大手紙の部数大幅減少が止まらないなかで
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新聞の部数の減少が止まらない。1000万部を誇っていた読売が950万台に、朝日は740万台、一時は300万部台だった日経も大台を割っている。若者を中心とする「新聞離れ」の現象に、今春の消費税の引き上げが部数減に拍車をかける。
景気の動向をみきわめながら、安倍内閣は年内に消費税を来秋に10%に引き上げる方向を探っている。新聞業界は軽減税率の適用を要望し、その税率を5%にするように働きかけている。
そうした税制の方向性も業界の動向を大きく左右するが、デジタル版によっていかに部数の減少を防ぐか、コンテンツの課題が経営にのしかかっている。
大手紙の部数減の大きさは経営層に打撃を与えるものだ。新聞・雑誌の部数に関する公式な調査機関である日本ABC協会による、最新の2014年上期と前年同期に比べた部数減の数値は、以下の通りである。(単位・万、それ以下は切り捨て、▲は減少数)
読売 956 ▲31
朝日 743 ▲17
毎日 332 ▲6
日経 276 ▲11
新聞業界が「試読紙」と呼び、一般的には「押し紙」いわれてきた部数が、公正取引委員会などの警告と、新聞社自体の経営の効率化によって是正されてきたとはいえ、部数の長期低落傾向に歯止めがかからない。
デジタル版が順調に普及するならば、経営に与える好影響は計り知れない。まず、申し込みがウエブ経由なので、購読者のデータを新聞社の本体が握ることができるようになり、さまざまな付加サービスについて売り上げをあげる道が拓ける。新聞業界はこれまで、購読者の名簿を握っているのは新聞販売店であって、新聞社ではなかった。
いうまでもなく、デジタル版には輸送や印刷コストがかからない。紙面に限界がないから、記者たちにより多様なコンテンツに挑ませることが可能になる。
ここでは、デジタル版のスタートで先行している、日経と朝日についてその現状をみていくことにする。
日経が7月15日に発表した6月の部数によると、電子版の有料会員数は36万(前年同期比18%増)、このうち電子版単体の会員数は18万(同24%増)、単体が占める比率が初めて5割を超えて51%になった。
紙と電子版を合わせた購読者数は、313万。前年同月と比べると0.4%減の微減にとどまった。電子版が経営を支える柱になろうとしている。
朝日新聞のデジタル版は5月に発刊3周年を迎え、有料会員数は16万人を超えた。このうち、デジタル版単体の会員数は発表していない。紙の部数減の歯止め策にはなっているようだ。
両社のデジタル版を評価するためには、評価の軸あるいは視点が必要である。
まず、紙の紙面つまり紙型と、デジタル版の関係である。PCやスマートフォン、タブレット端末に対するデジタル版は、横書きが原則となってきた。
日経はスマートフォン向けに横書きで読めるアプリと、紙型で読めるアプリのふたつをリリースしている。紙型の分離である。
朝日は、デジタル版のサービスのなかに紙型のサービスを取り込んでいる。
この点では、デジタル版を完全に紙型とは別物として位置づけしている、日経のほうが読みやすい。朝日のデジタル版は、スマートフォンやタブレット型端末が登場以前のPC向けサービスのなごりを感じさせる。「24時刊」と題するトップ画面は記事のひとつひとつが箱で囲われたような形となって、タップすれば横書き画面に遷移するが、スマートフォンではそのトップ画面が読みにくい。
第二の評価の視点は、紙では読めないコンテンツの充実具合である。
日経の「コンフィデンシャル」は、経済事件の裏側をえぐるコラムである。
例えば、「マクドナルド 現場を襲う負の連鎖」は、素材の仕入れからアルバイトの確保など、マクドナルドが中国産の加工食品で被った問題ばかりではなく、経営の深層に迫るリポートである。
「朝デジスペシャル」は、朝日新聞が最初に入手した、福島第1原発の吉田昌郎所長調書の連載で話題となった。原発事故当時のスチル写真や、吉田氏の証言に、東電本社と現地のやり取りの音声を随所に入れ込んだ。
吉田調書に関する報道の是非についてはここでは触れない。デジタルの意欲的な作品であることは間違いない。
最後に、映像をどのようにテキスト、スチル写真と組み合わせいるかである。
このシリーズで取り上げた、ニューヨークタイムズがソチ五輪で試みたような、その3者を組み合わせたデジタル誌面はこれからの課題である。日経も朝日も、記事とは別にそれに関する映像を試みている。
あとは、ビジネスパーソンがニュースに接触する時間は限られているので、いかにわかりやすく伝えるか、編集技術にかかっている。
その点では、日経が「超サック!」と命名したニュースのまとめを最近始めた。新聞社のニュースは事件が起きると、刻々と伝えるものの、全体像がわかりにくい。このサービスは編集者が過去の記事も含めて、新たな図表などを使ってまとめている。