ブログ

スマートフォン時代のテレビの生き残り戦略

2014年5月15日

このエントリーをはてなブックマークに追加

日本テレビがHulu日本事業買収、フジはネット有料チャンネル

  視聴者や読者がコンテンツに触れるスクリーンやテレビ、スマートフォン、タブレット型端末などの機器を欧米のメディアは、「窓」(Window)と呼ぶ。

 急速に普及が進む、スマートフォンやタブレット型端末にコンテンツを制作するテレビ局が、いかに対応していくのか。こうした新たな大きく成長する「窓」のなかでは、新聞・雑誌のニュースアプリや、ゲームをはじめとするコンテンツが、利用者の時間を獲得しようとしのぎを削っている。

 地上波とBS、CSの三つの「窓」に向かって、これまでコンテンツを配信してきたテレビ局は、スマホ時代の挑戦のときを迎えている。

 フジテレビは3月中旬から、「第4のテレビ開局」のキャッチコピーを掲げて、新たなネットの有料チャンネルをスタートした。24時間の総合編成つまりドラマやスポーツ、バラエティなど、さまざまなコンテンツを配信する「NEXTsmart」である。

 これに先立って、日本テレビは、米国のネット配信会社Huluの日本事業を買収することを発表した。米国で成長した同社は、日本市場の攻略に成功しているとはいえなかった。しかしながら、日本テレビは自社のコンテンツをネットの有料配信をする「窓」として、Huluのブランドと配信技術を手に入れた。

 フジと日テレのネット配信は、月額の「定額制」である。日本の民放業界ではこれまでネット配信の分野で、コンテンツごとの課金が試みられえてきた。地上波の無料の広告モデルから脱皮を図ろうとしていたが、市場は十分に開拓できたとはいえない。

 両社の新戦略の成否は、スマホのユーザーに向けたコンテンツの魅力にかかっているのはいうまでもない。

 フジの「NEXTsmart」の番組編成の枠組みをみていくと、F1グランプリや欧州と日本のサッカーリーグの試合など、昼夜を問わずにスマホのユーザーの多くの部分を占める20歳代や30歳代をターゲットにしていることがわかる。

 さらに、フジが制作した映画の放映がある。東方神起ら人気グループの番組もある。

24時間編成の番組の帯からは、スマホユーザーがいつでもどこでも、気軽に視聴できる編成の狙いが推測できる。

 スマホユーザーの特性として、テレビ業界では「マルチスクリーン」と呼ばれる戦略が注目されている。テレビをみながら、スマホでも関連の情報をみるつまり、同時にふたつの「窓」をみる人々の増加である。

 「NEXTsmart」の番組編成のスポーツやF1の番組が示す方向性もまた、マルチスクリーン戦略と一致しているようにみえる。民放の主力である地上波の番組を楽しみながら、あるいはスマホ向けの配信番組をみながら、別の「窓」のコンテンツを楽しむことができそうである。

 日本テレビのネット有料放送の番組編成に期待したいのは、ドラマやバラエティ、自社制作の映画ばかりではない。民放のなかでは、TBSとともにCS放送で24時間のニュースチャンネルを持っている。事件や事故など、突発的なニュースに対して、中継などの態勢をとれる。

 スマホという「窓」のなかで、ニュース映像をどのように他の番組と編成して配信できるか、民放全体にとっても課題である。

 フジが掲げる「第4のテレビ開局」のキャッチコピーには、地上波とBS、CSに次ぐという期待が込められている。後者の衛星メディアは、着実にその広告費を伸ばして、

ラジオのそれを追い抜く位置まできている。

  電通の2013年版「日本の広告費」の統計によると、BS、CSとそれを放送しているCATVも含めた衛星メディアの広告費は、前年比9.6%増の1110億円。ほぼ横ばいが続くラジオの1242億円に迫る。新聞と雑誌、ラジオ、テレビが主要4媒体いわゆる「4マス」時代は間もなく変わりそうだ。

  テレビ局の収入構造からみると、地上波頼みの1本足打法から衛星メディアが支えるようになってきていることを意味する。

  日テレとフジのネットの有料配信がいずれ、衛星メディアのように着実に経営の基盤となるかどうか。それはスマホという「窓」のユーザーの特性をいかにつかむかにかかっている。

  WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本

 http://wedge.ismedia.jp/category/tv

このエントリーをはてなブックマークに追加