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デジタル・ニュースは「映像」も「テキスト」も

2014年1月6日

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 メディアの世界で議論されてきた「紙かデジタルか」の神学論争が終焉したのも、つかの間で、「テキストか映像か」の論議が本格的になされるようになった。

 新聞や雑誌など伝統的な紙のメディアが、「紙もデジタルも」の戦略にようやくたどりついたように、「映像もテキストも」の時代はすぐそこに迫っている。

 民主主義の基盤となるジャーナリズムを担うメディア企業が、経営を継続するためにいかなる戦略を練るべきかという根本的な課題にかかわる。

  ニューヨーク・タイムズ(NYT)が昨年制作した「Snow Fall」は、テキストと写真、動画を組み合わせて巨大雪崩の被害の実態について、インタビューばかりではなく、地形図や当時の観測衛星からの映像などを組み合わせて描いた。テキストと映像を単純にひとつのウエブページのなかでみせたのではなく、積雪を背景としたタイトルから記事、女性プロスキーヤーのビデオ証言まで、ストレスなく流れるように読み、見ることができる。

http://www.nytimes.com/projects/2012/snow-fall/#/?part=tunnel-creek

 NYTは素材のすべてを自前で制作するのではなく、外部のビデオ撮影スタッフやひとつの作品に仕上げるデジタルの専門家とも協力している。これからのメディア企業の編集・編成機能のあり方を示した。

  政治分野をはじめとして、独立したジャーナリストたちが記事を書くサイトとして成功を収めたハフィントン・ポストの創業者もまた、動画ニュースのサイト「NOWTHIS NEWS」を立ち上げたばかりである。(http://www.nowthisnews.com/

  政治・経済に関する硬派なニュースばかりではなく、身近な社会ネタを映像と3D動画を組み合わせて見せるTOMO NEWS(http://jp.tomonews.net/)は、台湾のアニメーション企業がはじめたニュースサイトである。台湾と香港、日本、米国で配信している。

 例えば、12月16日に島根県庁の時計約250が止まった出来事をJRの駅の大型時計の映像や、県職員が出勤してきたときの3Dによる再現映像なども組み合わせている。

  デジタル時代のメディア起業家たちが、新しいニュースの在り方を開拓している。メディアの外縁部の小さな変化が、既存の新聞や雑誌、テレビの牙城を揺るがす。

  ドワンゴが運営している「ニコニコ動画」の2013年9月期決算によると、登録会員数は3626万にも達する。このうち、有料のプレミアム会員は211万人である。

 月間の平均訪問者数(UU)は846万人で、平均滞在時間は1人当たり1日に1時間44分である。

 「情報メディア白書2013」(ダイヤモンド社刊)によると、「国民生活時間調査」の推移は、マスメディアに対する接触時間は2010年に1人当たり、1日に4時間28分である。

このうち、テレビが3時間28分、ラジオが20分、新聞が19分である。

  つまり、ニコニコ動画の会員の視聴時間は、テレビ視聴の半分もの時間を費やしていることになる。会員の年齢構成は、10代が約2割、20代が約4割、30代が約2割である。

若者たちの「活字離れ」と同様に、「テレビ離れ」の現象を推定できる。

  メディア企業の経営を支える大きな柱である広告費は、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ広告のいわゆる「4マス(メディア)」のパイを奪う形で、ネット広告が成長してきた。リーマンショックと東日本大震災の影響から脱して、4マスは底を打ち、テレビが上向く傾向をみせている。さらに、ネット広告が踊り場にさしかかって、成長の速度が落ちている、との見方が、世界の広告市場で広がっている。

  しかしながら、ネット広告はまず、テキスト分野の広告を奪って行ったのであり、ネットの「映像もテキストも」の時代がこれから本格的に進展する過程のなかで、再び大きな成長段階に入ると推測できる。

  ちなみに、2012年の日本の広告費は5兆8900億円。そのうち、テレビが1兆7700億円、それに続いてネットが8600億円、新聞が6200億円、雑誌が2500億円、ラジオが1200億円である。

  ネットメディアの起業家たちは、メディアの境目を軽々と越えている。YouTubeのなかで、自ら制作した番組を投稿する「ユーチューバー(YouTuber)」と呼ばれる若者たちが現れている。ひとりでネット上に放送局を立ち上げる、といえばそのイメージが浮かび上がる。自分の仕事を持ちながら、この分野でも活躍する人ばかりではなく、専業つまり事業として成り立つ起業家も、日本にも出てきた。

  MEGWIN(http://www.youtube.com/user/megwin)は、独自制作のバラエティーやコントともいえる番組を配信している。「アルコール全開でほどよい!?」は、テキーラやウォッカ、ピンクレモネードなどでオリジナルのカクテルを作って、悪酔いするというたわいもない映像だが十分に楽しめる。

 Hikakin TV(http://www.youtube.com/user/HikakinTV)は、商品や携帯電話の販売店とのタイアップを最初からうたって、チョコレート作りなどを演じる番組などを配信している。独自の卓上カレンダーやマグカップをプレゼントするという趣向は、テレビのショップチャンネルの発想を超えている。

  いずれも、大手企業のCMが流れる。

  新聞や雑誌の「紙メディア」がようやく、デジタルの世界に追いついたと思ったら、映像という新しい目標が目の前に現れた。

  記者や編集者たちは、新たなコンテンツ作りの技術を学ばなければならない。まずはやってみることなのだろう。ニューヨーク・タイムズのように。メディア企業の外には、ともにコンテンツを作る、才能ある若者たちがたくさんいるではないか。

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