NHKが2強に割って入る
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「(今年)上期が厳しい中で必死に頑張って、平均視聴率で2位を堅持した。秋からは得意分野の人気大型ドラマもあり、新たな攻勢をかけたい」
テレビ朝日の吉田慎一社長は、10月末の定例会見で視聴率競争の厳しさを正直に表明した。朝日新聞の編集担当から今夏に社長に就任した吉田氏にとって、就任1年目からテレビ界の洗礼を受けた形となった。
今年上半期の視聴率は、全日(午前6時~翌日午前0時)帯で確かにNHKと並ぶ7.0%で2位だったが、ゴールデンタイム(午後7~10時)帯ではNHKに次ぐ3位にとどまった。プライムタイム(同7~11時)帯では、3位のフジテレビに0.8ポイント差まで迫られる10.7%の2位だった。
いずれの時間帯も日本テレビが1位の3冠だった。日テレが独走する形となっている。全日帯では、昨年12月第2週から今年10月第4週まで連続46週間もトップの座にある。
テレ朝は2013年に年間の視聴率が、ゴールデンとプライムの両時間帯で、NHK、民放を通じ首位になった。ゴールデンでの首位は開局初めてで、プライムも合わせた2冠の獲得も初めてだった。その後も日本テレビと首位の座を争ってきた。
日テレとテレ朝の2強時代も束の間で、日テレ1強時代かつNHKが民放の視聴率競争に割って入ろうとしている。
こうしたテレビ業界の潮流が変化の兆しをみせるなかで、NHKの経営委員会が11月11日にまとめた、来年度からの3カ年の経営計画の骨子が民放業界に波紋を投じている。
東京・代々木にある放送センターの建て替え費用が固まるのを待って、収支計画の見直しがある前提とはなっているものの、計画の最終年度に受信料収入の増収を1000億円と見込んでいるからだ。
受信料の支払い率を13年度末の74.8%から最終年度には80%を目標にしている。未払い者に対する簡易裁判所の手続き請求などによって、支払い率は向上する方向にある。今年度は過去最高だった11年度の6400億円を上回る見込みという。
この額そのものが、フジ・メディア・ホールディングスの総売上高に相当する。この数字は放送事業のみならず出版や通販など多角的なものである。
NHKの受信料は新たな放送センターの費用に一部が充てられるとはいえ、放送の制作費において民放をはるかにしのぐ規模にある。例えば、フジテレビの制作費は、13年度が983億円、今年度上半期が516億円である。
放送業界では、民放のBS放送の制作費全体が、NHKのBS放送全体に過ぎない、といわれている。
NHKの増収戦略は、民放にとってさらなる脅威である。
視聴率競争において、テレ朝がいったんは抜け出したかにみえたのも束の間で、ゴールのみえない戦いになっている背景として、ここではいったんコンテンツの成否は脇において、編成つまり番組の構成の戦略、新聞や雑誌でいえば編集方針、メーカーでいえば商品構成の視点から眺めていきたい。
NHKは総合放送のなかでニュースを骨格として、BSも含めてドラマやバラエティーなど、その編成方針を一気に変えようとはしていない。
視聴者からみると、ある時間帯の番組がどのようなものであるか、習慣的に知っている状態を作っている。
日テレが首位の座を固めている戦略もまた、この習慣性の重視にある。秋の番組改編において、ドラマの新番組スタート以外は基本的に番組を改編していない。
週刊誌をもじって「習慣日テレ」と内部では標榜している。なかなかうまい表現である。
これに対して、テレ朝は日テレへの挑戦から、長時間の特別番組などを改編の目玉に置いているが、視聴率が伸び悩んでいる。
両社の編成の路線の違いが結果として、視聴率競争の現状につながっている、というのが放送業界の見方である。
もとより、コンテンツ産業としての放送会社は番組が命である。
テレ朝の名物ドラマといえる「相棒」や「ドクターX」の秋シリーズも出だしは悪くはないが、昼間の再放送によって全日の視聴率の底上げを図る戦略は、繰り返しになるにつれて視聴者の飽きを呼んでその効果が薄れているようだ。これに対して、日テレは秋のドラマで新作シリーズをずらっとならべる戦略をとっている。
テレ朝が成功に向かって歩んできた軌跡の先に、さらなる成功はなさそうである。