「X新聞社 3月期末決算
最終損益大幅減益 減配へ
X新聞社が発表した2013年3月期の決算案によると、売上高は3147億5000万円で前期比0.9%増となった。増収は04年3月期以来8年ぶり。新聞の部数は依然として減少傾向にあるが、催事と不動産収入によって微増収となった。
本業の利益をあらわす営業利益は、販売費や一般管理の圧縮によって、前期比63.3%増の63億6900万円、経常利益は営業外収益の向上によって、同69.1%増の89億3300万円。最終損益は、前期に厚生年金の代行返上による大幅な利益を積んだ反動で、同46.2%減の58億4000万円となった。このため、配当は前期比10円減配の70円となる。
一方、連結決算は、売上高が前期比0.9%減の4719億5900万円、最終損益は同27.1%減の119億2500万円だった」
非上場企業であるX新聞社が上場企業であったとすれば、経済記者の視点は最終損益の大幅な減益と減配の要因について、分析と記述を深めていくことだろう。上記の記事はわたしがX新聞社の決算に基づいて書いたものである。
X新聞社が自らの新聞に掲載した、この決算に関する記事をみていこう。2013年5月23日付朝刊の計178字のベタ記事である。
「朝日新聞社が決算発表、3年連続の黒字
朝日新聞社が22日発表した2013年3月期決算は、純利益が前年比27.1%減の119億2500万円と3年連続の黒字となった。
新聞発行部数の減少などで、子会社も含めた売上高は同0.9%減の4719億5900億円と2年ぶりの減収。ただ、人件費や販売費などの削減で、本業のもうけを示す営業利益は同25.3%増の116億3400万円と3年連続の黒字を確保した」
この記事は連結決算のみの記述であり、単体の決算はない。しかも、連結である表記もない。単体が8年ぶりに増収になった、つまり長期低落傾向にあったことがわからない。「3年連続の黒字」という見出しの取り方はどうか。今決算の本質をとらえているだろうか。
上場企業であれば、株主や投資家に対して説明責任を果たさなければならない「配当政策」の説明がない。
新聞社は企業に対して、情報の開示を迫る。さまざま経営指標の変化に対して、説明責任を求める。非上場企業ではあるが、ジャーナリズムの担い手として上場企業並みの責任を果たしてもよいのではないか。
日本経済新聞はさすがに、経済専門紙として、自らの決算報道も定石をはずさない。2013年3月12日付朝刊である。決算報道になれない読者に対して、前期比の説明に工夫のあともある。
「日本経済新聞社が11日発表した2012年12月期の連結決算は、売上高が2905億6900万円(11年12月期に比べて0.1%増)と、7期ぶりの増収となった。純利益は106億4100万円(同45.5%増)と5期ぶりに100億円台を回復した。……
単独決算は売上高が1718億9400万円(同0.6%増)、税引き後利益が66億1100万円(同92.7%増)だった」
日経の配当は15円で継続すなわち前期と同じであった。配当政策の継続の記述はなかった。触れておいたほうがよかった。
ちなみに、読売新聞と毎日新聞は、みずからの決算について、株主総会で可決された旨の記事を掲載したにすぎない。朝日が連結と単独の区別もつかない記事だけでも掲載したことは、すくなくとも両紙よりはましであろうか。
毎日新聞は経営危機に陥って再建を成し遂げた、1977年以来の復配を前期に果たしている。このことを報じたメディアがほとんどなかったことは、ライバルに対する敬意がない、とわたしは思ったものだ。今期の配当は10円の継続である。
朝日新聞社の前期の期末配当は55円、中間配当の25円と合わせると80円となり、30円もの増配であった。2009年3月期に70円から60円に減配し、さらに翌年には50円に減配して以来、久しぶりの増配だった。
上場企業の「配当政策」は、予測を越えた将来的な経営の悪化によって減配を迫られる事態を想定しつつも、増配や復配には、その後ある程度継続できる配当原資を算出するものである。
株主に対する責任を果たすためには、配当の乱高下は望ましいものではない。
そもそも朝日新聞の前期の配当政策が、上場企業の定石を欠いていたのである。
従業員の厚生年金の代行を返上したことによる特別利益が354億4100万円あったからである。売上高は7期連続の減収で、経常利益と営業利益はそろって、減益だった。
「代行返上」という一時的な特別利益を背景とした、配当政策は今期に至って維持できなくなり、減配となったのである。
ジャーナリズムの担い手として公的な存在である、新聞社の株主とは誰か。社主と言われる創業者の一族であったり、社員株主、子会社であったりする。
会社法の特別法である「日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律」(日刊新聞紙法)によって、新聞社の株式は譲渡制限によって守られている。
新聞社が定款の項目にすれば、新聞の製作にかかわる者しか、その新聞社の株式を所有することはできず、またその譲渡にあたっては、取締役会の承認が必要となる。
戦前の政府による言論統制の経験から、戦後に特別法によって言論機関としての新聞社を守るためにできた制度であるといわれる。
この法律によって、 新聞社の株主は「身内」であるといってよいだろう。例外的に地元の財界が出資したり、社団法人形式をとったりする新聞社もある。しかしながら、それら外部の出資者たちのほとんどは、経営に口出しをしない。
新聞社のガバナンスをどうすべきか。さまざまな論議ある。それぞれの決算期に紙面に掲載される小さな記事から、まずは手がかりにして考えるべきであろう。さらに、財務局に届けている有価証券報告書のページをたんねんにくくっていくと、新聞社の経営の揺らめきが見えてくる。