蘇るニールセン撤退の過去 広告のビジネスモデルは変わるか
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世界最大の調査会社であるニールセンが4月初めに、日本の調査会社であるインテージと、複数のメディアにまたがる広告が消費者の購買行動にどの程度効果をあげるかを、個人ベースでも専門的に調査する合弁会社を立ち上げた。
スマートフォンの急速な普及などを背景として、テレビやラジオ、新聞、雑誌にとどまらず、ソーシャル・ネットワーク・サービスを通じた広告をいかに組み合わせるのが効果的かを企業などに提案する。
日本の広告のビジネスモデルは、電通の中興の祖である吉田秀雄が民間のラジオ、テレビ放送の普及に力を注ぐと同時に、テレビ視聴率を中心としたビデオリサーチによる広告効果を数値化したことにある。
ビデオリサーチが電通と民放20社の共同出資で設立されたのは、1962年9月。それに先立ってニールセンは1961年から日本のテレビ視聴率を測定していた。ニールセンが日本のテレビの視聴率調査の分野で、撤退したきっかけは、ビデオリサーチと同様の「世帯視聴率」から「個人視聴率」の調査を始めたことだった。
テレビの広告効果を個人ベースで検証できるシステムだったが、民放の契約をとれず、2003年3月に日本での調査をやめた。
ビデオリサーチの「世帯視聴率」と広告の時間を掛け合わせた料金体系によって、電通と民放各社は収益をあげるビジネスモデルを確立したといえる。視聴率をもとにした広告費の投入量は、ここで一応の納得性を企業に植え付けることに成功したのである。
今回のニールセンの日本市場における再挑戦は、インターネット広告の時代を迎えた戦略であると同時に、過去のリベンジともいえるだろう。
新しいクロスメディア型かつ個人ベースの広告の効果測定をする、合弁会社はインテージ・ニールセン・デジタルメトリクス(INDIGIM・インディジム)。
新会社が目指しているのは、広告が具体的な購買行動に結びつくにはどうするか、を考察するうえで必要なデータを企業などに提供することである。このことによって、企業の広告戦略やマーケティング戦略の修正につながる。
同社は7月にもオンライン視聴率のサービスを開始する。さらに10月には、ある企業の広告戦略を立てるうえで、競合他社の広告効果も含めた、新しい指標のサービスも始める。
インテージは、日本で2万2000人のメディアに対する、接触状況と購買行動に関する計測を行っている。ニールセンはすでに米国において、インターネットの広告視聴率をビジネスとして位置付けている。両社の融合によって、クロスメディアの広告効果を算出しようとしている。
電通の日本の広告費・2014年版によると、インターネット広告が初めて1兆円の大台を超えた。総広告費は6兆円である。
テレビは1兆9500億円、新聞は6000億円、雑誌は2500億円、ラジオは1200億円である。
インターネット広告の増大と、クロスメディアの広告効果について、電通も傍観しているわけではないのは当然である。
電通もやはりインテージと組んで、個人の消費行動を分析したデータベースづくりに、昨秋から乗り出している。メディアの統合型のマーケティングができるようになる、とうたっている。
テレビ・ラジオの広告の成功モデルによって、一時は世界最大の売上高を誇った電通がインターネット時代のクロスメディア市場でヘゲモニーを握れるか、はまた別のテーマである。
ニールセンとインテージの戦略は、電通モデルのど真ん中にはあえて踏み込まずに、米国型の個人の購買行動分析に乗り出す形をとったともいえる。
ビデオリサーチによって、日本の視聴率を牛耳った過去と比べると、限られた民放だけではなく、インターネットの世界は登場するメディアの数が限りなく多くなるので、電通がその全体を握れるかどうか。それはニールセンのリベンジの結果にかかっている。