NHK徳島放送局が制作した「狸な家族」を観た。BSプレミアムが6月26日に全国放送した。四国4県の総合放送で10月4日に再放送される。同局が開局80周年を記念する「徳島発地域ドラマ」である。
「地域発ドラマ」というジャンルがある。東京のキー局やNHKの東京、大阪や、民放のキー局、大阪、
テレビの草創期や1980年代まで、民放ではTBSの「日曜劇場」を中心として、地方局がドラマをつくることはあった。NHKでは1977年から2006年まであった、夜間帯の「銀河テレビ小説」のなかで、地方局制作のドラマがあった。
その「地域発ドラマ」が復活を遂げつつある。
「狸な家族」は徳島県三好市の山間部集落が舞台である。俳優の中島新作(渡辺いっけい)は芝居に憧れて上京し、やはり女優志望だった初子(坂井亜紀)と結婚、娘が生まれる。役者として芽が出なかったので、家族一緒に実家で農家の母親菊子(富士真奈美)のもとにいったん戻る。しかし、夢をあきらめ切れずに家族を残して再び上京し、父親役の俳優として成功をおさめる。携帯電話やメールでは妻と連絡をとっているが、15年間も故郷に帰っていない。
有名俳優と家族の交流を描くテレビ番組に、中島は出演が決まる。父親役として人気をさらに高める絶好の機会と考える。
実家に帰ってみると、そこには、居候という松木正太郎(荒川良々)が、母や妻、娘とまるで家族のように暮らしている。松木役の荒川はいまでは、連続テレビ小説「あまちゃん」の副駅長役で知られる。脚本の宮藤官九郎が初監督した映画「真夜中の弥次さん喜多さん」のなかで、奇妙な霊の役を演じている。「クドカン組」である。
ドラマの映像は、主人公の中島がテレビ番組用に自分で撮影するビデオカメラの映像と、実写が組み合わされている。
ビデオカメラの映像は、家族を捨てたも同然の中島が、懸命になって父親になろうとしている様子が、劇中劇のように描き出す。
妻の初子は、離婚届をいつでも中島に送れる状態にして隠している。しかし、義母の菊子はそれを知っている。
菊子は離婚してもいいと初子にいう。
突然現れた夫によって、高校生の娘の進路についても騒動が持ち上がる。模擬試験の成績が芳しくなかったので、地元の愛媛大学への進学をあきらめて、たまたま帰ってきた父親にスタイリストになりたいと告げて、進学しないで一緒に上京すると告げる。
賛成する中島と、反対しながら途方に暮れる母親と祖母。居候の松木が立ち上がって、娘に声を荒らげる。
「僕がお父さんやったら、なぐっているところだ。愛媛大学にいって、観光を学んで、故郷を活性化しようという夢をもっていたじゃあなかったか。夢を捨てるのか」
松木がこの集落にやってきたのは、自らが経営する会社が倒産して、従業員に支払う給与の資金もなくなって、夜逃げ同然の体で放浪してきた末のことだった。
中島を誘って、暗い夜道を散歩しながら、松木は自分の人生を語るのだった。
妻と松木の関係を疑った中島は、家族と松木がともに農作業に取り組んだり、話し合ったりする光景をみるうちに、家族とはなにかという、いままで置き去りにしていた問題に突き当たる。
母親の菊子が嫁の初子にいう。
「あんたと新作が結婚して、あんたと家族になれた。これからも家族でいたい。いずれ孫も家を出ていく。不思議なもんじゃね、この家は他人同士の家族になる」
菊子と初子、そして居候の松木が、中島をだます。菊子が痴ほう症であると。中島は妻が離婚届の準備をしていることも知る。妻と松木に男女の感情はないことも。
菊子が中島を息子と認識できないしぐさが、演技であることを家族が告げて、ドラマは大団円に向かう。家族を大事にすることを中島は誓う。
NHK福岡局で「地域発ドラマ」をてがけてきた、ディレクターの清水拓哉は、地域でドラマをつくる意味を次のように語っている。(「放送研究と調査・2012年4月号」
「ドラマは自分の知らない世界をのぞきみるようなところがあって、地域というのは
実はその『へぇーっ!』の宝庫です。福岡で、毎年1本ずつドラマを作ってきて、もういい加減ネタが尽きたと毎回思うのですが、でも、あるでんすね。『へぇーっ!』と思う何かが必ずあります」
「狸な家族」は、地域でみえてきた家族というテーマである。一家の主が家を出て、残された嫁と義母、孫、そして居候の家族。義母には老いが迫り、孫は自立に向かっている。そうした家族のありようを、地域の共同体は自然に受け入れている。
「地域発ドラマ」はその水準も高い。NHK広島放送局の「火の魚」は、芸術祭大賞とモンテカルロ国際テレビ祭のグランプリに相当する賞を獲得している。先年亡くなった原田芳雄が瀬戸内海の小島で暮らす老作家を好演した。北海道テレビ放送は「ミエルヒ」によって芸術祭優秀賞である。
ニューヨークはアメリカではない、といわれるように、東京は日本ではない。ドラマのテーマは地域にある。
(敬称略)
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