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有料放送は生き残れるか

2014年12月5日

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WOWOW、スカパー独自番組の制作に拍車

地上波のネット同時送信迫る

   Daily Daimond寄稿。週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

 テニスの全米オープンの錦織圭選手の活躍を独占中継した、WOWOWは月間の新規加入者数が過去最高になった。スカパー―JSATは10月初旬、BSスカパーに連続ドラマやクイズなどの独自制作番組を編成する計画を発表、会員獲得の目玉にしている。

  有料放送の独自番組の制作戦略はこれまで、地上波などの無料放送に対して、会員の視聴時間を延ばして経営の基盤を強化する側面が強かったといえるだろう。

 その傾向に拍車がかかったかのような両者の最近の動きの先には、地上波のインターネットによる同時送信という競争の激化が透けて見える。

  スマートフォンやタブレット型端末を通じて、いつでも、どこでも地上波の番組がみられるようになれば、視聴時間の競争は新たな展開をみせるだろう。

  NHKの籾井勝人会長は最近、複数のメディアのインタビューに応じて、2015年度からの3カ年計画のなかでインターネットと同時送信計画を盛り込む考えを明らかにしている。さらに、同時送信については料金を徴収する方向性も探っている。

 日本民放連盟会長であるTBSの井上弘会長もまた、9月の定例会見のなかで、民放が共同して放送後の番組をインターネットで送信する仕組みを作る、としている。

 メディアがデジタル化の潮流にさらされているなかで、かつての銀行業界のように全体として速からず、遅からずの「護送船団方式」がテレビ業界で通用する時代は過ぎている。日本テレビが見逃したドラマを無料でインターネットに配信したのを皮切りにして、TBSも追随する方向を探っている。

  配信方法はさまざまであっても、メディアの生き残りのキーがコンテンツであることはいうまでもない。

  有料放送会社2社の番組制作の機能はどうか。

日本民間放送連盟が毎年9月に選考結果を公表している、優秀な番組に与える賞において、WOWOWはドラマとドキュメンタリー、エンターテインメント、青少年向け番組の3部門で優秀賞を獲得している。

独占映像となった全米オープンの番組によって、9月の新規加入者数は15万3273と前月を約11万増となった。

スカパーが始める独自番組は、バラエティーやクイズ番組をまず、地上波のゴールデンタイムにぶつける。クイズ番組のキャッチフレーズは「お金を払っても見たいクイズ」である。

12月からは連続ドラマの放映を予定している。

  地上波放送が「護送船団方式」によって、インターネット配信に消極的であった時代が長く続き、地上波と有料放送は棲み分けができていたといえる。ところが、インターネットの有料映像サービスは、こうした棲み分けを侵食しつつある。

 有料放送やポータルサイトの有料版配信サービスを除いて、視聴者がインターネットを通じて、定額見放題やその都度課金、購入している動画配信市場の規模はどの程度まで成長しているか。こうしたサービスは有料放送のライバルである。

 日本映像ソフト協会が今春に発表した2013年の映像ソフト市場規模についての調査によると、有料動画配信はすでに597億円に達していると推定される。

 WOWOWの2014年3月期の売上高は702億円、スカパーの同期は1716億円である。有料動画配信の数々をまとめると、有料放送会社の売上高に肩を並べるのはそう遠い将来ではないようにみえる。

  テニスの全米オープンの独占中継の成功から、WOWOWが何を学ぶべきだろうか。米国のCATVがボクシングの世界チャンピオン戦などで、試合ごとの料金を徴収するペイテレビ方式を、日本に本格的に導入するきっかけとするのか、あるいはインターネット時代の有料課金に向けた挑戦の始まりと考えるのか。

 日本のメディア業界はテレビのみならず、米国の洗礼に学ぶことが多いが、インターネット配信において「周回遅れ」の状況をみすえた、経営判断が必要なのは間違いないだろう。

  日本の有料放送は、四半世紀の歴史のなかで経営不振と合併などを経て、ようやく視聴者の間に定着したのも、つかの間で、地上波のインターネット配信という荒波がもう間近に迫ろうとしている。

 

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