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テレビ視聴がついに「短時間化」

2015年8月25日

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キー局の無料視聴戦略は食い止められるか ネットフリックスの成否は?

Daily Daimond寄稿。週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

 テレビをほとんどまったく見ない層が拡大し、かつ視聴時間が短時間にすぎない層も増えている。――NHK放送文化研究所が7月初めにまとめた「日本人とテレビ 2015」調査によると、1985年以降初めて、「短時間化」する傾向に転じた。

  さらに、2015年度に入ってから、調査対象の世帯のうち視聴している割合を示す「世帯視聴率」(HUT)が、かつてない水準で急落した。

  放送業界の危機感は高まるばかりである。今秋には世界最大のインターネット映像配信企業である、ネットフリックスが日本でサービスを開始する。

 キー局は今秋から、視聴者を拡大するためにインターネットを通じた無料視聴サービスを拡大する。

  新聞や雑誌、ラジオがすでに直面した読者、視聴者の急減と、テレビもどう対応するのか。キー局の反転攻勢はできるだろうか。

  「日本人とテレビ 2015」調査は、5年前の2010年調査と比較している。1日に「ほとんど、まったく見ない」層が全体の4%から6%に増加した。30分から2時間みる「短時間」層が35%から38%に増えた。

 長時間見る層は減る傾向にある。3時間の「普通」層は21%から19%に減少した。4時間以上の「長時間」層は40%から37%に。

  放送業界が購買層としてCMの効果を強調している、20歳代から40歳代で「ほとんど、まったく見ない」層が急増していることは、業界の経営を揺るがす。

 20歳代では、5年前の倍の16%となり、30歳代では8%から13%へ。40代も倍増して6%となった。

  放送業界のなかで、今年度に入ってからHUTをめぐって起きている「異変」を裏付けるものである。4月と5月の平均HUTが前年度から2ポイントも下落したのである。過去の年度では1ポイント未満であった。キー局全体で62%を切る水準になった。

 広告収入の水準を決める数値だけに、今年度が走り出した段階での急落は、放送業界にとって衝撃であった。

 

 日本の放送史は、一昨年還暦を経過して新たな歴史を刻み始めている。今秋のネットフリックスの日本上陸と、キー局の無料配信の拡充は大きな転機となりそうだ。

  ネットフリックスは、既存の映像だけではなく独自制作の映像も配信している。サービスは約50カ国で展開し、加入者は6200万人以上に及ぶ。料金は月額制度、米国では3段階になっている。最上位は11.99ドルである。

  日本でのライバルは、ネット配信の「ひかりTV」や衛星多チャンネルの「スカイパーフェクト」とみられる。しかし、視聴時間の獲得競争という角度から眺めれば、キー局も傍観はできない。

  フジテレビはまっさきに、ネットフリックスと提携した。両社で独自の番組を制作する方向だ。ネットフリックスは他のキー局にも、同様の提携を働きかけている。

 米国ではケーブルテレビのサービスが一般的で、ネットフリックスは新たなチャンネルのひとつとして契約を増やしている、という見方がある。日本では地上波テレビが無料で視聴できることから、ネットフリックスの契約者の開拓は難しいのではないか、という見方もある。

  キー局としては、無料・広告モデルの経営の基盤として、視聴者の獲得に戦略を練らなければならない。

  在京の民放5社は、今秋の番組改編時期に合わせて、合同のサイトで無料の配信を手がける。地上波で流している番組の著作権の処理などが必要になり、かつ各社の無料配信に対する姿勢の強弱があることから、提供する番組の分野には特徴がでるのではないか、とみられている。

  ライバル同士がネットで協業する例としては、新聞業界で朝日、日経、読売が共通サイト「ANY」が思い出される。新聞の読み比べ、をキャッチコピーにして、2008年に始められ2012年春に閉鎖された。

  民放5社の共通サイトの成否はこれからだ。しかし、新聞の例からはいずれ再び、個別の配信に戻る可能性がある。

 その意味では、東京ローカル局のMXTVが7月から、アプリを利用した番組同時配信を始めたことが注目される。

 MXは小回りの利いた映像配信サービスでは、業界のトップを走ってきたテレビ局である。発足当時にデジタル配信機器を整備した。ポッドキャストも業界で最も早い。

  映像の世紀である20世紀にメディアのトップに立った、テレビはいま厳しい経営状況のなかから新しい道を見出せるだろうか。

 

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