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「爆速」ヤフーが参院選の議席予測

2013年8月7日

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「衆参ねじれ解消確実 自公優勢を維持 民主は依然苦戦」(読売新聞)

「与党、過半数大きく超す 自民60台後半 民主20割れも」(日経新聞)

「自公70台安定多数へ 民主20前後、共産勢い」(毎日新聞)

  参議院選挙は終盤を迎えて、7月17日付朝刊の1面トップに各紙の情勢分析の見出しが大きく躍っている。メディアの選挙予測の精度は向上して、終盤情勢が明らかにされるときには、すでに選挙は終わっているともいえる。

 国政選挙におけるメディアのいつもの風景である。しかしながら、今回の参院選の予測のなかで、歴史的な重大な転換があったことは、あまり認識されていない。それはネット選挙が解禁されたことではない。

「ビッグデータが導き出した参議院選挙の議席予測 

Yahoo!  JAPANビッグデータリポート」

 日本最大のポータルサイトであるヤフーが7月8日に発表した。第2弾が7月12日に「更新」された。既存のメディアの予測にならっていうなら、第1弾の「序盤情勢」に続いて、「中盤情勢」がなされた。「終盤調査」にあたる、最終予測の発表も予告されている。

  このリポートについて、ヤフーは次のように述べている。

 「日本最大級のポータルサイトYahoo! JAPANに匿名化され、蓄積された検索・広告・ショッピング・地域情報・ソーシャル上のトレンド情報などあらゆるカテゴリーの膨大なデータを分析・活用し、世の中の問題解決を行っていくことを目的に展開しているもので、定期的に情報を更新してまいります」

  いわゆるビッグデータの解析によって、選挙予測の分野に乗り出したのである。ビッグデータとはなにか。「ビッグデータの正体」(V・M=ショーンベルガー&K・クキエ、斎藤栄一郎訳)によると、その定義は「小規模ではなしえないことを大きな規模で実行し、新たな知の抽出や価値の創出によって、市場、組織、さらには市民と政府の関係などを変えること」である。

  ヤフーによる参院選の議席予測をみていこう。ちなみに、政権が交代することになった前回の衆院選の終了後、ビッグデータの解析と結果がほぼ一致することを明らかにしている。今回の議席予測は、その経験の延長線上にある。

 分析モデルは、ふたつ。前回の分析から各政党への得票を補正する「相関モデル」と、過去の選挙を対象にして、公示前後の検索量の変化の増減率に着目、今回の変化をとりこんだ「投影モデル」である。このふたつのモデルを合わせて、議席数を予測している。

  第2弾の予測で、自民党は「相関モデル」で60、「投影モデル」で66議席。第1弾と比べると、前者モデルで1増、後者モデルで1減である。

公明党は前者モデルで2減の10、後者で1減の10。民主党は前者で変わらず22、後者モデルで1増の20である。

 「投影モデル」で野党の議席予測をみると、維新8、みんな5、共産9、社民1である。

  予測議席数について、既存のメディアのような数値の幅はない。地方区の議席も定数ごとに予測している。

  ビッグデータは、統計学の世界を一変させる。「抽出」ではなく「すべて」が分析の対象である。しかも、その分析は基本的に「因果関係」を求めるものではなく、「相関関係」を追求する。データ至上主義である。

  今回の参院選で、ヤフーが取り組んでいるのは、ビッグデータ解析ばかりではない。「みんなの政治」のサイトのなかで、「「ピッタリな政党と候補者診断します 相性診断」をユーザーに提供している。7月17日13:07時点で63万5000人以上が参加している。

 「憲法」や「経済」、「TPP」、「原発」、「税」、「くらし」の計6項目の計11項目の質問の選択肢を選ぶことによって、回答者の意見と一致している政党や候補者を選んでくれる仕組みである。

 憲法に関する質問をみてみよう。

  Q.憲法96条を改正し憲法改正の発議要件を衆参両院の「3分の2以上」から「2分の1以上」に緩和すべきだ

  選択肢は、賛成、やや賛成、中立、やや反対、である。

  質問を答えるうえでの参考に、「メリット」と「デメリット」が掲げられている。

  「ヤフーは、メディアか?」

 メディアの原義は、中間に立つ者という意味である。情報の発信者である政府や企業などの中間にたって、その情報を吟味し、ときによって批判する。日常の取材活動や世論調査によって、社会の問題のありようを提起する。アジェンダの設定である。

 メディアか否かの問題は、ジャーナリズムを担うかどうかにかかわってくる。

  ヤフーのトップは昨年、実質的に創業時代から経営の舵をとってきた、井上雅博氏から、40歳代の宮坂学氏に世代交代を果たした。新たなサービスに向けた果敢な企業買収戦略や、スマートフォンやパッド型端末向けのサービスの開発によって、「爆速」経営といわれている。

  前任者の井上氏は、ヤフーがメディアか、という質問に対して、軽妙洒脱な表現によってこう答えていた。

 「新聞配達はしますが、新聞社にはなりません」

 つまり、ポータルサイトとして、コンテンツをユーザーに届けるが、コンテンツそのものを製作することはない、という意味である。

  ビッグデータの存在と、その分析による可能性の地平線が大きく広がったいま、ヤフーに対して再び、「メディアなのか?」という問いかけが必要である。

 「匿名化され、蓄積された」利用者のデータによって、思想、信条の自由にかかわる選挙という分野に予測を持ち込んだ。さらに、政党と候補者と有権者とのマッチングのために、アジェンダの設定をした。

  わたしはその答えを性急に求めているのではない。あるいは、今回の参議院選挙におけるヤフーの活動について非難するものでもない。

 ビッグデータ時代は、すべての社会的な枠組みを激変する可能性を秘めている。

 既存のメディアもジャーナリズムも、ビッグデータの解析によって、挑戦を受けているのである。

 ビッグデータの解析をめぐるルールがまだ、確立されていないのである。従来の法規では規律できない領域が急速に広がっている。

  前述の「ビッグデータの正体」は、現在の公認会計士や企業の内部監査人に相当するような「アルゴリズミスト」という、新しい職業人が必要であると説く。データ解析にいたる数学的・統計学的な「アルゴリズム」から名付けた。

 ビッグデータの解析が、プライバシーの侵害にいたらないか、企業の内外からチャックしなければならない、というものである。

  ビッグデータ時代のメディアとジャーナリズムのありようについて、既存のメディアの側からも論議が高まることを期待したいと思う。ヤフーの選挙予測は、その大きなひとつのきっかけになると考える。

 

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