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出版取次・準大手の栗田出版販売が倒産

2015年8月17日

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出版業界はポスト・スマフォのビジネスモデルを見出せるか

   Daily Daimond寄稿。週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

 出版取次業の準大手である栗田出版販売が6月26日に、東京地方裁判所に民事再生法の手続きの開始を申請した。帝国データバンクによると、負債の推定額は約134億9600万円。

  書籍や雑誌を書店に流通させると同時に、出版物の販売代金を前もって出版社に支払う、いわば金融機能によって、支えてきた取次業の中堅企業が倒産したことは、改めて出版業界のビジネスモデルの再考を迫る。

  栗田出版販売は、大阪屋に次いで業界4位。1918年創業の老舗で、取扱書籍は文庫本から月刊誌、雑誌、一般書籍など幅広い分野を手がけていた。上位の取次と比べた特色は、中小や零細の書店を取引先に開拓する道を歩んできた。

 過去には1991年10月期に年間売上高が、約701億7900万円に及んでいた。しかし最近は、14年9月期(97年に決算期を変更)に約329億3100万円と半分の水準を切るまでになっていた。

  大阪屋が経営悪化から、一昨年に楽天などの増資を仰いだのと、今回の栗田出版販売の倒産の構造は同じである。書籍と雑誌の売上高が漸減傾向をたどっているうえに、スマートフォンやタブレット型端末の普及が進むなかで、コミックなどを中心として電子版が「紙」に置き換わっているからだ。

  栗田出版販売の再建にあたっては、すでに業界首位の日本出版販売グループの出版共同流通が、スポンサー企業として手をあげる方向である。さらに、大阪屋が当面、仕入れと返本業務を代行する。いずれは、大阪屋と経営統合が図られるとみられている。

  スマートフォンやタブレット型端末が登場してから、ほぼ5年を経て、この間に出版業界は電子化に取り組んできた。14年度には約1400億円規模まで成長して、18年度には3000億円を超える予測もある。しかしながら、「紙」の減少を補って、出版業界の低落傾向に歯止めをかけるまでには至っていない。

  「紙」のビジネスモデルをおおざっぱに図式するならば、出版社→取次→書店→読者、となる。これまでの電子書籍のモデルは、出版社による電子化→電子書籍取次(プラットホーム)→電子書店(アップルストア、グーグルプレイなど)→読者と、それぞれの登場人物が代わったようでいて、その機能は変わらず、ビジネスモデルも大きな意味では変化しなかったともいえるだろう。「紙」の流通と「電子」の流通で一番ワリをくったのが、取次といえるだけだ。

  「電子」の根本的なビジネスモデルは、いまのところはっきりとみえていない。携帯電話会社がサービスをしている「まとめ読み」や、無料とプレミアムの有料を組み合わせた「フリーミア」サービスも登場しているが、出版業界をうるおす決定打には欠ける。

  栗田出版販売が倒産によって、大阪屋といずれ経営統合するにせよ、第3位の取次の売上規模が大きくなっただけで、新たなビジネスモデルが不在の穴を埋めるわけではない。

  出版業界の新たな地平はどこに見いだせるのか。TwitterやFacebookなどのSNSばかりではなく、それ以前のネットのサービスであるメルマガ、ホームページを駆使して、読者を囲い込む方向が、ひとつは考えられる。

  出版社は新聞社同様に、定期購読者以外は読者の名簿をつかんでいない。作家やジャーナリストそれぞれに、読者の名簿を把握することは、ネットの手法で可能である。

  読者の属性に即して、新刊書や雑誌の最新号、作家やジャーナリストの新刊、エッセーを薦める仕組みを作ることである。

  この手法は、最近一部のコミックで、特定の作者のファンを集めることで活用されている。書店の「情報海」から、優れた作品を読者に発見してもらうのは、なかなか難しい。無料のコンテンツなども絡めて、読者のサークルを固める。コミック特有ではあるが、この閉じられた空間のなかで、単行本だけではなく関連のグッツも売れている。

  比喩としては、宝塚ファンのサークルがわかりやすい。本誌が特集を組んだ通りである。ファンクラブはチケットの販売だけではなく、書籍やグッツの販売に寄与しているのである。そこには出版業界も参考になるビジネスモデルがある。

  出版業界において、栗田出版販売の倒産は業界の将来を暗示するものとして受け止められている。しかしながら、そうした悲観論ばかりではなく、過去を振り切った先にしか、未来はないだろう。

 

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