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新聞はいま、新コンテンツ開発競争時代に

2013年6月21日

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 「交流促す学生寮次々 シェアハウス型や『国際寮』も」(読売新聞6月1日土曜日付朝刊)

 「くらし 教育」面のトップ記事「最前線」は、親元が収入源のなかで大学が学生寮を新たに開設する動きを紹介している。お茶の水大学の新しい学生寮は、キッチンとリビングを囲むように個室が並んでいる。洗面所と浴室、トイレは共有である。

 中央大学の学生寮は、やはりシェアハウス型であり、2、3人のグループには1人留学生が必ず入っている。

  「くらし 教育面」は、学生やその親に実用的な情報を伝えるばかりではない。水曜日には「しごと ズーム」のコラムで働く人々を紹介している。漢字にルビを振っている。小学生に将来の夢を抱かせる企画である。

 「カーデザイナー かっこよさも追求」(5月29日付朝刊)は、日産自動車のデザイナーが新車のデザインを完成させるまで約2年もかかるプロセスについて、わかりやすく解説している。

 現場の教師たちのリレーコラム「教室から」と「保健室から」、大学のルポ「大学の実力 現場を歩く」など、曜日によって多角的な企画が並んでいる。

 読売新聞は4月に教育部を新設した。編集局に新たに部を設けるのは、年金や介護などに取り組む社会保障部を作って以来、13年ぶりのことである。

  日本経済新聞は5月11日付から、毎週土曜日に「女性面」を新設した。編集長には、生活情報部の編集委員などを務めた阿部奈美を起用し、編集部は女性だけとした。働く女性をターゲットに絞った新紙面は初めてである。

 「女上司へ 部下へ ホンネでお願い」(6月1日付)は、業種の異なる部長3人と部下4による覆面座談会である。「まず やってみる (エネルギー・48才)、「自然体で接して (メーカー・27才)」・・・・発言のポイントを書いたフリップで顔を隠している。そのカラー写真を横組みで大きくあしらって、コーヒーカップを持つ手やヒールの足元のアップ写真を座談会の文字のなかに埋め込むようにしている。

 しゃれたレイアウトと相まって、新聞としては長尺の座談会もなかなか読ませる。女性の部下の育て方で気をつけることを問うと、「上司B(人材派遣)女性上司は“お母さん系”が多い。転んでも『大丈夫、もう1回頑張ってみよう』と走らせるのがうまい」と。

 ミニコラムも多彩である。「センス アップ」(5月25日付)は、海外出張の手土産に和紙のはがきや一筆箋などを勧める。「烈女」シリーズは転職の成功者たちの物語である。

  新聞はいま、新しいコンテンツの開発競争時代に突入している。それぞれの新聞が「社告」を1面に掲載して、新紙面を高らかにうたっても、ひとつの家庭が購読している新聞に限りがあるので、大きな潮流がみえにくい。

 朝日新聞も4月から大型コラムを2面に据えた。社会面はワイド編集となり、連載漫画「ののちゃん」は左面から右面に移った。これによって大型記事「ルポルタージュ現在」を収録する。

 毎日新聞は、シニア世代をターゲットにして「スローらいふ」面を土曜日付で開始した。連日3ページで「くらしナビ」として、衣食住のコンテンツを編集している。

  新聞の新たなコンテンツの潮流の底にあるものはなんであろうか。新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどの媒体の壁を越えて、コンテンツづくりにかけた生き残り戦略が始まっている。こうした動きを加速しているものは、いうまでもなくインターネットによるデジタル配信である。「紙」か「デジタル」かの神学論争はすでに終結した。紙とデジタルを合わせたメディアとして存続するためには、コンテンツの多様性こそキーであることに、新聞社もようやく気付いたのである。

  新聞の過去のコンテンツ開発にかかわった経験からいえることは、新聞社をこの競争に駆り立てる、これまでの要因は、社会的な要請であり、広告事情によることが多かったと思う。 

  読売が社会保障部の新設に向かったそのとき、朝日のなかで介護保険や年金などについて、取材する編集部「くらしのあした」の立ち上げにかかわった。その後、読売同様の「くらし部」に発展する。

 介護保険がスタートしたばかりのときであり、企業年金改革によって、米国で普及していた401kが日本でも導入される前夜であった。

 バブル経済にかけあがる投資ブームのなかで、読売は1986年2月に「読売家庭経済新聞」を有料・別売りで創刊した。朝日は夕刊の「ウィークエンド経済」面で対抗した。

 平成不況の広告需要を掘り起こしたのが、日経の「NIKKEI プラス1」(2000年創刊)であり、朝日の「be」(2002年)であった。

  世界の新聞業界をみわたせば、デジタル化に成功しているニューヨークタイムズやファイナンシャルタイムズを持ち出すまでもなく、デジタルのみの読者もさることながら、紙の定期読者に対して、デジタルの付加サービスを充実できかどうかが、戦略のキーとなっている。日本の新聞がいま繰り広げているコンテンツ開発競争もまた、こうした流れのなかにある。

  日本の新聞は、記者クラブ制度に守られてどれもこれも内容が変わらない――デジタル化を視野においた競争は、こうした「都市伝説」を覆そうとしている。

 政治、経済、社会のよほどの大事件がない限り、最近の新聞の1面トップの多様なことといったらどうか。ページを開いていくにつれて、各紙の個性も大いに現れている。

 コンビニのニューススタンドで、いつも読まれている新聞とは別のものを、たまには購入されることをお勧めしたい。

(敬称略)

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