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総合週刊誌はなぜ売れなくなったのか

2014年7月25日

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現代、ポスト、文春、新潮の活路とは

  雑誌業界では「週刊4誌」という。週刊現代、ポスト、文春、新潮の4誌である。

 いずれも、その部数は低迷している。

  新聞・雑誌の公式部数の調査機関である、日本ABC協会の最新のリポート(2013年下期)によると、週刊4誌の平均部数と前年同期比(カッコ内、▲はマイナス、%)は以下である。

  現代   36万6829部 (▲13.6)

 ポスト  31万9528部 (0.4)

 文春   46万8910部 (▲2.4)

 新潮   35万0454部 (▲4.0)

 

  週刊4誌を今週号まで1カ月間、実際に購入してみた。購入先は大型書店であったり、近所の小さな本屋であったり、KIOSK、コンビニと場所を変えてみた。

  新聞社系の週刊誌に対抗して、1950年代に創刊した文春、新潮、現代、そして60年代にそれらに続いたポストは、団塊の世代のサラリーパーソンことに男性が、ビジネスに関する情報を得るとともにグラビアなどによる娯楽の双方を兼ねた、メディアとして成長を遂げた。

  団塊の世代が企業社会から引退するとともに、週刊4誌の勢いはなくなったかにみえる。最近の4誌の動向をおおざっぱに振り返るとするならば、現代は逆にそうした60歳代の性や健康にからんだ話題をからめて、部数の回復を図った。ポストがこれに続いて最悪期を脱した。

 文春は女性でも読める路線を継続していて、50万部前後の安定的な部数を維持してきた。新潮は創刊当初の名物コラム・特集を復活して、往時の回復を図ろうとしてきた。

  最新号までの特集のタイトルは以下である。

  死ぬまでSEX W杯独占公開 性豪16カ国の「夜の元気度」「性技」「女性器」(ポスト・7月18日)

  大反響第4弾 簡単!安全!タダ!60歳からの「エロ動画」(現代・7月19日)

  年金「納付率をごまかせ」厚労省内部文書を入手(ポスト・7月11日)

  「人生を変えるセックス」(7月12日)

  眠りから覚めた「朴正熙」負の遺産「米軍慰安婦」(新潮・7月10日)

  雅子さまと愛子さま 「登校拒否」再発と「23時の食卓」(文春・7月3日)

  特集は、中国や韓国の政策を批判するものや、皇室に関するもの、60歳代に関心が深い年金ものなど多岐にわたっている。

 それぞれは週刊誌らしい、短期間の取材で、さまざまな証言を集めて読みやすくまとめられている。

 ときに署名原稿もあるが、週刊4誌は新聞社系の週刊誌に対抗して、データマンやルポライターを駆使して、それらのデータをまとめる方式によって、特集をつくりあげてきた伝統芸である。最新号の特集について、その巧拙を論じるものではない。

  週刊4誌の販売部数の低迷の要因として、新聞社系にはない時代性を撃とうという出発点の思想が失われかけているのではないか、という考えに思い至った。インターネットによって、ある分野の情報については、わざわざ週刊誌に頼らなくなくてもよい時代になった、という論議は脇に置きたい。(週刊4誌がそろって取り上げた、都議会でのセクハラやじを受けた女性議員の過去などはそれに当たるだろう)

  週刊新潮やFOCUSなどの創刊にかかわった、伝説の編集者である斎藤十一について、没後に編まれた私家本のなかで、斎藤は週刊誌の本質について次のように語っている。

    ―― 「週刊新潮」のターゲットは。

   齋藤 サラリーマンの普通の人。自分と同じ人が読者だと思った。

   ―― 企画はすべて齋藤さんのものであると聞きましたが。

   齋藤 そういうことはいえない。すみません。

   ―― ほかの週刊誌は読みますか。

   齋藤 ほとんど読みませんよ。新聞だけ。僕は朝日と読売しかとっていない。もちろん、会社には全紙ありますが。

   ―― 「FOCUS」も齋藤さんのアイディアですね。

   齋藤 そうです。「FOCUS」はひとことでいえば「つらが見たい」ということなんですよ。

   ―― 売れるという自信があったと。

   齋藤 当たる当たらないというより、僕が絶対「つらが見たい」と思うから人も見たいだろうという考え方ですよ。

   ―― 特別な情報ルートを齋藤さんはお持ちですか。

   齋藤 ないですよ。

   ―― 会社の人以外とは合わないんですか。

   齋藤 僕は人とは付き合いませんからね。一人でいる方が楽。

   ――部員を集めて編集会議で企画の説明をされる。

   齋藤 僕は、編集会議をやったことがない。

   ―― どうやって企画を部員に伝えるんですか。

   齋藤 ここで説明します(別館2階28号)。今週のプランをね。野平君(注=二代目編集長)、松田君(注=三代目編集長をよんでね。

   ―― なぜ他誌にはない企画を思い付くのか。

   齋藤 俗物だからじゃないですか。俗物いうことに僕は自信を持ってますよ。僕みたいな俗物はまずいないだろうと。

   ―― 「週刊新潮」の狙い目とは。

   齋藤 申し上げたように僕は俗物ですからね。俗物が興味を持つものは決まっています。金と女と事件。

 

 斎藤がいう「金と女と事件」に興味を持つ俗物である、サラリーパーソンに応える特集を創造できるかどうか、いまも週刊4誌の編集者が、部数の増加の活路を探る道は同じだろう。

 「つらが見たい」とは、スキャンダルの主人公の顔である。斎藤は、殺人を犯した少年の顔写真を載せることにも躊躇しなかった。その是非はここでは論議しないとして。

  出版社系の週刊誌の「トップ屋」(スクープを追いかける記者)としてスタートした、作家の梶山季之が、1971年から死の直前まで約30号を出した月刊「噂」は、週刊4誌に必要なもうひとつの要素を提示しているように思う。

  「噂」の大きな柱は、大宅壮一郎や菊池寛といった過去の作家に関する座談会や、その当時の文壇の作家たちに関する情報であった。作家たちの創作を助けた編集たちの証言や随筆も掲載された。

  サラリーパーソンという「俗物」も、読書が充実したものでなくては、仕事もうまくは運ばない。それは、書評欄の充実だけを期待しているのではない。

 作家たちの実像を知りたい。純文学や中間小説という分野の分け方もいまや、明確ではなくなっている。ライトノベルも含めた数々の小説が、いまどのような星座の位置にあるのか、示してくれるようなものが欲しい。

  週刊4誌の編集者たちが意識しているように、ビジネス週刊誌は「金」つまり企業情報や利殖、年金問題などについては、その内容の深さがこのところ進化を続けている。

 こうした分野にどう対抗するのか。編集者の腕の見せ所である。

  週刊誌を買い求めるなかで、ちょっとした驚きがあった。JR恵比寿駅のホームのKIOSKは無人つまり、自動販売機が並んでいる店舗だった。新聞は、日経以外スポーツ紙しかなく、週刊誌はなかった。代わりにビジネスに関する文庫本など30冊近くが並ぶ販売機があった。

 無人のKIOSKに週刊誌がない時代が到来しているのである。

 

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