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地上波アナログテレビの跡地の電波帯 本格利用始まる

2015年4月7日

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新たな産業を生む可能性もある政策の成否は?

Daily Daimond寄稿。週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

 地上波アナログテレビが高周波帯に移行してデジタル化した、跡地の電波利用が本格的に始まる。放送・通信技術が発展途上だった、戦後の放送局に優先的に与えられたもっとも使いやすい低周波帯である。

 V-Highと呼ばれるアナログの4~12チャンネルの跡地では、NOTTVが4月からスマートフォン向けに、これまでBSやCSで放送されていたチャンネルのサービスを提供する。

 フジテレビのスポーツ・バラエティの「フジテレビONE」と、同局のドラマ・アニメの「フジテレビTWO」、時代劇専門チャンネル、海外ドラマのANX、アニメ専門のANIMAX、サッカー専門の「スカサカ!」である。

 V-Lowのアナログの1~3チャンネルの跡地は、FM東京を中心として設立したBICがマルチメディア型の新しい放送を今秋から開始する。乗用車向けに路線や走行に必要な情報を提供したり、地方自治体の防災情報の配信をしたりする内容が固まりつつある。

  放送内容に入る前に、通信と放送をめぐる産業政策の面からアナログテレビの電波帯域の跡地利用を考えてみたい。

 小泉純一郎政権下の竹中平蔵総務相のもとで検討された、放送と通信の融合に関する法制は、いったんは2009年にコンテンツ(放送の業務)と伝送サービス、伝送設備の3分野に切り分けることになった。つまり、原則として通信と放送の垣根はなくなる方向性だった。

 しかしながら、NTTなどの反対もあって、妥協点として2010年に通信と放送に関する法律の一部改正はあったものの、融合は実現しなかった。放送法と、通信業者をしばる電気事業法、電波法、有線電気通信法が残った。

 電波帯の利用という名目のなかで、V-HighとV-Lowには放送と通信の融合という総務省の産業政策が織り込まれている。サービスの内容がまだはっきりとしないために、業界や専門家以外にはみえないので、世論が喚起されるまでに至っていない。

ハードとソフトの事業者が切り分けられて、産業政策的にその数が限定されているのである。

 V-Lowでは、全国を北海道、東北や関東・甲信越など7地域に区分して、ソフトの事業者は各地域に複数とする一方、ハードはひとつの地域で1社とする。V-Highはソフト事業者とハード事業者はいずれも1社に限られている。

 放送と通信の融合という側面は、このV-Highにおいて強い。

  検討されているサービスの内容について、みていこう。東日本大震災後に高まっている防災・減災への活用と、新しい産業を育成する側面のふたつが大きい。

 運営会社は、2020年までに受信できる端末数を2000万台にする目標を掲げている。電源が切れても受信可能にする。

 地方自治体が広域の住民に防災情報を流すのに比べて、大幅なランニングコストの減少につながるとしている。人口約400万人規模の都市で全所帯に防災情報を配信する、システムの構築には700億円程度の資金が必要であるが、新しい方式では年間3億円程度のコストに収まる。

 このサービスの電波帯の特性を生かすと、ある特定の地区についてそれに関する防災情報配信することも可能になる。

 東日本大震災の際には、広域のさまざまな情報が流れて、自分がいる特定の地区の必要な情報が埋没することがあった。

  新しい産業を生む可能性としては、自動車のラジオ部分にこのサービスの受信機を装備する案が有力である。地域情報を音声や文字情報でも流すことができる。

 また、電子広告に装備すれば、地域を限定した宣伝ができる。大手流通業者と地域ごとにこうしたサービスをする検討が進んでいる。

 これまではバスなどの公共機関の電子広告は、携帯電話の電波を使っていたが、新サービスのコストが格段に安くなり、開拓を狙っている。

 総務省は規制官庁であると同時に、産業政策も担おうとしている。NTTの光通信網を開放することによって、新規のADSL事業者が基幹網にそれを取り込んで競争を促進した。また、携帯事業者の競争をうながす電波の割り振りもおこなった。

 それも、業界によって、消費者向けのサービス価格はほぼ同レベルとなって、新たな競争政策が必要になっている。

 アナログテレビの電波帯の利用政策は、そうした総務省の産業政策の成否を占う大きな実験となる。

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