新しいコンテンツとデジタル化にまい進
プロ野球の横浜DeNAの本拠地の球場からほど近い、日本新聞博物館のライブラリーには、全国各地の新聞がそれぞれ日付ごとに、書架に二つ折りで整理されている。
北海道新聞、東奥日報、河北新報、信濃毎日……近日付の新聞を手に取れば、インクの匂いとともに、ふるさとのいまが浮かび上がる。
地方紙はいま、全国紙と地方の小都市を基盤とする、地域紙のはざまで部数と広告獲得の厳しい競争にさらされている。
ライブラリーの地方紙の紙面には、そうした戦いを勝ち抜こうとしている新聞人の歴戦のあとが刻まれている。
本拠地の情報をより重視したり、シニア向けや子ども向けの紙面を充実させたり、新しいコンテンツづくりがそのキーとなっている。
さらには、紙の戦いの外で繰り広げられている、電子版の競争である。先行する全国紙に急追して、紙とのセットで部数を守る戦略である。
新聞業界は今春の消費税の増税をどう乗り切るか、に苦闘してきた。全国紙に並ぶようにして、地方紙のほとんどは増税分を購読料の引き上げの形で飲み込んだ。しかしながら、地域紙のなかには購読料を据え置いた新聞も多かった。
北海道新聞や神戸新聞、西日本新聞など、有力な地方紙をみると、「セット割れ」つまり朝夕を読める地域の読者が、夕刊をとらない現象が、消費税の増税によって増加傾向に歯止めがかかっていない。
地方紙の魅力は、世界や日本の主要なニュースを網羅しながら、地方のニュースを情報量と内容の深さを伴って提供するところにある。全国紙が府県などに敷いている取材網を人的に圧倒している。
北海道新聞の6月20日付の1面トップは「求ム晴天」のカタカナまじりの大見出しもとに、道内の記録的な長雨の状況を報道している。畜産農家が干し草を干せなくなったり、コンブ漁の船が出せなくなったりして、影響が広がっている様子を道内の取材網を駆使してまとめている。
中国新聞の6月19日付の1面の左肩にあしらわれた、準トップ級のニュースは、尾道市と愛媛県今治市を結ぶ「しまなみ」街道のサイクリングコースが、米国の旅行サイトによって「世界7大コース」に指定されたことを報じている。
いずれも、全国紙の紙面でも読みたいところだ。
西日本新聞の夕刊の地域密着ぶりは、全国紙を見慣れている視点からは驚かされる。しかしながら、仕事から帰って自宅で広げる夕刊という性格と、地域の人々が話題にしているのはなにか、という素直な報道姿勢からすると、当然であると思う。
6月18日の夕刊は1面トップで、全九州ラグビー選手権の福岡県予選において、修猷館と小倉高校という地元の名門進学校が、決勝で戦うことになったことを報じている。
2014W杯ブラジル大会の結果は1面の左隅に、点数だけの勝敗表が掲載されているだけで、詳細は中の面に譲っている。
夕刊における地域密着に紙面づくりは、朝日が首都圏で試みているところではあるが、いかにせん首都圏の3700万人の人々が共通して語る話題を見出すのには苦闘しているようにみえる。
部数の争奪戦と維持のカギは、シニアと子ども向けの新しいコンテンツである。
北海道新聞が今春から週に1回の定期掲載をしている「シニア面」を読む。
6月16日付の13面のトップは「、「雪との暮らし方 高齢者のヒントに」である。地元の大学の教員が共同研究した、積雪寒冷地の高齢者の生きる工夫が網羅されている。
西日本新聞の「もの知りタイムズ」面は、ルビを振って、ニュースのポイントを解説する。文体も、「新聞くん」と「おリカ」というマスコットの対話の形式をとって、子どもに読みやすい。6月20日付では、「AKB総選挙」を取り上げている。
全国紙に比べて、有力な地方紙は販売網と長年の読者に支えられてきたことから、電子化の動きはこれまで一部を除いて鈍かったといえるだろう。ところが、朝日や毎日が、紙の購読者に対して無料の電子サービスを始めたことから、様相は大きく変化してきた。
北海道新聞と山陽新聞がいずれも6月から電子版を開始する。こうした流れはさらに進み、「紙も電子も」の戦略が業界地図を塗り替えていくことだろう。もちろん、電子化は新聞社がさけては通れない関門である。