毎日新聞社が今秋をめどに、出版部門を切り離して分社化する。2月初旬にこのための企画会社を設立した。大手紙としては、編集局とならぶ出版局を独立させるはシンガリとなる。
しかしながら、毎日の挑戦は先行したライバルの分社の当時の業界の環境とは異なり、電子新聞がようやく日本で本格化するとともに、電子書籍も市場が立ち上がろうとしているなかで、デジタル時代の新聞社の総合戦略といえる。
毎日の挑戦は、はからずも市場の収縮が続いている出版業界全体の生き残りの方向性とも重なり合う。
ここでは、いったん新聞業界の出版部門すなわち、編集局とならぶ出版局の分社化の話から離れて、出版業界に目を転じてみたい。
大手出版社の講談社が2月中旬に発表した11月期決算(2012年12月~2013年11月)によると、19期ぶりに増収増益となった。売り上げの減少にようやく歯止めがかかった。売上高は前期比2.0%増の1202億円。10年前は1672億円だった。
出版業界全体の売上高をみると、実は1997年から17年間の長きにわたって減少傾向をたどっているのである。
そうしたなかで、講談社の復調の要因はどこにあるのか。ベストセラーとなった『海賊と呼ばれた男』やアニメの『進撃の巨人』が売上高の底上げとなった。
それよりも業界が注目したのは、電子書籍などデジタル・ライツを中心とする、その他の売上の著しい増加だった。この項目の売上高は前期比24%増の117億円にのぼっている。
講談社は野間省伸社長のもとで、積極的なデジタル戦略を進めてきたことで知られる。
さて、毎日新聞のデジタル戦略である。電子新聞で先行する日経と朝日を追って、毎日が本格的にこの分野に参入したのは昨秋のことである。「紙」の購読者であれば、PCやタブレット型端末、スマートフォンで記事を読むことができる。付加料金はない。
「毎日新聞愛読者セット」と名付けた新サービスは、1月中旬に会員数がすでに10万人を超えて、さらにテレビコマーシャルの効果などもあって増加傾向をたどっている。
電子新聞のシンガリともいえる毎日が、紙の購読料に付加料金がかかる日経と朝日と単純には比較はできないが、新しいサービスは業界のなかで短期間にその存在感を高めたといえるだろう。
消費税の引き上げが迫るなかで、部数の減少を食い止めるひとつの手段に過ぎず、会員の獲得は容易ではない、とみていたライバル紙を驚かせた。
毎日の成功の背景には、世界のPCの生産台数はすでに昨年、タブレット型端末に抜かれたと推定されている。スマートフォンの普及が、アンドロイド端末の多様性がでてきたこともあって、急速に伸びていることある。シンガリは必ずしも不利ではない。デジタルをめぐる市場は一挙に激変するのである。
毎日の出版部門を分社の母体となる、設立した企画会社の経営陣には、既存の出版局の幹部も起用されているが、デジタル部門を総合的に担当している役員も経営層に加わっている。
同社の出版部門の書籍の年間刊行点数は約100点。雑誌には戦前からの歴史を誇る『サンデー毎日』や、『エコノミスト』の週刊誌など5媒体がある。
こうした書籍・雑誌をデジタル市場にどのように展開していくのか、新聞の電子サービスとの協調をどのように図るのか。
新聞業界のみならず、出版業界もまた注目している。
新聞業界における、これまでの出版部門の分離は、採算性が落ちてきたこの部門を切り離して、経営の効率を高めようとしたり、独立することによって自由な発想から書籍・雑誌をつくっていこうとしたりする試みであった、と考える。
朝日新聞が2008年4月に出版本部を独立させて、朝日新聞出版を設立した狙いもそこにあった。読売新聞が1999年に中央公論新社を傘下におさめるとともに、その後自社の週刊誌を休刊していったのも、形式こそ違え方向性は同じだった。
こうした新聞社の出版部門もまた、デジタル時代に書籍・雑誌をどのように適用させるかは、経営の重要な課題となっている。
最後にもうひとつ。新聞社の出版部門の分離は、デジタル化時代をみすえるとき、あるべき経営判断だとは考える。しかしながら、私の個人的な経験では、人材の養成という観点から、分離は惜しいと思う。新聞記者から新聞社の出版部門に異動して、週刊誌記者・編集者をやったのち、再び新聞記者に戻った。雑誌時代に培った記事の企画能力やカバーストーリーを描く手法は、その後の新聞人生に大いに役立った。なに、新聞社と分社した出版会社の間で互いに出向の人事をすればよいのではあるが。ふたつの会社になると、これがなかなか容易ではないのは、朝日と読売の例からよくわかる。
Daily Diamondは、週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。