角川歴彦氏が着々と進めるコングロマリッド化
角川書店の持ち株会社であるKADOKAWAと、ニコニコ動画の運営会社であるドワンゴが経営統合する。今秋に設立される新たな持ち株会社の傘下に両社が入る、完全子会社として入る。
この経営統合に関して、大手新聞は1面や総合面で報じるとともに、解説記事を添えた。重要なニュースとして取り扱った論点をみると、メディアのなかで異業種の経営統合であった点と、今世紀初頭の米国でメディア・コングロマリッド時代を告げた、AOLとタイム・ワーナーの合併とその後の合併解消の類推である。
ここでは、こうした視点から離れて、KADOKAWAの会長を務める角川歴彦氏の経営者としての視点から今回の経営統合を眺めてみよう。
それは、クラウド時代がもたらす革命のなかで、メディアが生き残るメディア・コングロマリッド戦略をいかに立案するべきかという、別の視点である。
その視点からは、経営統合する両社がけっして異業種ではなく、またクラウド時代が本格化する以前のAOLとタイム・ワーナーの合併と比較するのは間違いであることがわかってくる。
客である角川氏がこれまで提起してきた問題は多岐にわたる。電子書籍の出版と普及の先頭に立つとともに、その流通において、著作権法が出版社の権利の保護が十分でない点や、アマゾンとの果敢な書籍の利幅をめぐる交渉、国家的なクラウドの推進を図る「東雲(しののめ)計画」など。
メディアの経営トップとして、そこに一貫しているのは、クラウド時代にどのような形で生き延びるかという強い意思である。
『クラウド時代と<クール革命>』(2010年、角川oneテーマ21)は今回の経営統合により改めて、角川氏の先見性の宣言であることがわかる。
「ITメディの先進国のアメリカでは、名だたる新聞社や出版社の淘汰と統合を通じてメディアの激震や産業構造の変化が進んでいる。アメリカに追随する日本にその波が到達するのはおそらく2014年だ。新しい時代には、大衆の気分と『クール革命』を見極める豊かな『事業構想力』を持った知的企業だけが、生き残る」
角川氏が説く「クール革命」の定義はこうだ。
「21世紀に入って大衆は140字でつぶやくマイクロブログの『ツイッター』などを媒体にして無名の『個人』からリアルタイムの巨大な『メディア』となった。『大衆』の英知が誰もがアクセスでき、大衆が『すごい』『カッコいい』『クール』と賞賛するモノや出来事が社会を変革していく。それが『クール革命』だ」
米国で起きるメディアの激震が日本に及ぶと、角川氏が予言した、その2014年にドワンゴとの経営統合を図ったのは偶然ではないだろう。
クラウド時代に大衆がクールと考えるコンテンツを、インターネットを通じて配信する戦略をKADOKAWAグループは着々と進めてきた。それはクールなコンテンツを大衆に送りだしているメディアとの協業あるは傘下に収める道のりであった。
「ライトノベル」といわれるアニメ調のイラストなどをあしらった出版会社のグループ化などである。コミックに力を注いできたことと並んで、グループの特徴となっている。
そうしたコンテンツをユーチューブにアップしていったのは、2008年からである。インターネットサービスが往々にして、大衆の著作権を侵害する投稿によって問題視されているなかで、角川の取り組みは先進的であった。
クラウド革命を産業革命に匹敵する出来事である、と歴史的に位置づける角川氏が、ドワンゴとの関係を深めるのは当然であった。2010年に電子書籍などで提携すると、翌年には資本関係を結んでいる。
ドワンゴはまさに、大衆が映像のコンテンツを自ら制作して投稿し、それをまた大衆がクールかどうかを決めていくクラウド型の映像サービスである。
3月末時点の登録会員数は、 登録会員数3,936万人に達する。有料のプレミアム会員数223万人。2013年9月期決算の売上高は359億円、最終利益は22億円である。
このシリーズでは、今世紀に入ってからインターネットによって、「映像の世紀」と呼ばれた前世紀から、映像の地位はいっそう大きくなってきていることを、幾度か取り上げてきた。
クラウド時代のクールなコンテンツの視点からみると、今回の経営統合は異業種によるものではなく、インターネットを自在に使って大衆にコンテンツを配信する戦略をもった者同士が成し遂げた結果である。
AOLとタイム・ワーナーの合併とその解消を例にとって、経営統合の成否を論じるのはどうか。それよりも、クラウド時代の覇者であるアマゾンの創業者のジェフ・ベゾスが、デジタル時代の新聞づくりに挑戦中のワシントンポストを買収した事例をあげるのが、適切ではないだろうか。
それは角川氏が述べているように、メディア界を襲っている激震であり、産業構造の変化であり、現在進行形の日米共通のメディア経営のドラマなのである。