ブログ

ジャーナリズムが継続するビジネスモデルの模索

2015年1月31日

このエントリーをはてなブックマークに追加

 Daily Daimond寄稿。週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

キューレーション・アプリの広告事業と日経・エバーノート提携

ジャーナリズムがいかにして継続するか。スマートフォンとタブレット型端末が急速に普及するなかで、民主主義の基盤であるジャーナリズムを担うメディアは、生き残りをかける。有料路線を原則とする日経が、インターネット上に文書や写真を保存するエバーノート社と提携、キューレーション(ニュースを集めて分類する)・アプリが広告事業に参入し、メディアの経営に新たな選択肢となるだろうか。

 日経は一部のニュースを自社のサイトで公開する以外は、原則的に課金路線を歩んできた。インターネット上に文書や写真を保存する、エバーノート社に資本参加するとともに業務提携することを、今秋明らかにした。

 エバーノートは、その社名が表すようにネット上にノートを作るように、アイデアのメモや会議の議事録などを保存できる。PCだけではなくスマートフォンやタブレット型端末からも操作できる。

 日経は同社に2000万ドル出資するとともに、電子版やデータベースの日経テレコンのサービスと連動させる。エバーノートを作成中の利用者に関連のニュースを配信したり、データベースの情報を同時に保存できたりする。2015年初めからまず、電子版との連動を手始めに、両社でさまざまなサービスを企画していく、としている。

 日経からみれば、エバーノートの利用者であるビジネスパーソン向けに、自社のサービスを拡販することができるようになる。エバーノートは、米通信会社などとも同種のサービスを開始しており、利用者の囲い込みに有利になる。

 さまざまなメディアのニュースをキューレーション(集めて分類する)するアプリの登場については、このシリーズで取り上げた。

 SmrtNewsとGunosyである。こうしたニュース関連のアプリがテレビCMを打って、ダウンロード数を競ったのは、特筆すべきことである。両社は2014年冬から広告事業に本格的に乗り出した。

 どちらのニュース・アプリも自動編集、つまり人手を介さずにニュースの順序付けがなされる。

  SmrtNewsが東京都内のホテルで2014年12月初めに開催した、事業説明会やメディアが参加したシンポジウムを見た。

 この会合の目玉は、広告事業の発表にあった。

 共同創業者の鈴木健氏は、高質な情報の定義として「多様性と他者への理解」と「もうひとつの人生を歩むことができる」ことを挙げ、自動編集によって情報がそれぞれの個人にとって最適になると述べた。

 さらに、そのためには、ジャーナリストとメディアを支援する、と強調した。

 広告収入のメディアとの分配比率は、システム維持費用として同社が2割をとり、残りをメディと折半する。メディアに4割を還元するという。

 広告事業で先行していたGunosyが開催した11月中旬の事業説明会では、広告から契約・購買に至った件数が100万件に到達したことが明らかにされた。

 テレビCMやSNSなどによって周知されたことから、ダウンロード数はGunosyが700万件を強調するのに対して、SmrtNewsは月間のアクティブユーザー(利用者)の378万人を大きく取り上げる。

 キューレション・アプリの事業説明会で語られないライバルは、日本最大のポータルサイトの「Yahoo!ニュース」である。月間のユニークブラウザ(延べ利用者)は7930万、月間の平均ページビューは43億8000万である。

 記事の見出しや順序付けは、編集者によってなされている。メディアに対しては配信料が支払われている。支払金額の基準やメディアごとの配信料は公表されていない。

 SmrtNewsの広告事業のメディアとの按分は、明らかにヤフーのニュースサービスの対価に対する挑戦である。メディアはヤフーの草創期にインターネットの急速な普及を予想できずに、比較的格安に配信料を設定した。その後幾度か改定があったとされるが、金額的な不満がくすぶっているのも事実である。

 自社サイトに誘導するか、あるいは朝日新聞のようにデジタル版の普及のために記事の一部を出すか、メディアによって利用の目的も多様になってきた。

 日経のように一切記事を配信しないところもある。

 キューレーション・アプリの攻勢に対して、ヤフーも一般ニュースとビジネスニュース、それぞれのアプリを提供している。動画ニュースを中心とした、ソフトバンクモバイルの「スマトピ」は12月からサービスが始まったばかりだ。「LINE NEWS」のアプリもある。

 キューレーション・アプリの華々しい登場の先には、最終的にはひとつかふたつに絞られていくことが予想される。あるいは新たなサービスによって淘汰される可能性もある。

  日経のように原則課金の道を歩みながら、デジタルビジネスの発展の方向性を探るのか、キューレーション・アプリにコンテンツを開いていくのか、それぞれのメディアがその特性によって決めていかなければならないときを迎えている。

このエントリーをはてなブックマークに追加