テレビ朝日のグループ会社を改組して、認定持ち株会社のテレビ朝日ホールディングが2014年4月にスタートする。それを議案とする臨時株主総会が9月末に開催される。在京キー局としては、持ち株会社化は最後となる。
認定持ち株会社とは、総務省が認定する意味である。ひとつの資本が影響力のある放送会社を複数所有できない、「マスメディア集中排除の原則」は放送行政の根幹となってきた。地上波のみならずBSやCS放送の多局化とデジタル化、さらにインターネットによる放送の経営環境の変化にともなって、持ち株会社化によって、放送会社の経営基盤を強化する目的がある。
テレビ朝日ホールディングスの設立後の会社概要図によると、持ち株会社の傘下にテレビ朝日と、ビーエス朝日、CS放送のシーエス・ワンテンの3社が完全子会社となる。
「日本でトップグループのコンテンツ総合産業」を目指すための戦略である、としている。テレビ朝日は2012年度の年間視聴率において、「ゴールデンタイム」と「プライムタイム」の平均視聴率がキー局でトップの2冠である。
持ち株会社の設立を待たずとも、テレビ朝日はすでに、地上波とBS、CSの番組を総合的に編成する総合戦略部を設置している。報道局にはクロスメディアセンターがある。
日本の放送会社はそもそも、新聞社が中心となって設立され、マスメディア集中排除の原則をくぐり抜けるために、設立の申請にあたって新聞社が複数の提携する企業と組んで、自らの出資比率を表面的に引き下げた。集中排除の原則は米国の放送規制を導入したものである。通信・放送の規制緩和が1980年代から進展したが、新聞は原則としてテレビ局を傘下に治めることはできない。
読売新聞と日本テレビ、朝日新聞とテレビ朝日、日本経済新聞とテレビ東京、産経新聞とフジテレビ、毎日新聞とTBSの関係にみられるように、日本の放送史は、新聞社による支配と系列化によって始まった。
毎日新聞が70年代の経営悪化によって、所有していたTBSの株式を手放したり、逆にフジテレビが産経新聞に出資比率を高めたり、新聞とテレビ局との支配関係には変化があった。
テレビ朝日ホールディングスの設立によって、朝日新聞社との関係は将来的にどうなるのか。新聞社が放送局を完全に支配下に置く、読売―日テレと日経―テレビ東京、支配関係から協力関係になっている、毎日―TBS、フジ・メディアホールディングスの持分法適用関連会社となった産経、いずれの方向に行くのであろうか。はたまた、別の関係を築くことになるのか。
それは、新聞社と放送局がこれからのメディア・コングロマリッド(複合体)をどのように構築していくかの戦略にも大きくかかわってくる。
朝日―テレ朝の将来を予測するためには、「資本の論理」に基づいたいくつかの補助線を引くことによって読み解くことができるだろう。
テレビ朝日は、朝日新聞社の決算を受けて、「親会社等の決算に関するお知らせ」と題するリリースを5月22日に出している。
「親会社」朝日新聞による、子会社であるテレビ朝日の出資比率は24.72%である。確かに商法上、ある会社が20%以上の株式を取得していて、両社が同様の意思決定をする条件があれば、親会社と子会社の関係と呼ぶことはできる。
朝日新聞社の2013年3月期の有価証券報告書の「関連会社の状況」の項目において、持分法適用会社であるテレビ朝日について、欄外の注記は「持分は100分の50以下ではあるが、実質的に支配しているため子会社とした」としている。
しかしながら、一般的には、親会社と子会社というときには、連結対象かどうかが、その結びつきの強さを示す。つまり、出資比率が50%以上かあるいは40%以上であって、親会社出身の役員が経営を握っている場合などである。
ちなみに、フジ・メディア・ホールディングスの産経新聞の出資比率は、39.99%である。連結対象ではなく、持分法適用会社である。前者の有価証券報告書によれが、関連会社ではあるが、子会社ではない。
テレビ朝日は2008年6月に、朝日新聞の社主から株式総数の11.88%に相当する38万株を約239億円で購入した。一族の相続対策を視野に入れた売買であった。この際に、朝日新聞社はテレビ朝日の一部を売却して、33.85%から現在の24%台に引き下げた。特別決議にかかわる3分の1以上の株式を持った子会社が、親会社の株主総会で議決権を行使できないからである。
これによって、テレビ朝日は、朝日新聞の第2位の株主となるとともに、資本の論理からみれば、親会社の支配力が弱まった。その後、テレ朝のトップは新聞社出身者から初めて、テレビ出身者に代わった。次期社長候補といわれた、新聞社出身の役員が退任する人事もあった。傘下の拠点局の一部のトップもまた、新聞からテレビ出身に交代した。
テレビ朝日ホールディングスの経営体制が固まるのは、その商号が議案として採択される予定の12月の臨時株主総会とその後の取締役会であろう。
資本の論理から導き出されるのは、テレビ朝日が主導する形が予想される。
「親会社」の新聞社にとって、子会社のキー局とその系列局の経営層に人材を送り込めるかどうかは、本体の経営層の人事と大きくからむ。
それは、グループのメディア戦略の方向性を決める。
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