スマートフォン向けの「ニュースリーダー・アプリケーション」の運営会社である、スマートニュース社が、東京・渋谷に開いた新しいオフィスのオープニング・パーティーに参加した。10月中旬の週末のことである。ビルのワンフロアの壁をほぼ撤去して、広々としたそのオフィスは西海岸のIT企業を思わせる解放感にあふれている。
ニュースリーダーとはなにか。閲読者の関心に合わせて、最適なニュースを読むことができるアプリである。その最適なニュースを収集する機能は、アプリによってそれぞれ工夫がこらされている。
スマートニュースは2012年6月の設立で、サービス開始から1年ほどで200万人以上がアプリをダウンロードしている。さらに、投資ファンドから第3者割当増資の形で、4億2000万円の資金を導入したばかりだ。
創業者の浜本階生氏は、1981年生まれ。東京工業大学卒業後、ウェブのシステム会社で働きながら、ヤフーなどが主催するアプリのコンテストの上位入賞者の常連だった。
アプリのダウンロード数の驚異的な伸びと、ファンドの出資を受けたことで、「サクラ・ドリーム」の体現者になるといわれている。ちなみに、サクラ・ドリームとは、東南アジアの若者のなかで、日本で仕事をして成功する夢をいう。アメリカン・ドリームよりも落ち着いた響きがある。
スマートニュースをアイフォンの画面で見る。「トップ」から「エンタメ」「スポーツ」「グルメ」などのタグが上部に並ぶ。スライドさせると、「コラム」「国内」などのジャンルもある。
「トップ」の上部には、カレンダー機能と天気の表示がある。その下にニュースの項目がある。ニュースを閲読するための操作、つまりユーザー・インターフェイス(UI)がスムーズで使いやすい。横にスライドする形で、ニュースのジャンルが次々に現れる。
スマートニュースの機能のなかで、ネットのニュース配信のビジネス・モデルに変化をもたらす可能性があるのが、「プラス」である。ハフィントンポスト・ジャパンや共同通信ニュース、講談社のサッカー専門ネットメディア・ゲキサカ、ロイターなど、「チャンネル」と呼ぶメディアが20ある。購読者が選んだメディアは、ジャンルのバーのなかにタグとして現れる。
スマートニュースが、閲読者に最適なニュースを選ぶ手法は、ツイッターのニュースに関するURLの分析にある。膨大な情報のなかから選別するシステムの「エンジン」が、スマートニュースのノウハウの核心部分である。
新オフィスのオープニング・パーティーには、パートナーであるメディア企業の代表たちも詰めかけていた。スマートニュースのアプリの急速な普及によって、これを経由する閲読者の数が、自らのアプリやさまざまなサービスのプラットフォームを経由した閲読者の数にひけをとらなくなった、ともらす関係者もいた。
スマートニュースのライバルと目されているのが、グノシー(Gunosy)である。閲読の登録にあって、フェイスブックやツイッターのアカウントを求める。閲読者の関心に従って、「朝刊」と「夕刊」が配信される。あらかじめ、「政治」や「経済」など、関心が高いジャンルも選択できる。
記事を読んで、「いいね」や「シェア」をするたびに、閲読者の関心を読み取って、ニュースの選択がより最適化していく仕組みである。
グノシーは2012年11月の設立で、東京大学の大学院生がシステムを開発した。
「サクラ・ドリーム」を実現しようとしている、若者のニュースリーダー・アプリにかける理念は、傾聴に値する。
スマートニュースの創業者のひとりである取締役の鈴木健氏は、パーティーのあいさつで次のように語っている。
「われわれのライバルは、ヤフーニュースやグーグルニュースとお考えのかたが多いでしょう。でも、私はそうは考えていないのです。ライバルは、ゲームです。電車に乗っている若者が手にしているスマートフォンはいま、ゲームに一番時間が使われています。ニュースリーダーによって、良質なニュースを読んでもらうことによって、社会が変わっていくと信じています」
ニュースを製作・制作するメディアの志とも通じる考えである。
ニュースのデジタル配信のビジネス・モデルは、ニュースリーダー・アプリによって変化するだろう。従来のように、ホームページを立ち上げて、さらにスマートフォンやタブレット型端末に最適化する。あるいは、みずからのアプリを開発する。
ニュースリーダーとの関係をこれからどう構築するのか。さらには、従来のデジタル配信のありかたそのものを見直すことになるかもしれない。
その結果として、ニュースのデジタル配信による収益が向上できる可能性もでていくるだろう。
新聞や雑誌界では、「紙かデジタルか」の神学論争はすでに決着をみて、「紙もデジタルも」の時代に突入している。
デジタル分野の小さな変化が、ビジネス・モデルの再構築につながる大きな潮流になる。その瞬間を見逃さないことは勿論である。
そればかりではなく、西海岸のIT企業の創造性に溜息をついてばかりいないで、「サクラ・ドリーム」の担い手たちにも敬意を払う時期にきている。