自民党と公明党が大勝して、政権が交代することになった衆議院選挙は、次のステージの幕開きを告げる序章に過ぎない。
新しい首班が指名される、26日の特別国会の開幕ベルが鳴るまで、政権の骨格をめぐって、政局は第2幕を迎えている。
政治は不連続である。一寸先は闇の世界で政治家たちはもがいている。
衆院選の投開票日である16日、わたしは東京都知事選の選挙事務所にいたのだった。衆院選と都知事選がダブルでおこなわれるのは、史上初めてである。
青春時代にそのデビュー作である「天皇の影法師」と「日本凡人伝」を読んで、無名のノンフィクションライターに私淑したのが、この日のわたしの場所であった。
当選を果たして、第7代の東京都知事に就任した猪瀬直樹氏は、10年後に共通の知人によってその事務所を訪ねたのが交流の始まりである。
都知事選挙のなかでは、キャンペーンの内容などで意見を述べた。ボランティアのスタッフである。
選挙戦のなかにいたので、コラムの執筆を絶ったのと、個人の公式ホームペーやツイッター、フェイスブックの更新を停止した。
そこまで慎重になる必要はないのだが、選挙事務所のスタッフとしては、自らの言論がなんらかの形で、選挙戦に影響がでる可能性をゼロにする必要を感じたのだった。
選挙にかかわるのは、これが初めてではないが、コラムニストとして選挙の片隅にいる経験はまったく未経験であった。自ら書くことを封印して。過去の選挙戦では、ビジネスマンとして有給休暇をとって、つまり政治活動の自由の行使として参加したのであった。
選挙戦を戦う側から、この衆院選をみるとき、熱狂なき自民党と公明党の勝利ではなかったか、と思う。わたしは、ボランティアの片隅に位置して、街宣車に乗ったわけでもなく、ビラ配りをしたわけでもない。しかしながら、初冬の首都の町々でおこなわれた候補の遊説には同行して、人々の反応に耳をそばだてたものであった。
東京の冬の美しさに目を奪われた瞬間でもあった。都のシンボルともなっているイチョウの葉が青から黄に変わり、そして落葉して地面を覆うさまはなんとも美しい。
街宣車の後を追って、タクシーで走り抜ける街の夕暮れもまた、乾いた空気のなかで茜色にビルが染められるシーンを幾度もみた。
丸の内のビル街から、荒川沿いの下町、そして、スカイツリーが間近にみえるターミナル駅……
2012年12月16日(日)午後8時、NHK総合の「衆院選2012 開票速報」がはじまった。
ヘッドラインは、「政権交代へ 自民党単独過半数 自公320うかがう」である。
始まったときには、最後の結末は予言されている。
テレビや新聞の事前の世論調査の精度はここ5年前後で、ますます高まっている。わたしは、新聞記者のかけだし時代の1980年前後に取材網の末端である、地方支局でその県の選挙区の世論調査を担当した経験がある。
そのときの世論調査は、あくまでも記事の材料であり、実際の候補者の当落を予想するのは、地域の選挙に詳しい町長や県議などのもとを記者が足であるいて取材するデータが重要であった。
最近ように、自動的に電話をかけて、音声が質問するのではなく、当時は、学生アルバイトが無作為に抽出した名簿をもとに、実際に有権者を訪問して質問する方式であった。
事前の世論調査のみならず、投票日の投票所の会場でおこなわれる「出口調査」の手法と精度も飛躍的に向上している。
NHKの出口調査は、全国約4200カ所の投票所で、約46万人を対象として、約31万人の回答を得ている。
始まっているときには終わっている、選挙速報番組をどうするか。
報道は、ルポルタージュつまり現場中継と分析が重要な柱である。
選挙速報番組は、現場中継に加えて、これから「分析」がよりその比重を増していくべきではないかと考える。
世論調査と出口調査の分析項目の工夫が、テレビ局の報道の優劣を分ける。
NHKの「衆院選2012 開票速報」の分析のなかで、優れていると思ったのは、無党派層のそれであった。
前回の民主党が政権をとった衆院選では、支持政党(いずれも%)は、民主32、自民35、無党派21だったのが、今回は、民主19、自民32、無党派24、となっている。
支持政党の数字では、自民はほとんど前回と変わっていない。自民党の地滑り的な勝利について、これでは説明ができない。
支持政党別に、比例でどの政党に投票したか、その出口調査も興味深い。
自民党支持のうち、73が自民党に投票したのに対して、民主党支持は、民主にいれたのが65にすぎない。しかも、自民に7、維新に12も流れている。
無党派層の分析が、衝撃的な数字だった。
無党派のうち、民主が16、自民が20、維新が27、公明が5、共産6、みんな14、社民3、大地1である。
無党派がさまざまな党に割れた結果として、自民が大勝したのだった。
選挙速報番組の視聴率は、NHKの「衆院選 2012 開票速報」がトップで17.3%、第2位はテレビ朝日の「選挙ステーション2012・第2部」10.1%だった。
この結果は、「分析」の差ではなかったか、と思う。
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