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「朝日批判」が止まらない

2014年12月2日

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  Daily Daimond寄稿。週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

四半世紀で3人の社長が辞任の異常事態

言論機関として再生は可能か

 企業の四半世紀の歴史のなかで、6人の社長のうちその半数が不祥事によって辞任する。そんな企業がいったいどこにあるだろうか。

  朝日新聞社は東京電力・福島第1原発の吉田昌郎元所長の証言をめぐる報道を取り消すとともに、木村伊量社長が辞任の意向を表明した。

 しかしながら、「従軍慰安婦」報道の検証記事に対する批判と相まって、メディアの「朝日批判」は止まらない。

  休刊になった月刊誌『諸君!』の名物コラム『紳士と淑女』の筆者である、徳岡孝夫氏は文藝春秋・週刊文春臨時増刊号(10月3日)で次のように述べる。この号は朝日問題の特集号である。

 

  それにしても、9月11日の記者会見には驚きました。「吉田調書」と「吉田証言」のダブルで謝罪ですからね。しかも「慰安婦」がついでのような扱いなのには、ただ唖然ですわ。これは通り一遍の謝罪の文言で取り消せるような問題ではありません。

  ……『紳士と淑女』で繰り返し朝日を批判したのは、相手が大きく権威があったからです。しかし、今回の体たらく。朝日と文春の20年論争はどっちが勝った?文春の空振りでしょう(笑)

 『海賊とよばれた男』などの作品で知られる作家の百田尚樹氏は、次のように述べる(週刊新潮9月25日号)

   それにしても会見に臨んだ「朝日」の木村社長の姿を見ているとつくづく惜しいなあ、と思わざるを得ません。

  私は前回、週刊新潮の「語りおろし」で木村社長を改革者だとして「朝日の『ゴルバチョフ』だとさえ思っている」と言いました。

  しかし、木村社長は「吉田証言」を撤回させた一方で、社内メールに<反朝日キャンペーンを繰り広げる勢力に断じて屈するわけにはいきません>とか、<今回の紙面はこれかれもゆるぎない姿勢で慰安婦問題を問い続けるための、朝日新聞の決意表明だと考えています>と居直っている。

  「吉田調書」と「吉田証言」のふたつの吉田問題に加えて、朝日新聞が、池上彰氏の連載がいったんは掲載を中止し、週刊誌などの批判を浴びると一転して掲載した問題は、ジャーナリズムの本質にかかわる、という認識が広がっている。

  沖縄県のサンゴに写真部員が故意に傷つけて、あたかも犯人がいるような記事を掲載した「サンゴ事件」後に社長を務めた、中江利忠氏は週刊新潮に寄稿して次のように述べる(同号)

   一連の問題の中で一番反省すべきは、こちらから自由に書いていただくようにお願いしていた池上彰氏の定期コラム「新聞斜め読み」の<訂正、遅きに失したのでは>の掲載を、一時的に見合わせたことです。大変な間違いだったと思いますし、言論の代表を標榜する本社の“自殺行為”でした。それを批判されたことについて、記者会見で「思いもよらぬ」と答えた木村伊量社長の真意は測りかねますが、こうした発言をするようではジャーナリスト失格だと思いますし、この言葉はこの際撤回しておくべきだと考えます。

  ……ここまで大きな事態を招いた以上、木村社長は交代すべきです。会見では遠まわしな表現でしたが、辞める覚悟なのだなあと私は見ておりました。社長以外の役員交代も視野に入れて検討していくべきでしょう。

 「サンゴ事件」における一柳東一郎社長の辞任は、事件発覚直後であり、後事は専務の中江氏に即刻託された。企業の不祥事におけるトップ交代としては通例である。

  評論家の日下公人氏は、WiLL11号において、朝日は「経営悪化のスパイラル」に陥ったと指摘する。報道→新商品開発→資本→精神→販売→広告→報道のサイクルが下方のスパイラルに入った、とする。出身の長期信用銀行の例などをあげて、こうしたスパイラルに経営層が気づかないために企業は破綻すると断言する。その報道の蹉跌について、次のように述べる。

   「ジャーナル」(journal)の語源は「ヤヌス」(Janus)というローマの神様で、顔がふたつあり、1年の始まりに立っていて、過去と未来を見ている。朝日は過去と未来を見通す力は全くないのではないか。

  朝日新聞はすっかり上から目線になり、謙虚さを忘れ、在野精神を忘れた。新聞の起こりは明治時代、失職した旗本たちが薩長政府批判をやり始めたのが最初だったが、いまの朝日からはそのような気概は感じられない。

  ……自分の不勉強が原因の劣等感を隠すために、メディアの優越感を丸出しにして「読者に教えてやろう」「誘導してやろう」とするが、これは報道ではない。

   トップが辞任に追い込まれる事態が、かくも多発する企業の再生は可能なのだろうか。朝日はそのために、3つの委員会が活動を開始した。

  吉田調書問題については、「報道と人権委員会」が、慰安婦報道問題は有識者による第三者委員会が。社内には「信頼回復と再生のための委員会」が設置された。

  福島第1原発の事故について、政府や国会、民間の事故調査委員会が多数の関係者の聴取をしたように、証言を集めて誤報の要因と再発を防ぐ手立てを考えなければならない。

 まず、四半世紀にわたって、誤報が繰り返される要因はどこにあるのか。さらには、過去にさかのぼって、今日にいたる遠因を追究することである。

  企業が危機に際して取る手順を忠実に進める、それに尽きるだろう。

 組織や人事制度の抜本的な改革につながるのは避けられない。

 悔い改めなければならない諸々は、数々の「朝日批判」のなかにすでに見ている。

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