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アップルの「News」アプリはメディアの救世主か?

2015年8月8日

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 広告収入のレベニュー・シェアが高率

雑誌の定額まとめ読み、キューレーション・サービスに打撃

 Daily Daimond寄稿。週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

 アップルが今秋に公開する次世代のOSに合わせて、新たなニュースの閲覧アプリケーション「News」がまず、米国と英国、豪州でサービスがスタートする。いずれ日本にも上陸するのは間違いない。

 

 iPhoneとiPadの利用者に対して、その人の指向に合わせたニュースを、速報ばかりではなく、深く掘り下げた報道も提供する。

 ニュースの素材となる新聞社や出版社に対しては、広く門戸を開放する。これらの参加メディアは、アプリケーションの公開と同時に販売される編集ソフトを購入して、視覚的に見やすくかつ美しい統一したスタイルで、配信する。

 「News」に対する欧米のメディアやその研究者らの評価を、概括するならば、まず衰退が叫ばれて久しい活字メディアにとって、ネットの世界で収益をあげる大きな手段となるのではないか、というものである。

  メディアが配信した記事につく広告について、そのメディアが単独で広告を募集した場合には100%が、アップルがメディアに代わって広告を募集した場合には、メディアに70%が支払われる。

  このアプリケーションに対する、ふたつめの反応は、課金システムによっていわゆる「ペイウォール」を構築して独自のアプリケーションを公開している、メディアには影響が及ばない、というものである。典型的な例としては、ウォールストリートジャーナルが上げられる。

 これに対しては、有料を原則としながらも、コンテンツの一部を無料で公開しているメディアにとっては役立つ、という議論がある。例として上げるならば、ニューヨークタイムズであり、同紙はすでに「News」への記事の提供を決めている。

  わたしが注目しているのが、このアプリケーションに対する編集ソフトによって、統一したスタイルの記事が生成できるので、メディアの大小や、発信者が企業でも個人でも受け入れるという点である。おそらくこのソフトは、iPhoneやiPadで動くものと予想される。ビデオの編集ソフトと同様だと考える。

  全体として、メディアの側からみると、このアプリケーションはニュースの流通革命を引き起こす可能性が高いのではないかと思う。

 ニュースを個人に選択、配信するに当たって、アップルはアルゴリズムすなわち人工知能による抽出のみならず、編集者がたずさわることを明らかにしている。

 「News」の衝撃は、メディア以外の領域に広がっていくのは間違い。それは、まず、アルゴリズムを主体とする、ニュース・キューレーション・サービスである。次に、携帯電話会社を行われている、月額の雑誌読み放題サービスである。

  順序が逆になるが、後者はわたしにとって思い入れのあるサービスである。ソフトバンクに在籍中に、新聞と雑誌、テレビニュースをまとめた「ビューン」を企画から会社の立ち上げ、サービスの開始まで手掛けた。この種のサービスでは、先駆けとなった。

 iPadの発売に向けて、売り込むサービスがなかった時に、キラーコンテンツとなった、というのは手前味噌ではあるが。メディアの収益をあげて、ジャーナリズムを支えとしたいというのが、開発者のわたしのひそかな志であった。

  ライバルは雑誌数でこのサービスの会員数を追い抜き、ソフトバンクも6月から1000冊の読み放題サービスを始める。

  課金型アプリケーションとして公開される。この収益の少ないとはいえない部分が、アップルに支払われる。

  つまり、まとめ読みサービスは、メディアとアップルの中間に存在しているにすぎないから、アップルが新しい「News」サービスを繰り出してくると、いらない存在となる。

  ニュース・キューレーション・サービスについては最近、株式を公開した「グノシー」と公開を目指している「スマート・ニュース」があげられるだろう。

 わたしも利用者ではあるが、ふたつのアルゴリズムが提供しているニュースについて、わたしの指向とはいささか異なることがある。

「News」の日本語版が出現すれば、こうしたキューレーション・サービスは新たな工夫をしなければ生き残れないだろう。

 「News」の日本語版はどのようにしてできるのだろうか。参加メディアを独自に開拓して、かつ広告事業も立ち上げるのだろうか。日本企業との提携はあるのか。しばらく目が離せない。                         

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