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出版取次3位・大阪屋の経営再建問題

2013年8月16日

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 出版社と書店の間に立って、書籍や雑誌を流通させる取次業界3位の大阪屋(大阪市)が、経営不振からその再建問題が、出版業界を揺るがしている。消費者からは見えない取次の仕組みは、印刷会社とともに、日本の豊かな出版文化を下支えしていきた。出版不況の長期化に加えて、デジタル化の大潮流が、出版業界全体の構造的な転換を迫っている。

 世界最大のネット書店であるアマゾンが、日本進出を図った際にその取次を担ったのが大阪屋であった。アマゾンの書籍・雑誌販売の推定額は約1500億円まで成長を遂げ、大阪屋と取引条件の改定交渉に入ったが、妥協点を見いだせずに、取次最大手の日版に取引先を変えた。大阪屋にとっては経営上の大きな痛手となった。主要な取引先であるブックファーストが、取次2位のトーハンの傘下に入ったことから、同社分の売上も失った。

 大阪屋の売上高は、主要な両社との取引があった決算期に比べて、約3分の2程度まで落ち込んだ。東京支社の売却などの手を打ったが経営危機は回避できなかった。

 7月末に業績修正を加えて明らかにされた、2013年3月期決算によると、売上高は942億5900万円、営業利益は3300万円の損失、経常利益も6 億1900万円の損失だった。純資産合計は、1億1804万円の欠損となった。

  経営再建の方策として大阪屋が選んだ道は、ネット販売大手の楽天の傘下に入るとともに、大手出版社などからの出資を増強してもらう方向だった。南雲隆男社長が楽天に対して第3社公募増資をすることを6月に明らかにしている。

 日本の出版の発達は、出版社が決めた価格が全国一律に適用される「再編制度」と、日版とトーハンを2大勢力とする取次の機能によって支えられてきた。

取次は単に書籍・雑誌の流通を担っているばかりではない。出版社は取次の金融機能によって経営を担保している。

 出版社から取次、それから書店の書籍・雑誌の流通の仕組みをみていこう。仮に定価1000円(税込1050円)の本の場合を想定する。出版社の大小による取次への卸価格の決定権の強弱や、書籍の種類によって各段階のマージンは異なるが、ここでは平均的なケースとする。

 出版社は取次に対して、700円つまり定価の70%700円で卸す。取次は定価の8%相当の80円を乗せる。書店は1000円の書籍を780円で仕入れることになる。

 取次は出版社に対して、一定期間後に卸値の代金を支払う。出版社からみると、書籍を現金化して、次の出版に備えることができる。取次との精算の際に資金がショートしない限りは、出版社は倒産しない。

 出版社と取次、書店の三位一体のビジネスモデルに加えて、印刷会社が日本の出版文化を担ってきた。出版社は企画と編集を中心として、書籍・雑誌の製作を担い、その出版社を川上とする大きな構図がある。

 こうした三位一体のモデルが、売り上げの大幅な減少に直面している。書籍と雑誌、雑誌広告費を合わせた、出版産業の売上高は、1997年に3兆円を超えていたのが、2012年には2兆円まで落ちている。

これに並行するように、書店数は、2000年から13年にかけて、1万5000店が閉店している。新規開店を加えても、8000店以上もの減少である。

 アマゾンをはじめとするネットの書籍・雑誌の販売の急速な増加が、こうした傾向に拍車をかけている。

 そして、書籍・雑誌のデジタル化の潮流である。インターネットメディア総研の調査によると、2012年度の電子書籍市場は前年度に比べて15.9%増の729億円である。書籍・雑誌全体の売り上げに占める比率は大きくはないが、従来の携帯向け配信中心から、アマゾンのキンドルなどの新しいプラットフォーム向けの需要が大きく伸びていることは、日本の出版業界のビジネスモデルが転換を迫られていることを示している。

新しいプラットフォーム向けは、市場の過半を占めて、前年度に比べて3倍以上の368億円になった。携帯向けは前年度比26.9%増の351億円である。

 大阪屋の経営危機は、こうした出版業界の転換期を象徴する出来事である。取次という部分をとってみると、百貨店やスーパーの再編劇にみられるように、業界の再編の波は避けられない。

ダイエーなどによって1970年代から本格化した「流通革命」は、価格破壊を中心とした既存の流通企業に対する挑戦であった。インターネット時代を迎えて、価格のみならず、質や鮮度などをいかにコンピューターとデジタル回線を結んで効率化するのか。新たな再編が世紀を越えて、繰り広げられてきた。

 出版業という大きな枠組みのなかでみるとき、同社の経営再建の方向性はどうであろうか。楽天の傘下に入り、大手出版社に資本の増強を求めるのは、緊急避難的な方策に過ぎないのではないか。

 出版業のありようは、国によってその歴史的な伝統のうえに成り立っている。日本の三位一体のビジネスモデルは、江戸の絵草子などのコンテンツの流通にまでさかのぼる。それが、「クールジャパン」に至る、日本の豊かな出版文化を育んできたのである。

 インターネット時代のネット販売やデジタル化は、あらゆる技術進歩がそうであるように、後戻りはない。

 この新しい時代に、出版業が担っている知の創造と、それを人々に伝える機能をどのように構築していくのか。出版人はその責任を問われているのである。

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