今年度第1四半・フジテレビ視聴率低迷 GT5位に
「HERO」「若者たち」……リバイバル路線、人事大刷新のゆくえ
誰かがこの「ティファニーで朝食を」を原典にできるだけ忠実に、もう一度映画化してくれないものだろうか?「サイコ」やら「ダイヤルMを廻せ!」といった(とくに必要もない)作品のリメイクを作るくらいなら、こっちの方がよほど気が利いていると思うんだけど。 (『ティファニーで朝食を』・村上春樹訳・新潮社、訳者による「あとがき」より)
視聴率の低迷から脱しきれない、フジテレビが夏の改編にぶつけてきたドラマのなかで、木村拓哉が検事を演じる「HERO」と妻夫木聡をはじめ主役級の若手の俳優陣を配した「若者たち」を見ていると、村上春樹氏の言葉を思い出した。
「ティファニーで朝食を」の主人公のホーリー・ゴライトリーのイメージに、それを演じたオードリー・ヘップバーンがそぐわない、というのである。リメイクがとくに必要がないと並べられている作品は、いうまでのなくヒッチコックの代表作である。
リバイバルやリメイクについて、テレビドラマも同様だろう。「HERO」は2001年1月の木村拓哉主演のリバイバル、「若者たち」は1966年以来のリメイクである。
フジテレビが過去の遺産にすがろうとしているようにみえるのは、視聴率の低迷から抜け出させない現実がある。
今年度第1四半期の視聴率は、ゴールデンタイム(GT/19時~22時)、プライムタイム(PM/19時~23時)、全日(6時~24時)で、日本テレビが3年ぶりにトップの3冠を奪還した。
フジテレビはどうか。GTは、NHK、テレビ朝日、TBSに続いて5位、振り向けば最下位のテレビ東京である。PTは、テレビ朝日についで3位。全日もテレビ朝日に次ぐ3位である。
いっこうに視聴率が上向かないなかで、「HERO」の初回(7月14日)が26.5%(関東地区)の好スタートを切ったことは、フジにとって朗報だったろう。「若者たち」(7月1日)も12.7%と順調な滑り出しだった。
リバイバル、リメイク路線によって、フジは再浮上するのか。
ビデオリサーチが7月14日発表した新たな「タイムシフト調査」、つまり録画によって視聴された、番組のランキングは楽観論を打ち砕いたのではなかったか。
米国ではすでに、リアルタイム視聴と録画による視聴を勘案して、テレビCMの料金が決まる。ビデオリサーチは、来年から正式にこの「タイムシフト調査」のデータの販売に乗り出す。今回は、春の改編期にあたる3月31日~6月29日について、試験的にその結果を明らかにしたのである。
フジはリアルタイムの視聴が下がっているが、録画によるタイムシフトによって、そのドラマは若者たちにみられている、ことに、月曜夜9時スタートの「月9」はそのようにいわれていた。しかし、その「神話」は崩れた。
今回調査のランキングは、録画7日以内に再生された率による。3月31日に最終回を迎えた「笑っていいとも」が同率で、2位と7位に入っているのを除けば、以下となる。
➀「ルーズベルト・ゲーム」 TBS 7.7 %
②「MOZU」 TBS 7.5%
④「アリスの棘」 TBS 7.4%
⑤「最後から二番目の恋」 フジ 6.8%
亀山千広社長が視聴率の上昇策として打ち出したのは、開局以来の大幅な人事異動だった。その対象は約1500人の社員の3分の2に及ぶ1000人、6月27日付だった。
編成部門を減らして、制作部門に戦力を投入するのが主眼とされている。
企業の業績が下り坂となったときに、経営者は往々にしてまず組織・人事に手をつけるものである。それには数か月から半年はかかる。そして、新しい組織ができあがると、ひとつの仕事を成し遂げたような気分が社内に横溢する。これまで、いくつもの企業でみてきた。
新しい部署に異動した従業員たちは、社内外に挨拶まわりや、組織固めの会議などを開かなければならない。そのようにしてまた月日が過ぎる。
組織と人事の改編がうまくいかない場合は、もとの体制に近い形で修正されることもある。
大規模な組織改編について、7月初旬の定例会見でその方針を明らかにした亀山社長は、次のように述べている。
「とにかく2位にならなければ決勝トーナメントには進めない。視聴率を回復し、PK戦に持ち込んででもまずは2位に入って戦う権利を勝ち取って欲しい」
W杯の予選になぞらえたのである。
「HERO」を楽しんでいる私としては、フジが「サムライ・ジャパン」の二の舞にならないことを祈るばかりである。