙

主演の田口トモロヲがかもしだす不思議な世界

WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿    http://wedge.ismedia.jp/category/tv

 「そもそも俺には日記を書く習慣がない。小さな自己の毎日を書き残すことに意味を感じないからだ。だが、相手が植物となると違う。猛烈な欲望がわいてきて、なるべく正確に彼らの様子を写し取っておきたくなる」

  BSプレミアムの「植物男子ベランダ―」の原作である、「自己流園芸ベランダ派」のなかで、作者のいとうせいこうは、そう述べている。ベランダ―とは、ガーデニングをするガーデナーに対して、都会のマンションのベランダで植物を栽培する、作者の造語である。「植物男子~」は2013年に放映が始まって、4月からついにシーズン3(第1、2木曜午後11時15分~44分)に突入した。

 田口トモロヲ演じるベランダ―が、毎回ひとつの植物をめぐってその成長ぐあいを取り上げる。植物を眺めているようで、それは人生の本質をさりげなく綴っている。

 第4話「クレソンと弟子」(5月12日)は、ベランダ―のもとに弟子入りを志願する、20歳の若者の柊研一(村上虹郎)が現れる。居候となった、柊にベランダ―は植物に水のやり方から教える。

 「ほらほら、あんまりていねいに水をやっちゃだめだよ。こういう風に適当に」と。

言葉通りに適当に水を振り撒くベランダ―に、柊は唖然とする。

ベランダ―の今回の興味の焦点は、植物の根である。「そもそも根っことは何か?地上物ンの生命が終わった後も、地下ではひげもじゃなのでる」。

 弟子とともに、花屋に寄って、ひげの観察に適した植物を物色するが果たせずに、ベランダ―はクレソンの水耕栽培を思いつく。クレソンを手に入れる方法が、意表を突く。

 レストランでステーキを食べながら、付け合わせのクレソンを紙ナフキンに包んでシャツのポケットに隠すのである。

 ドラマは、田口トモロヲの語りで進行して、疑問を持つとカメラの方に向いて観る者に同意を求めているようにみえるのもおかしい。

 ついに、クレソンの根はペットボトルを使った容器のなかで大きくなって、別の容器が必要になる。

 ここで、「KING of Vegetable、クレソン」という曲目のラップと、学生服の男子学生や女子学生に扮した人々による乱舞である。「栄養満点クレソン!」「残さず食べる Baby!」……。クレソンが含む栄養素なども歌われる。

 植物を真剣に淡々とみつめるベランダ―と、ラップのギャップもまた、このドラマの魅力である。

 アクアショップでクレソン用の新たな大きな容器を、ベランダ―買い求めようとすると、小柄で太った、なまず店長(平田敦子)と、マネジャーの鉢須賀(山本剛史)が現れる。クイズに答えて、正解ならタダ、不正解なら10個買い上げる、という提案がなされる。

 クイズは、グルメ、映画、プロレスから選べる。ベランダ―は映画を選ぶ。

 質問は、SF映画「ブレードランナー」の原作とは?

 ベランダ―は、しまったという表情で答えに詰まる。弟子の柊は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」と正解を答える。ふたりはおおきな水槽を手にして店を去る。

 なにごとにも、まじめに取り組んで、それがどこか不思議な笑いとなる、いとうせいこうワールドをドラマは生かしている。

 原作は、基本的に新聞の連載をまとめたもので、植物をひとつずつ取り上げる1篇は短い。あたかも「徒然草」のようである。そこには、植物を通して、人間のさまざまな生き方が投影されているようである。まもなく訪れる梅雨とベランダ―のかかわりが綴られる。

 「ある意味、この時期は一年を通して最も難しい。ベランダ園芸家の腕が問われる季節と言えるだろう。

 なにしろ、ついこの間までは春を謳歌し、浮かれていたのである。それが急に雨がちになる。梅雨に備えて怠りなく気持ちを引き締めようとしている矢先に、走り梅雨となってしまう」

 ドラマに戻ろう。ベランダの作業を終えて、缶ビールを飲んでいるときに、弟子の柊がベランダ―のところにきた理由を打ち明ける。親の転勤で学校を頻繁に変わったために、友人ができずに、自宅で植物を育てていた、というのである。

 ベランダ―は、クレソンの根の話をしながら、柊にいう。

 「水だけであんなにでかくなって。ミネラルをすって光合成ができないので、葉は小さい。いつか鉢植えにすれば、葉っぱを茂らす日もくるから」と。

「ありがとうございました、師匠」と、柊は頭を下げて、ベランダ―のマンションを出ていくのだった。

 「植物男子~」は、深夜に見る者の心をとらえて、シリーズを延ばしてきたのだろう。ベランダ―を志す人も増えているだろう。

日本の都市は、欧米の都市に比べて境界線が曖昧である。世界的な建築家である槇文彦氏の説である。隣地と隣地をくっきりと分けるのではなく、その間に行き止まりであっても路地が形成される。街路を通ると、家々から塀を越えて樹木の枝や葉が伸びている。

都市の形がくっきりとはみえない。日本の都市の特徴を槇氏は「見えがくれする都市」と呼ぶ。

 ベランダ―は、都市が高層化しても、植物の栽培によって境界を曖昧にする伝統を引き継いでいるようである。

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寄付から持続性ある産業育成へ

フジサンケイビジネスアイ 高論卓説 寄稿。

 東京・表参道に近い国連大学本部の広場は、週末のファーマーズマーケットがすっかり風景になじんできた。全国各地から野菜やはちみつ、特産品の出店があり、いまでは外国人向けのガイドブックに紹介されるほどだ。

 そんな国連大学のセミナー室で10日に開かれた報告会は、広場の賑わいにふさわしい。東日本大震災後に、福島県いわき市にあるNPOのザ・ピープルが取り組んできた、有機栽培の木綿について、現地の栽培農家やこの活動を支援してきた企業と、ボランティアとして参加した人々が集まった。

 受付の入り口には、有機木綿を原料にした手ぬぐいやTシャツなどが展示、販売されていた。今春の種まきで5回目の栽培に入る。首都圏での報告会は初めてである。

 NPOの代表の吉田恵美子さんは、それまでの活動の中心だった、古着のリサイクルの延長線上で被災者に対して衣類などを提供した。その過程で農家が原子力発電所の事故による風評被害によって、生産物が売れなくなって耕作放棄地が広がる現状につき当たった。首都圏のボランティア団体との交流のなかで、有機木綿の存在を知り、いわき市での栽培を思い立った。地元の農家に栽培の経験者は皆無でゼロからのスタートだった。

 吉田さんは「地元の私たちが事業を持続させるために努力すると同時に、首都圏の企業やボランティアの方々の協力なくして、報告会を開くまでこぎつけることはできなかった」と、挨拶した。大手流通企業などが栽培の手伝いにボランティアを送ってきた。木綿畑の一部の運営費を出資するだけではなく、従業員を送ってくる銀行もあった。ボランティアの数は、延べ1万5000人に及ぶ。栽培地は、いわき市から隣町の広野町や南相馬市などにも広がっている。「ふくしま潮目」というブランドで、都内の大手百貨店で販売会を開くまでになった。

「木綿製品の企業の方から、コストや在庫についてアドバイスをもらったのが力になった」と、吉田さんは感謝する。

 東日本大震災後の企業のCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)活動は、被災地に対する単なる寄付ではなく、新しい持続的な産業を育てる方向に大きく変化している。キリンビールグループによる「キリン絆プロジェクト」は、持続的な農林水産業を育てる基本的な戦略を立てている。地元の特産物を掘り起こして、市場にどのような手法で投入すれば、売れるのか。マーケティングの側面のノウハウを支援する。福島県産の梨を原料にした自社製品の飲料なども開発した。

 三菱商事復興支援財団は、福島県郡山市でワイナリーの設立を支援して、今春ロゼのスパークリングワインとシードルの初出荷にこぎつけた。三菱商事はぶとう栽培のボランティアに従業員を派遣した。

 CSRの対象の持続性に注目した活動として、米国ではCSV(Creating Shared Value)という新たな概念が提唱されている。

 

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ELNEOS 「ほまれもなく そしりもなく」 田部康喜 広報マンの攻防戦

 三菱自動車工業が燃費の算出に不正を繰り返していた問題は、経営が息詰まる事態を迎えて、日産自動車による増資を受けて、実質的にその傘下に入ることになった。三菱グループの名門企業が独立性を失う岐路はどこにあったのか。

 同社が不正を明らかにした四月下旬、家電量販店から私宛に送られてきた書面からまずは説き起こしたい。

 拙稿を執筆しているノートPCの東芝製「dynabook」のバッテリーお一部に発熱して、発火する恐れがある、という内容だった。

 同封の東芝の説明書によれば、交換が必要かどうかの確認にはまず、バッテリーをはずして製造番号と型番をネットの判定サイトに入力する。もうひとつは、PCにアプリケーションを落として自動的に判定する。

 バッテリー、発熱、発火、交換の確認サイト……携帯電話会社の広報を担当していた一〇年前の記憶が蘇る。それは、コールセンターに入電した顧客からの一本の電話が端緒だった。携帯電話を充電中に発熱、発火して本体が黒こげになったというのである。

 社内の技術陣の検討によって、バッテリーの発熱、発火が疑われた。あの年は暑い夏だった。気候が事故を加速するとの見方もあった。

 製造していたのは、北欧のメーカーだった。経営層とともに、日本法人との原因究明の会議がもたれた。

 相手側は、「原因を調査中である」の一点張りであった。

 パワーポイントを使って、相手が説明していた一瞬、英文でバッテリーの発熱、発火の可能性を確認する援用のホームページが映し出された。相手方の表情にしまったという表情が浮かび、そのスライドは瞬間的に消えた。

 暑い夏が深刻な事故につながりかねないことを重大視していた、経営層は「メーカーにまかしておくわけにはいかない。自分たちで公表しよう」とつぶやいた。 「嘘をつくな!」と私は相手方をなじった。

 ここから、トップが堰を切ったように迅速な行動に出る。

 携帯電話のメーカーのトップに電話して、バッテリーが発熱、発火の原因であることを認めさせる。さらに、電池を製造していた日本のメーカーにも電話して、交換を急がせるように説得する。ここに至って、すでに水面下で進められていたバッテリーのリコールは、進展する。

 実にその数は、世界で四千六〇〇万個に上ったのである。

 三菱自工の燃費不正問題は、供給先の日産自動車からその数値に疑問が呈されたことから、発覚した。取締役社長兼CEОの相川哲郎氏が日産からの情報を知ったのは一カ月近く経ってからだった。

 消費者の利害にかかわる重大な瑕疵を正すのはトップの責任である。記者会見において、相川氏は「悪い情報をトップに上げる規律が徹底していなかった」と語った。トップが情報から疎外されていたことが、日産の傘下に入る運命が決まっていたといえるだろう。

 ところで、私のPCである。アプリによって交換の必要がわかり、専用のページで住所などを入力すると、一週間も経たずに新品が届いた。

 

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