「BBC WORLD NEWS」は、米ヤフーの経営立て直しを報じている。ヤフーはどこへ行く。グーグルやソーシャル・ネットワーク・サービスとの競争が続くことを指摘して、ニューヨーク市立大学の経営学者は、厳しいコメントをする。キャスターは、ヤフーの株価のグラフを背にして、CEOの交代後も下落傾向が続いている事実を告げる。
BBCそして、CNN――CS放送のサービスに加入すれば、英語のニュースは、自宅の書斎に入ってくる。タブレットで無料のアプリケーションを「購入」すれば、FRANCE24と中東のアルジャジーラの英語放送が、膝の上に。
ニュース戦争のなかで、放送局はかつてないほどに、競争にさらされている。
読者のみなさまに読んでいただこうと、キーボードをたたいているいま、2012年4月17日14:50――ついさきほどまで、録画を観ていた前日夜のニュースショーが、本日のテーマである。
テレビ朝日の「報道ステーション」(報ステ)は、ビデオリサーチが公表している視聴率の報道部門10傑のなかで、NHKのニュース番組を除いて唯一民放として入っている。1985 年10月に始まった、前身の「ニュースステーション」から続く老舗番組が健在である。
報ステに隙はないのか。あるとすればそれはなにか。
そのヒントのひとつは、民放の夕方のニュース番組のなかにひそんでいるように考える。夜のニュース部門では、報ステのテレ朝がかろうじて首位を守っているが、夕方のニュース部門では、このところ、日本テレビの「news every.」が独走している。テレ朝は顔色を失っている。
ニュース部門の独自取材、その裏付けとなる報道局の体制が最終的には、ニュース戦争の帰趨を決すると筆者は考える。民放キー局のなかで、テレ朝のニュース部門は、親会社の新聞社に依存するところがあまりにも大きい。
「報道のTBS」とかつていわれた同局は、報道局のなかにまっさきに経済部を創設し、日本テレビも続き、フジテレビも、報道局の体制つまり取材網を永田町の政治村や、霞が関の官庁街に確実に拡大してきた。テレ朝の取材網の手薄さは隠しようもない。
2012年4月16日の報ステを観る。この日のメインの特集は、北朝鮮とシリア、番組のプロデューサーの力点はこのふたつにあったようにみえる。
北朝鮮の政権継承の式典に特派員を派遣するとともに、独自の批判的な視点をいれよう、という意図はうなずける。北朝鮮の地方に住む女性との電話による取材の音声である。特別の配給があったことや、衛星打ち上げというミサイル発射の失敗に対する反応などについて、その女性は語る。
この取材の主体は誰か。画面の片隅に「アジアプレス」の表示があらわれる。優れたフリーのジャーナリストの集団である。代表の石丸次郎が北朝鮮の内部について語る。北朝鮮の内部に情報網を築いてきたことに、敬意を表する。
しかしながら、報ステの特集のありようはどうであろうか。アジアプレスの取材と、報ステなかんずく、テレ朝の報道局がどのように取材に関与したのか、あいまいなままに放映された印象が強い。
文章でいうならば、引用と自説の区別がついていないのである。
この日の目玉ともいえる、もうひとつの特集もそうだ。内戦状態のシリアに潜入したジャーナリストの遠藤正雄のリポートである。トルコ側から雪山を踏破して国境を越えた遠藤に賛辞を惜しまない。
遠藤の取材は、反政府軍が勢力下に収めた地域のルポルタージュである。政府軍によって、弟を殺された兄がこの反政府軍に加わるエピソードはすさまじい。
特集のコアに遠藤のリポートを据えるとしても、ジャーナリズムの観点からいえば、シリア情勢の最近の動きと方向性について、テレ朝は客観的な視点をもっと加えなければない。
この日、フジテレビの「LIVE2012 News Japan」(ニュースジャパン)のトップニュースは、北朝鮮の人工衛星という名目で発射したミサイルについて、日本政府の情報収集が遅れた、とされる問題だった。フジの報道部門は、一連の事態に政府の各部署がどのように動いたか、首相や防衛相にどのような報告がなされたか――時系列で書き留めた政府内の機密文書を手に入れて、ニュースジャパンは報じたのである。
ニュースステーションが報ステに衣替えして、古舘伊知郎が起用されたとき、新番組の手本とされたのは、当時朝日新聞の第3面にほぼ毎日掲載された「時時刻刻」という特集だった。事件や事故、政局などをドキュメンタリーのように、登場人物や事象を追うものだった。
凝縮された事実を積み重ねるためには、取材にかける人とモノ、そしてカネがかかる。放送局にあって、報道部門はカネ食い虫とされるが、報道の信頼性はその放送局のブランドを形成する大きな要因である。
テレ朝は、2012年3月期決算で、放送収入つまり不動産収入などを除いた売上高が、開局から初めてTBSを抜いて、キー局3位に躍り出た。深夜帯のバラエティー番組が貢献したという。新聞社の桎梏から報道部門の自立が図られず、その地位を落とすことがないことを祈るばかりである。 (敬称略)
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