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音楽配信のパラダイムシフトがライバルの提携に

2015年8月29日

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有線放送のトップUSEN 2位のキャンシステムに出資と貸付

  Daily Daimond寄稿。週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

 飲食店などの店舗や家庭に音楽を配信する、有線放送業界でトップのUSENと2位のキャンシステムが資本出資と貸付で合意した。USEN側からみると包括的な資本業務提携である。

  両社はこれまで業界で激しい営業合戦を繰り広げてきた。ときには中傷合戦とも受け取られかねない争いだった。それだけに、両社の提携は、有線業界のみならず音楽配信事業の世界で驚きをもって迎えられている。

  USENは、キャンシステムの株式の第三者割当増資に応じる形で、10%相当を取得する。金額は非公表である。振り込み期日は8月26日の予定である。

 さらに、9月1日の振り込み予定で、USENはキャンシステムに対して計35億7000万円を貸し付ける。

  キャンシステムは、資金を音楽配信のデジタル化や、音楽配信を有線ではない衛星放送経由にする新たな投資をおこなう、としている。こうした分野では、USENが先行しており、そのノウハウを得たい考えだ。

  両社の激しい戦いの歴史を振り返るとき、業界関係者ならずとも、今回の提携は意外性に富んでいるようにみえる。

  東京を発祥の地とするキャンシステムと、前身の大阪有線放送であるUSENは創立期がほぼ同じ1960年代初めで、全国制覇を目指して激突したのである。

 それぞれの創業者である、キャンシステムの現会長の工藤宏氏もUSENの故宇野元忠氏も、個性的かつエネルギッシュな経営者だった。

  両社が争ったのは、電柱への有線を張り巡らす競争だった。大阪有線は創業後40年間、電柱使用料と道路占有料を支払っていない、というキャンシステムの主張だった。いわゆる無断のケーブル敷設問題として、社会的な話題にもなった。

 これに対して、キャンシステムは電柱使用料と道路占有料を支払い続けたとしている。

  この「40年戦争」の軍配は、USENに上がった。この間に地方の有線音楽配信会社が200社余りも廃業した。この業界でUSENは圧倒的なシェアを獲得した。

  デジタル化による業界の変化にいかに対応していくか。USEN vs. キャンシステムの戦いと、今回の提携劇は他の業界にとっても他人事ではない。

  あらゆるモノがインターネットをつながる「I to T(Internet of Things)」時代のパラダイムシフトがいまや幕を上げようとしている。

  三洋電機がかつて、アップルなどに先駆けて「iTunes」のような仕組みを構想していた、といわれる。シャープも電子書籍リーダーの機器を考えていたともいう。しかしながら、実現化に躊躇しているうちに、インターネットのスピードは彼らを追い抜いてしまったのである。

  USENは現在の会長である、宇野康秀氏のもとで、有線放送会社としてはいち早くインターネット事業に乗り出したのである。

  2001年3月には、光ファイバーによるブロードバンドサービスを東京都世田谷と渋谷区の一部で開始した。2007年6月にはテレビ向けの動画配信サービスの「ギャオネクスト(現・「U-NEXT」)を、翌年春には、インターネットの動画配信を受託する「GyaO STREA」を始めた。

  今回の提携先であるキャンシステムの売上高について、帝国データバンクの会社情報をみると、2015年2月期にかけて、過去6期にわたって売上高が漸減している。

  キャンシステムも、インターネット配信については後進ながら、衛星放送経由の音楽配信も行っている。

  有線放送業界は、インターネットを通じた音楽配信の脅威にさらされている。スマートフォン向けの配信サービスは月額の定額制が一般的になろうとしている。有線放送会社と契約しなくても、スマートフォンとスピーカーをつなげば、格安で音楽を楽しめる時代となった。

  USENにとっても、今回の資本提携はこうしたパラダイムシフトを念頭に置いた方策だったろう。ブロードバンドサービスに切り込んでいった時のように、新たな地平を切り拓いていけるかどうか。会長である宇野氏の今後の戦略に、ネット業界の関心が高まっている。

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