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読売 vs. 朝日 小学生向けのバトル再び
読売新聞と朝日新聞が今秋、それぞれ中学・高校生向けのタブロイド判の新聞を創刊して、読者争奪戦が激しさを増している。小学生向け新聞で読売は2011年3月に、老舗の毎日新聞と朝日の牙城に攻め込んで、20万部を突破して大きなシェアを確保した。中高向けでもその再現はなるだろうか。
本紙の部数競争が他紙の読者を奪い合うゼロサム・ゲームなら、中学・高校生向けは、新しい市場を切り拓くブルー・オーシャンにも見える。さらに新商品の開発競争ともいえるだろう。小学生向け新聞でかつては圧倒的な首位に立っていた毎日が、中高生向けでは朝日と読売に追随できない。
「朝日中高生新聞」は10月5日に創刊した日曜発売の週刊紙(月額・税込967円)で、それまでの「朝日中学生ウィークリー」を全面的にリニューアルして読者層を高校生に広げた。
小学生向けの「朝日小学生新聞」が中学受験する読者に、浸透してきたのと歩調を合わせるように、受験と結びついた紙面構成となっている。また、小学生新聞がそうであるように、ニュースをコンパクトにまとめてみせる、つまり大手新聞社らしさがにじむ紙面である。
12月7日号の1面は、総選挙にからんで東京都内の高校で模擬投票が行われようとしている話題である。国民投票法の有権者の年齢について、18歳に引き下げる論議がなされている現状と重なり合う視点を提供している。
3面は1週間の主なニュースをコンパクトにまとめている。エジプトのムバラク大統領の無罪判決や、日本国債の格付けの引き下げなど、入試の社会分野の出題に出そうな内容である。
7面は本紙1面のコラム「天声人語」を使って、作文の練習をする。毎回次週のテーマを設定して、読者が応募したコラムを紹介する。
英語検定に向けた問題や、入試にでそうな数学問題なども多面で展開している。
「読売中高生新聞」は、読売の140周年記念事業の一環として11月7日に創刊された。金曜日発売の週刊紙(月額・税込780円)である。
朝日と大きく異なるのは、その編集・デザインで小学館と協力していることである。小中高向けの雑誌の分野ではかつて、旺文社と並ぶ「学年別」雑誌を発行していた老舗である。
12月5日号の1面は「アメリカ 超大国の現実」を大きな見出しと、黒人容疑者を射殺した警察当局に対する抗議デモの写真をあしらって、2面と3面で見開きの紙面を使って、米国の人種別の比率や収入格差などについて、グラフをふんだんにあしらって、解説している。
まるで雑誌のようであり、本紙でも試みて欲しいような野心作である。
独自取材の話題物も読ませる。青森県内の高校の演劇部が、活動が低調だった状態から全国大会で優勝するまでの軌跡をルポした作品である。
こうした紙面は、小学生向けの「読売KoDoMo新聞」の成功体験が裏打ちになっているようにみえる。朝日と毎日の日刊に対して、週刊で挑んだ紙面はやはり小学館と協力してビジュアルに凝った内容になっている。
日本ABC協会の今年上半期の調査によると、「KoDoMo」は20万部を突破して、朝日の10万部台を大きく引き離している。毎日小学生新聞は非公表である。
スマートフォンに親しんでいる中高生向けのサービスでも、朝日と読売は競う。朝日は紙面の電子ブック版を読者に提供する。読売は読者の投稿のアプリ「Yteen」をリリースしている。深夜から未明の投稿を禁じるとともに、投稿のアップには編集室が事前のチェックをしている。
読売はOL向けにスタートしたヒットサイトの「大手小町」が、15周年を迎えている。中高生向けの投稿サイトが成功すれば、ネット戦略のうえでも収穫となる。
新聞記者の駆け出し時代に、「記事は中学生にもわかるように書け」といわれていたことから考えると、中高生向け新聞の創刊は意外な気持ちがした。しかし、本紙の読者の開拓、次世代の読者の養成と位置付ける、ふたつの新聞社の試みは、多様な紙面構成とともに、本紙自体を変えていくかもしれない。本紙の記者たちも楽しそうに中高向けのわかりやすい記事を書いている。
「週刊こどもニュース」のキャスターから、池上彰氏というニュース解説のスターが出現したように、新しいタイプの記者が生まれるかもしれない。