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フジテレビ 視聴率3位からの再挑戦

2013年6月10日

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 週明けのフジテレビ地上波のプライムタイム(午後7時~11時)は、「月9」と呼ばれるドラマシリーズの「ガリレオ」に向かって、バラエティーの「ネプリーグ」と「ジェネレーション」の放送が展開していく。続いて人気番組の「SMAP×SMAP」である。

 BSフジはその時間帯に並行して、時代劇「鬼平犯科帳」と「振り返れば奴がいる」の再放送をはさんで、午後8時から2時間枠の「プライムニュース」である。

  「力強いタイムテーブルをつくる」。新年度の方針説明のなかで、社長の豊田皓(67)が号令をかけた4月改編の一端である。6月の株主総会後にその豊田が取締役副会長退いて、後任の新社長に常務の亀山千広(56)が就任する。5月15日の3月期決算発表と同時に明らかにされた。会長に留任した日枝久(75)によって、強いタイムテーブルづくりの任務は亀山に委ねられた。

  視聴率競争において、フジテレビは民放キー局の3位に転落するという屈辱を味わったばかりだ。2012年度の平均視聴率は、ビデオリサーチの関東地区の調査で、テレビ朝日が1959年の開局以来、初めてゴールデン(午後7時~10時)とプライムでトップに立つ2冠を獲得した。全日帯(午前6時~翌日午前零時)は日本テレビである。フジテレビはそれぞれの時間帯で、その差は僅差ではあるが、テレ朝と日本テレビの後塵を拝した。

 亀山は「踊る大捜査線」などの人気番組のプロデューサーから、経営陣に加わってからは映画事業を担当して、この分野におけるフジの地位を確立した立役者である。

 2012年の邦画の興行収入をみると、フジが製作した「海猿」「躍る大捜査線」「ワンピース」シリーズと「テルマエ・ロマエ」がベスト4に並んだ。

 新社長に就任する抱負を聞かれた各種のインタビューのなかで、フジの不振の原因について、亀山は次のように繰り返し述べている。

 「今がとらえられていない。作り手が自信を失っている」と。

 放送収入と視聴率において、民放の首位を独走してきたフジの歴史を振り返る時、テレ朝同様に民放としては後発だった同社の勃興と、熾烈な視聴率競争のなかで守勢に立たされ、亀山がそのトップに就いたのが必然であるように思われる。

  「大編成主義」といわれる放送業界としては画期的な組織運営の改革がなされたのは、亀山が入社した1980年のことである。編成部門が組織のトップに立って、視聴率がとれる番組をつくりだそうとするシステムである。

  この年に社長に就任した鹿内春雄は、番組制作の外注を止めて制作局を創設したのである。当時は民放の雄は、東京放送すなわちTBSであった。夕方のニュース番組「ニュースコープ」を看板として「報道のTBS」を誇り、長時間の大型ドラマを手がけて「ドラマのTBS」とも呼ばれた。

  番組の制作能力において劣勢であったフジの態勢を整えるために、鹿内はそれまで番組制作を担っていたプロダクションなどからも多くの人材を社員化とするとともに、制作の主力に若手を起用していったのである。亀山もそのひとりである。

 トレンディドラマというジャンルや、バラエティーの新しいジャンルを開拓して、フジは民放のトップに躍り出た。この流れのなかに、「踊る大捜査線」もある。

  フジは報道部門でも組織の拡充を図って、ライバルを追いかけた。1985年8月に日本航空機が御巣鷹山に墜落したとき、生存者の映像を中継したのはフジのスクープである。テレビ局としては初めて、日本新聞協会長賞を受賞した。報道局長は日枝である。

  亀山の言葉を借りれば「今をとらえていた」のである。

  「報道」と「ドラマ」はバラエティーなどとならんで、テレビ局の大きな柱である。ふたつの柱で「新製品」づくりに励んだフジが歩んだ道に沿うようにして、テレ朝がついにトップの座にのぼりつめた。制作に若手を登用し、深夜帯のドラマやバラエティーで実験的な番組づくりに取り組み、そのなかかからゴールデンやプライムに昇格させた。

  日テレ、テレ朝、フジの三強によるツバぜり合いから、ちょっと目を転じればNHKもまた、80年代のフジの大転換に匹敵する変貌を遂げている。2011年まで放映された「サラリーマンNEO」は、その代表作ともいえる下ネタもからませたドラマ仕立ての異色シリーズで、映画化もされた。朝のテレビ小説の最新作「あまちゃん」は、フジのヒットドラマの脚本家である宮藤官九郎を起用している。

  フジの視聴率奪還戦略は、短期的にはドラマ、中期的にはバラエティー、中長期的に報道のテコ入れ、と計画されているという。プライムタイムの番組を5月20日の月曜日に地上波とBSを、リアルタイムと録画によって、冒頭のように追ってみると、この戦略がはっきりとわかる。

 「大編成主義」をきっかけとして、民放の雄となったフジはいまや、番組制作は子会社の共同テレビなど、外部に頼るようになった。しかしながら、民放のなかではやはり伝統的に編成が強い権限をもつ放送局として知られている。

  「作り手が自信を失っている」という亀山の言葉の含意を推測するならば、編成が主導する番組の企画、キャスティングなどで成功した体験が、足かせになっているのではないか。

  例えば、「月9」のシリーズはいま「ガリレオ」がドラマの視聴率競争においてトップを走っている。しかしながら、このしばらく視聴率が低迷していた要因のひとつとして、競争に勝たんがために、各世代に受けると思われる俳優とタレントを組み合わせることによって、かえってドラマが「今」を撃っていなかったのではなかったか。

  「躍る大捜査線」の主人公の巡査部長・青島俊作の名台詞を使っていうならば、視聴率競争は、今を撃つ制作現場に解決するカギはありそうだ。

 「事件は会議室で起きているんじゃない」なのである。

 追う立場から、追われる立場になって、そしていま再び追う立場となった。80年代の急上昇のDNAは、まだ生きているか。その先頭に立つ亀山の前には、三強ばかりではなく、今度はNHKまでもが立ちはだかろうとしている。

 (敬称略)

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