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日経の英FT買収の成否

2015年8月19日

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電通、共同通信が着実に進める「国際化」が照らし出す

 Daily Daimond寄稿。週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

 日本経済新聞社が、英国の有力紙ファイナンシャル・タイムズ(FT)を発行するFTグループを買収することで、親会社のピアソンと合意したことは、さまざまな面から論議されている。日本の新聞業界の将来性とからめて、その成否に焦点が当たっているようである。

  ここでは、電通と共同通信グループが実は着実に進めている、国際化の動きを追うことによって、今回の日経による買収を考えてみたい。

 日経をめぐる論議のなかでは、日本のメディアが国境を越えていくことに対して、いささか自虐的な評価が多い。そうした見方が一方的過ぎるのではないだろうか。

  電通が2012年夏に買収を発表し、翌年の3月に100%子会社として傘下に治めた、英国の広告大手・イージスのケースと、その出資の規模は小さいが、共同通信グループが2011年秋に傘下に治めた、アジア情報の配信会社であるエヌ・エヌ・エーである。

  いずれも、両社の「国際戦略」の大きな枠組みのなかで、出資が行われていることが重要である。日経本紙は、FT買収について、アジアと欧米の経済情報を補完するとともに、グローバルなメディア競争に勝つことが目標である、と解説している。

 ただ、これでは一般的な買収目的を示したに過ぎず、日経の国際戦略ははっきりとみえてこない。そうした戦略を隠しているのか、あるいはまったくないか、のいずれかである。前者であればよいのだが、企業の国際戦略を心配するのは余計なお世話かもしれない。

  電通はイージスの買収によって、それ以前とは経営内容が一変した。国内を中心とする売上高は、2006年3月期の連結決算において初めて2兆円を超えた。しかしながらその後は、リーマン・ショックの影響などで、大台を超えることが難しくなった。そもそも国内の広告市場は、6兆円程度であるから、電通が経営を拡大するためには、国内の大手を買収するか海外に進出するかの選択肢しかなかったのである。

  メディアがその広告の代理店である、経営について報道することは少ない。イージス買収から2年余りが経過して、その成果はどうなっているだろうか。

 2015年3月期の連結決算における売上高は、4兆6423億円、営業利益は1323億円に達している。従業員の国内外別の人員をみると、国内が1万6000人、海外が2万7000人となり、国際企業といえるだろう。

  イージス買収後に、その海外に関する情報を頼りにして、電通は海外の広告会社を次々に買収、出資していく。

  今年6月には、英国でインターネット通販の支援事業をてがける、eコメラ者を買収。ポーランドのネット広告会社のマーケティング・ウィザーズ社も買収した。

 今春には、米国の調査会社で消費者の行動分析をする、フォーブス・コンサルティングを買収。電通の海外企業の買収、出資は、イージスを買収してから30社を超えている。

  インターネット広告分野に対する戦略的な投資とともに、世界的な広告代理店としてのネットワークを構築する戦略は、鮮明である。

 ギリシャやカナダ、南アフリカ、ナイジェリアなど、イージスの本拠である欧州にとどまらない。

  共同通信グループが、アジアの経済情報を中心とする、エヌ・エヌ・エーの筆頭株主として、75%以上の株主を取得したことも、国際戦略のなかにある。

 エヌ・エヌ・エーは、1989年に香港で創業し、アジア各地に拠点を配置していった。当初はその地域の情報を進出してきた、日本企業に配信することから業務を始めた。

 現在は、北京、デリー、シンガポールなど、15カ国・地域に取材網を張って、1日当たり平均300本の記事を配信している。

 共同通信は、世界各地に取材拠点を配する通信会社である。エヌ・エヌ・エーは、それよりも地元の細かな、しかし企業や行政機関にとって重要な情報を配信して、保管している。各地の拠点には、現地の言語に堪能な記者を原則として配置している。

  エヌ・エヌ・エーは、共同通信の本社内にオフィスを置いて、共同通信の世界戦略を担っている。

  日経の喜多恒雄会長は、FTの買収について、以下のようなコメントを発表した。

 「FTという世界で最も栄えある報道機関をパートナーに迎えることを誇りに思います。我々は報道の指名を共有しており、世界経済に貢献したいと考えています」

  記者会見では、「(FTを)毎日眺めていた」と語っている。

  FTの買収が日経にとって、「名誉」ではなく、「世界戦略」の一環であることがわかるとき、その成否の判断ができるのだろう。              

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