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政治経済情報誌「ELNEOS」11月号寄稿

 関西電力の役員や幹部らが、高浜原子力発電所が立地している、高浜町の元助役から巨額の金品を受領した問題は、新たに設置された第三者委員会によって、調査がやり直されて年末までに報告書が出されることになった。

 高浜町にある建設会社の脱税事件かに端を発して、資金の流れが関電に行き着いた。

 関電の最初の第三者委員会が報告書を経営陣に挙げたのが昨年九月一一日のことだった。法的には問題がないとした、この報告書を根拠として、同社は取締役会にも諮らず、対外的に公表もしなかった。

 脱税事件がメディアにスクープされて、記者会見に追い込まれた経営トップは、元助役から誰にどのくらいの金品が渡ったのかも伏せたうえに、経営責任も明確にしなかった。

 企業の法務部門と広報部門は、レピュテーション・リスクを避ける役割を担う両輪である。法的に問題がなくとも、メディアの追及の要因となっている世間の「常識」は、法的責任の範囲を大きく超えている。

 ただし、ここでは関電の後方部門の非を鳴らすことが目的ではない。今回の事件は、原子力発電所という「パンドラの箱」が開いたのである。

  事件とは距離を置きながらも、原発を巡る利権の構造を見ていきたい。

 ヤクザ専門誌「実話時代」の編集長を務めたあと、ルポライターに転じた鈴木智彦氏は「ヤクザと原発 福島第一潜入記」(文藝春秋社、二〇一三年刊)のなかで、すでに原発という「パンドラの箱」に何が詰まっているのか、その構図を描いている。

 鈴木氏は、福島第一原子力発電所の事故直後から、作業員として構内の清掃、工事の準備に関わった。取材の通じて知り合ったヤクザのつてで原発の下請け企業に潜入した。ヤクザがかわている、作業員を手配する企業を見いだしたのだった。

 広域指定暴力団の三次団体の組長が証言する。

 「ただ、狙うのは新規工事限定だ。一発工事のほうがはるかにラクだし、ヤクザに向いている。面倒がないからな。民間会社なら定修(定期修理工事)、原発でいうなら定検(定期点検)ってのは2カ月ぐらいで終わってしまうし、ずっと営業しなきゃならないだろ。新規で入れれば最低2年ぐらい仕事が続く。その間はなにもせずに飯が食える」

 関電の最初の第三者委員会の報告書に元助役の発言について、社内で聴取した次のような下りがある。

 「(社員)自身やその家族の身体に危険を及ぼすことを示唆する恫喝として、『お前の家にダンプを突っ込ませる』などの発言があった。また、社内では過去の伝聞情報として、対応者が(元助役から)『お前にも娘があるだろう。娘がかわいくないのか?とすごまられた』」

 元助役の背景に何があるのか。メディアの追及が始まっている。関電の新しく設置された第三者委員会がどこまで迫れるか、は未知数である。

 関電の経営層は、元助役から受領した金品を個人的に保管していた、としている。「ふたりだけの秘密を共有しない」ことこそ、あらゆる勢力から経営を死守する要諦である。

          (以上です)

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  政治経済情報誌「ELNEOS」10月号寄稿

就職情報サイト「リクナビ」を運営する、リクルートキャリアの小林大三社長が、サイトの利用者である大学生の同意を得ずに「内定辞退率」を企業に販売していた問題で、記者会見を初めて開いたのは、八月二六日のことだった。

 政府の個人情報委員会が同日、リクルートキャリアに是正を勧告したのを機に行った。

「リクナビ」の内定辞退率にかかわる「DMPフォロー」サービスは七月末に一時停止、八月四日に廃止を決めていた。このサービスは、前年の学生の就職活動の状況のログと、翌年の就職本番の年におけるログを分析、比較して、その結果によっては「採用選考のプロセスが途絶える可能性がある」という情報を企業に提供するものである。

学生の同意を取っていなかった点から、個人情報委員会が「リクナビ」に報告と是正を求めていたことが、メディアの報道で明らかになったのは、八月初めのことである。

トップの記者会見まで一カ月ほどの長きにわたる期間のなかで、運営会社の広報部門が発信した、ニュース・リリースは八月一日付の当該のサービスの一時休止を知らせる「当社サービスに関する、一部報道につきまして」という一文だけである。

リリースは次のように述べる。

「本サービスの提供にあたっては、各種法令にも照らしつつ、学生の個人情報促進を最優先にサービスの設計や各種の規約を整備してまいりました。しかしながら、昨今では個人情報保護に関する社会認識も大きく変化しております」

個人情報について、本人の同意を得ずに分析、その結果を販売することは、個人情報の取扱いに関する従来からの「常識」であり、リリースがいう「個人情報保護に関する社会認識も大きく変化」したために批判にさらされたのではない。

「リクナビ」はいまや就職活動をするほんとんどの学生にとって、自分の個人情報を登録して、採用企業の動向を調べる必須のツールである。

サイトにおける自分の就職活動が、「内定辞退率」として、企業に売られていた衝撃は計り知れない。

リクルートホールディング傘下の企業が「常識」をいとも簡単に超えていく要因は、昭和から平成にかけて政官財を揺さぶった「リクルート事件」の根源をいまだに清算できていないところにあるのではないか。

創業者の江副浩正氏は、上場が近く株価の上昇が期待できる、子会社の株式を政官財にばらまいた。ファイナンス会社の貸し付けをセットにした。さらに、政治献金も巨額にのぼった。「常識」から考えれば、危うい取引である。リクルート報道(朝日新聞、一九八九年)によると、将来の首相候補といわれていた、元官房長官の藤波孝生氏には、一万二〇〇〇株と四〇〇〇万円以上の献金が、宮沢喜一元蔵相には一万株など。

リクルートホールディングスは、「リクルート事件」を教訓として、リスクマネジメント委員会やコンプライアンス委員会の制度を整えている。後者の委員長は、代表取締役社長兼CEОの峰岸真澄氏である。「リクナビ事件」の真相の追及が待たれる。

           (以上です)

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SankeiBiz  高論卓説 2018年8月30日 投稿

 フィンランドの各地に延びる国鉄の発着地である、ヘルシンキ中央駅から徒歩で2分ほどの距離にヘルシンキ中央図書館(Oodi)はある。ガラスと木材を使った斬新なデザインの3階建てのOodiは、2018年末に開設された。欧米や日本など、都市デザインや起業政策の専門家が、視察に押し寄せている。最上階の図書フロアーは、サッカー場をひと回り小さくした広さがあり、書架が途切れると、床は緩やかに坂のように上り勾配となって、若者たちが幅の広い階段に寝そべって読書をしている。起業する若者たちを支援しているのが、2階のワークステーションフロアである。3Dプリンターを利用して玩具のロボットを組み立てたり、大型プリンターを使って新しいデザインの布地を試作したりしているチーム……

 北欧の人口約550万人の福祉国家は、世界で初めて女性にも被選挙権を認めた成果を持ち、男女共同社会や、OECDによる生徒の学習到達度調査(PISA)の高い水準から教育制度に注目が集まったこともある。Oodiはそうした、福祉国家の実験の歴史に連なる。

EUに1995年に加盟、99年にはユーロを導入した、フィンランドは当初、ガラ系携帯電話で世界を席巻したノキアなどの工業と、農林産業のバランスがとれた「欧州の優等生」だった。ノキアの衰退やリーマン・ショック受けて、「欧州の病人」といわれる。

グローバル化によって格差が拡大し、高齢化が福祉国家を揺さぶる。政府純債務の対GDP比は2014年からEU基準の60%を上回って推移している。ジニ係数(1に近いほど格差が大きい、2016年)は0.25と国別では38位だが、上昇傾向にある。人口に占める65歳以上の高齢者(2018年)は、5位の21.6%である。

フィンランドが福祉政策の抜本的な改革のひとつの手段として18年から、実験に取りかかったのが、ベイシック・インカム(BI・無条件給付の基本所得)である。同志社大学経済学部教授の山森亮さんによると「現行制度がもつ、収入が途絶えたときの生活保障の基礎部分にあたる。基礎年金や雇用保険、生活保護の大部分は廃止されてベーシック・インカムに置き換わる」。給付について行政の審査が伴わない、無条件かつ個人を対象とする。

世界で初めての国規模の実験は、失業者から抽出した2000人に対して、2年間にわたって毎月€560(約6万5000円)を支給した。フィンランド社会保険庁(Kela)19年2月に公表した中間報告によると、受給者の変化を非受給者と比べると、健康感は増し、ストレスは減少している。しかし、BIの主要は目的である、安心して仕事を探せるので就労率が高まる、という想定は顕著に表れなかった。就労者が増加することによる、福祉予算の縮小は実現できないことになる。Kelaは、20年の最終報告書の作成までに国民的な議論の高まりを要望している。

「TheEconomist」の調査部門による、「政治民主主義度」の国別ランキングで6位を誇る国民の判断が、BIの世界的な成り行きを決めるといえそうだ。                            (以上です)

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企業の分析力

2019年9月19日

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政治経済情報誌「ELNEOS」9月号寄稿

 「米中新冷戦」は、米国が中国製品に対する制裁関税第四弾において、スマートフォンや玩具など一部五五五品目の課税が一二月に先送りされた。

 米中の制裁関税合戦の行方は、日本の企業の進路を大きく左右する。

 企業の情報分析力が問われる。インテリジェンスの世界においては、公開情報が八割、人的な情報収集であるヒューミリエントが二割といわれる。

 企業において、公開情報の収集にあたるのは、いうまでもなく広報部門である。官公庁の情報を収集する、渉外部門の情報収集能力も重要である。

 「米中新冷戦」時代の日本の企業戦略を占ううえで、携帯電話会社による中国のファーウェー社の新型スマートフォンの導入は、大きな試金石である。

 いうまでもなく、米中の関税の制裁合戦の端緒は、ファーウェーの通信機器による、中国政府のサイバー攻撃すなわち違法な情報収集にあった。FBIなどの調査を受けて、米国政府は二〇一八夏、ファーウェーとZTEの製品を政府調達から外すことを決めた。

 KDDIとソフトバンクは、ファーウェーの新型スマートフォンを販売する方向である。これに対して、NTTの澤田純社長は「米中の状況が厳しい現状において、販売再開はお客様に迷惑をかけるのではないか」と、両社の対応に疑問を呈した。グループのドコモは、ファーウェーの端末の予約を停止したままである。

 スマートフォンの製造のキーのひとつは、基本ソフト(ОS)である。ファーウェーはグーグルのアンドロイドである。トランプ政権は一時、アンドロイドの提供の停止を命じる意向を示した。

 もうひとつのキーは、スマートフォンに組み込まれる半導体の設計である。これについては、ソフトバンクグループのアーム社がほぼ世界の市場のほとんどを握っている。アーム社はすでに、トランプ政権の意向に従って、ファーウェーからの受注を停止した。

 ふたつの側面から、苦境に立たされているファーウェーは、独自のОSと半導体の製造を急いでいる。

 トランプ政権で新設された国家通商会議のトップに就任した、対中強硬派のピーター・ナヴァロはカリフォルニア大学アーバイン校教授時代の著作「米中もし戦わば」(二〇一六年、文藝春秋社刊、赤根洋子訳)のなかで、米国の製造業が対中貿易において真っ二つに分裂している、と指摘している。

 「一方の側には、中国の違法な輸出補助金によって大打撃を被っている無数の中小企業がある。……アメリカに本部を置く一握りの多国籍大企業が存在する。これらの大企業は生産拠点を中国に移し、製品をアメリカ市場に輸出することによって、中国の違法な輸出補助金や搾取労働や税金の抜け穴や大甘な環境規制を利用して大儲けしている」と。ナヴァロは、中国による通貨操作を止めさせることと、相殺関税についても論じている。トランプ政権は八月、中国を「為替操作国」に認定した。

グーグルはアンドロイドのファーウェーに対する供与について、水面下でトランプ政権と綱引きをしているのは間違いない。GAFAのロビイングの大きな課題のひとつである。ファーウェーの新型スマートフォンについて、NTTとKDDI・ソフトバンク分かれた判断の成否はまもなくわかる。           (以上です)

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政治意識の断裂

2019年8月16日

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政治経済情報誌「ELNEOS」8月号寄稿

 参議院選挙は、本稿執筆時点で新聞各社の終盤の情勢調査が明らかになり、与党と維新などの改憲勢力は、参院の発議に必要な三分の二に迫る勢いである。「安倍一強」に揺るぎはない。

 今回の選挙戦の報道のなかで、若者の自民党と政権に対する支持率の高さに多くの紙面が割かれたようにみえる。

 東京新聞は七月一日付の「若者の自民支持率はなぜ高い」のタイトルを掲げた。二〇一七年衆議院選挙における、共同通信の出口調査の結果として、一〇代が三九・九%、二〇代が四〇・六%と、全年齢層の三六%を上回っている事実をあげる。複数の大学生のインタビューを通じた、自民党優位の要因として「とりあえず現状維持」と結論づける。

 日経新聞は同月六日付「政権支持 二〇代は七割」の刺激的な見出しで報じた。同社の六月の世論調査の結果である。六〇歳以上の支持率は四六%である。「これまで日本は欧米ほど世代間の分断は目立っていなかった。政権支持の背景を探ると、新たな兆しがみえてくる」としている。

 早稲田大学社会科学総合学術院の遠藤昌久准教授と同大政治経済学術院のウィーリー・ジョウ准教授による最新刊の「イデオロギーと日本政治―世代で異なる『保守』と『革新』」(新泉社刊)は、政治信条の分断に関する今後の議論の出発点となる分析である。論壇のなかで高い評価を得ている。

 政治と経済の関係について、企業のなかで最も鋭敏であるべき組織は、広報部門である。政権の政策によって、企業行動は変化を求められる。与党の支持母体について、「ファクトフルネス」な情報をメディアの報道のなかからすくい取って、経営層に上げなければならない。

 「イデオロギーと日本政治」は次のように述べる。

「学術的にもジャーナリスティックにも共有されてきた、政党や政権に関する保守・革新イデオロギー上の相対的な位置への合意は、中高年の有権者の心の中には存在しているが、過去30年間に有権者となった若い世代にはいまや適用できない」

 保守・革新イデオロギー上の位置について、12年の衆院選挙のウェブ調査の結果を引用して「40代以下の若い有権者が今日の日本政治において最も『革新』側に位置していると考えているのは、共産党ではなく、日本維新の会やみんなの党といった新党であった。これらの政党は規制緩和や、より積極的な外交政策を支持しており、他のコンテクストでは保守や右派として考えられているにもかかわらず、である」

 高齢者と若者層の政治意識の断裂について、同著は対立軸として「保守・リベラリズム」とともに、「改革志向」というキーワードを提起している。両社を座標軸にとると、50歳以上では、」自民党が保守でありながら改革志向はトップである。共産党がリベラルのトップ、民進党が続く。両党ともに改革志向の側面で公明党と日本維新の会に及ばない。

 49歳以下では、改革志向のトップが日本維新の会であり、自民党が続く。共産党は保守的なトップの政党であり、改革志向は最低である。「維新は『革新』、共産は『保守』」という政治意識と、自民党は「改革派」である、という若者の政治意識が参院選の結果を左右する。

        (以上です)

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