インターネット放送で若年層を開拓
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「JOAK、JOAK、こちらは東京放送局であります……」
関東大震災から1年半後の1925年(大正14年)3月22日、東京・芝浦のスタジオから日本のラジオの第一声が流れた。続いて、海軍軍楽隊のクラリネットとホルンの独奏が流れ、開局式となった。社団法人東京放送局の総裁である後藤新平が放送開始の意義について、15分にも及ぶ挨拶をした。
この時から、放送90周年を迎えた今年、当時ラジオに期待された、防災放送という出発時点は、東日本大震災によって改めて認識されている。
ラジオは絶滅貴種か?広告費がピーク時から半減し、地方局を中心として経営が悪化しているなかで、これまでも幾度も唱えられた。若者たちの心をとらえた1980年代から90年代の隆盛を夢見て、ラジオ業界はインターネットを通じた配信など、生き残りをかけた挑戦にかけている。
ラジオ業界はいま、戦後のAMの新規開局ブームの設備投資とくに電波施設が更新時期を迎えて、その資金をどうするのか、経営の大きな課題となっている。ラジオの広告費は1991年の2406億円がピークで、2014年は約半分の1272億円である。FM局の年間売上高は約70億円、AM局は48億円である。
大都市圏では、AM局の設備更新に土地の手当てと設備を合わせて、50億~100億円と推定されている。広告収入の減少はこうした費用をねん出するのが難しい。
ラジオの復活のためには、聴取者の若者層の開拓にあることは、業界の共通認識である。メディアの接触時間(1日15分以上、2010年)をみると、全体ではラジオは13%の人が聴いている。しかし、16歳~19歳についてみると、ゼロとなる。95年には13%、00年には8%、05年には6%と急減したうえに、統計上は若者にまったく聴かれていない。
首都圏のAM局である、TBSラジオと文化放送、ニッポン放送は3月末に、AMの番組をFMでも並行して放送(サイマル放送)する、と発表した。総務省がAMのFMによる補完放送と名付ける放送携帯である。3社のFM用のアンテナは共用で、東京スカイツリーに設置する。ニックネームも3社共通で「ワイドFM」とした。放送は今夏から今秋を予定している。
そもそもFM補完放送は、AMの電波が高層ビルなどの電波障害や、海外のAM放送との混信を避けために考えられた方式である。設備投資がAMの更新費用よりも経営負担がないことと、音声がよいことなどから、ラジオの経営全般のテコ入れ策として活用されようとしている。
インターネットに向けた配信も、若者層の開拓に役立つと期待されている。電通が主体となって、ラジオ各局と協力して立ち上げた、radiko(ラジコ)サービスは、スマートフォンインに専用のアプリを落とせば、地域のラジオは無料で、全国のラジオも有料で聴くことができる。
有料サービスは昨年4月からで、1年間で約17万人が登録している。月間に1万人ずつ増加している。
若者たちのなかには、ラジオのチューニングの仕方を知らない人も多いという。スマートフォンによって、初めてラジオに親しむ人も出てきているという。
NHKもインターネットのアプリ「らじるらじる」をダウンロードできるようにしている。ラジオ第2の英語講座など、過去の番組も聴けるようになっている。
「radiko」や「らじるらじる」によって、スマートフォンでラジオを聴いていると、受験勉強をしながら、ディスクジョッキーの曲の紹介などを聴いていた青春時代を思い出して懐かしい。
WiFiの無料サービスが、2020年東京五輪に向けて今後さらに普及していけば、ラジオの視聴が上向く可能性がある。
ラジオ広告は、この5年ほど漸減傾向をたどっていたが、2013年の1243億円から2014年の1272億円に微増している。インターネットによる若者層の掘り起こしが貢献している可能性がある、と広告業界はみる。
さらに、ラジオ放送がインターネットを通じて、高音質のハイレゾ配信をてがけることも検討されている。
90周年を迎えたラジオという古いメディアが、再び新しいメディアになる可能性がある。