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メディア論

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 ソチ五輪は日本勢の活躍と惜敗のドラマが、人々をテレビの前にくぎ付けにしている。1964年東京大会が日米を結ぶ衛星回線によって、初めてテレビの実況中継が実現したように、メディアの歴史のなかで五輪が大きな転機になる。

  今大会はメディアになにをもたらしたのか。それはテレビではなく、新聞の画期的な映像サービスのなかに現れた。五輪の熱狂の中で、その事実はまだあまり気づかれてはいない。

  ニューヨークタイムズ(NYT)が五輪の報道で、電子版で取り組んでいる。映像とテキストを組み合わせたサービスである。大回転の競技についての解説をご覧いただきたい。

http://www.nytimes.com/newsgraphics/2014/sochi-olympics/giant-slalom.html

 映像の美しさもあるが、この競技のなかで競い勝つにはどのようなポイントが大事なのか、映像とテキストによってよく理解できる。

  NYTが映像とテキストによって、新しい表現形式に挑戦していることは、このシリーズのなかですでに取り上げた。

 年明けのリニューアルとともに、映像とテキストを組み合わせる部署を拡充するとともに、報道競争の花である五輪をきっかけとして、メディアの新しい一頁を切り拓いたと思う。

  メディアと五輪が織りなす歴史を振り返ると、1936年ベルリン大会で初めてテレビ放映がなされ、先に触れたように1964年東京大会の日米中継、カラーによる放送など、テレビの進化の歴史として綴られてきた。

  2020年東京大会に向けて、メディアがどのように新しい転換を迎えるかについても、こうした方向のなかで語られることが多いように思う。それは、ハイビジョンよりも高細度な4Kあるいは8Kのテレビの普及によって、臨場感あふれる世界が家庭に展開するという予測である。

 そうした見方を否定するものではないが、2020年東京大会の時代を想像するときに、テレビという機器がメディアの「窓」としては、王者の地位から降りている可能性が高いことを忘れた論議ではないかと思う。

 テレビ業界で最近唱えられ始めた「セカンド・スクリーン」つまりスマートフォンやタブレット型端末が「窓」のセカンドではなく、ファーストになっているのは間違いない。

 NYTの五輪報道における、映像とテキストの見事な組み合わせは、次の時代を見すえた大いなる挑戦であると同時に、メディア史に残る成果ではないかと考える。

 新聞社がテレビに勝つ。そのような表現も適切ではないだろう。手元や膝の上にのっている端末に向けて、テレビ局や新聞社、出版社が競う時代がもうそこまできている。

 あるいは、新聞社やテレビ局、出版社がメディア・コングロマリッドとして統合して、コンテンツづくりに乗り出さなければならないのだろう。

  「紙かデジタルか」の論争から、映像をどのように組み合わせて行くべきかという新たな戦略の競争が始まる。

 そのときには、無料つまり広告モデルか、有料つまり課金モデルかの論争も終止符を打って、ネットを含めた無料モデルも有料モデルも同時に駆使しながら、メディアの経営の安定を模索することになるだろう。

  そうした視点からみるとき、日本テレビのドラマ「明日、ママがいない」をめぐって論じられている、コンテンツのありかたの問題点も重要であると考えるが、このドラマの配信手法が、メディア史に残ることに触れておきたいと思う。

  「明日、ママがいない」はネット配信により、CM抜きで無料視聴できるようにしたのである。日テレはこのほかにドラマ1本と、バラエティ番組なども同様に配信した。

  スマートフォンやタブレット型端末による視聴によって、番組に対する注目度をあげて、リアルタイムの視聴率をあげようというものである。

  テレビ局がこれまで、有料配信とリアルタイムの広告モデルの2本立てだったのとは、別である。

  日米のメディアの新しい取り組みは、「映像の世紀」といわれる20世紀から、新端末が切り開く21世紀のメディアのありようを映し出している。  

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 東京のキー局のなかをかけめぐった2月の広告収入の予測金額は、業界に波紋を投じた。フジテレビが初めて月間でテレビ朝日に抜かれるという推定である。広告枠の営業競争は、ぎりぎりまで続くので結果は流動的ではある。

 この予測の衝撃は改めて、テレ朝と日本テレビの「2強時代」の到来をテレビ業界に認識させた。

 2013年のNHKと東京キー局の年間視聴率において、テレ朝がゴールデンタイム(19時~22時)12.1%とプライムタイム(19時~23時)12.3%でトップに立って、開局以来、初めて2冠を獲得した。日テレは全日(1日平均)8.0%でトップの1冠だった。

 フジは全日で日テレと朝日に次いで3位の6.9%。しかしながら、4位のNHKとの差はわずか0.3ポイント、5位のTBSとも0.6ポイントだった。

 ゴールデンは4位の10.5%、プライムは3位の10.7%。それぞれ下位のTBSとNHKが肉薄している。

  メディア業界では、広告収入が首位を走ってきた企業が後続に抜かれる瞬間は、あっけないものである。新聞の部数で1970年代にトップだった朝日が、部数で読売に抜かれてもしばらく広告収入はトップだった。その後、日経が部数は読売と朝日にはるかに及ばないものの、広告収入はトップに立った。

  商品やサービスの購入につながる、読者層の年齢層や年収などメディアの質が広告収入にかかわってくる。

  テレ朝が視聴率競争で頭ひとつ抜け出して、日テレと争う時代を迎えてもなお、視聴時間は相対的に長いシニア層向けの番組で資料率を稼いでいるだけで、購買に結びつく若年や壮年層にはフジがある程度の強さを維持している、とみられていた。

  こうした「フジ神話」は、新聞における「朝日神話」が崩れたように、その瀬戸際に立っているのではないか、と放送業界の経営層は認識を強くしているのである。

 キー局の2013年9月中間決算をみると、フジのテレビ事業の売上高は前年同期比2.0%減の1610億円、テレ朝は同2.9%増の1124億円である。両社の売上高には、テレ朝が年間で追い抜くにはまだかなりの差がある。

  いずれにしろ、視聴率競争の苛烈な展開が、テレ朝・日テレ2強時代がしばらく続くのか、あるいはフジの逆転や、かつての民放の雄TBSの復活がなるかの方向性が決まっていくのだろう。

  年間の視聴率の推移をみていくと、フジはゴールデンが2010年の13.0%から11年に12.5%、12年に11.5%そして13年に10.5%と低落傾向に歯止めがかからない。プライムタイムも同様で12年の11.6%から13年の10.7%になっている。

 これに対して、TBSは13年に前年に比べて、ゴールデンが0.5ポイント、プライムが0.5ポイント上向きに転じている。

  テレ朝と日テレの背中を追いながら、振り向けばTBSが迫る。

  「半沢直樹」が視聴率40%を超えて、ドラマとしては今世紀最高の数字をTBSがたたき出せば、フジは同作の主演の堺雅人を起用して「リーガルハイ2」でヒットを飛ばした。正義とはなにかをめぐる、ドラマのテーマ性も高く評価されている。

  民放として後発のフジはかつて、TBS・日テレの2強を追いかけてそして追い抜き、1982年から2010年にかけて断続的に19年間にわたって、視聴率3冠の座に就いた。

 黄金の時代を築くことができたのは、その時代の視聴者の年齢層などの質と、彼らが求めるドラマやバラエティの新商品を開発してきたからである。

  産業界の企業の再生ために、過去の資産の見直しと新たな成長分野を探るのは、メディア業界も同様だろう。

  フジが初めて視聴率3冠に輝いた82年にスタートした「笑っていいとも」は3月末に終了する。これに比べれば、はるかに小さな業界の話題ではあるが、フジで放映されてきた韓流ドラマのソフト化にかかわってきた子会社の幹部が、この分野から異動した。フジの黄金時代を築いたひとりであった。

  過去を懐かしがるよりも、つねに「今」と向き合う。そして過去は瞬く間に忘れ去られる。メディア業界の悲しい性(さが)である。

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 メディアの世界で議論されてきた「紙かデジタルか」の神学論争が終焉したのも、つかの間で、「テキストか映像か」の論議が本格的になされるようになった。

 新聞や雑誌など伝統的な紙のメディアが、「紙もデジタルも」の戦略にようやくたどりついたように、「映像もテキストも」の時代はすぐそこに迫っている。

 民主主義の基盤となるジャーナリズムを担うメディア企業が、経営を継続するためにいかなる戦略を練るべきかという根本的な課題にかかわる。

  ニューヨーク・タイムズ(NYT)が昨年制作した「Snow Fall」は、テキストと写真、動画を組み合わせて巨大雪崩の被害の実態について、インタビューばかりではなく、地形図や当時の観測衛星からの映像などを組み合わせて描いた。テキストと映像を単純にひとつのウエブページのなかでみせたのではなく、積雪を背景としたタイトルから記事、女性プロスキーヤーのビデオ証言まで、ストレスなく流れるように読み、見ることができる。

http://www.nytimes.com/projects/2012/snow-fall/#/?part=tunnel-creek

 NYTは素材のすべてを自前で制作するのではなく、外部のビデオ撮影スタッフやひとつの作品に仕上げるデジタルの専門家とも協力している。これからのメディア企業の編集・編成機能のあり方を示した。

  政治分野をはじめとして、独立したジャーナリストたちが記事を書くサイトとして成功を収めたハフィントン・ポストの創業者もまた、動画ニュースのサイト「NOWTHIS NEWS」を立ち上げたばかりである。(http://www.nowthisnews.com/

  政治・経済に関する硬派なニュースばかりではなく、身近な社会ネタを映像と3D動画を組み合わせて見せるTOMO NEWS(http://jp.tomonews.net/)は、台湾のアニメーション企業がはじめたニュースサイトである。台湾と香港、日本、米国で配信している。

 例えば、12月16日に島根県庁の時計約250が止まった出来事をJRの駅の大型時計の映像や、県職員が出勤してきたときの3Dによる再現映像なども組み合わせている。

  デジタル時代のメディア起業家たちが、新しいニュースの在り方を開拓している。メディアの外縁部の小さな変化が、既存の新聞や雑誌、テレビの牙城を揺るがす。

  ドワンゴが運営している「ニコニコ動画」の2013年9月期決算によると、登録会員数は3626万にも達する。このうち、有料のプレミアム会員は211万人である。

 月間の平均訪問者数(UU)は846万人で、平均滞在時間は1人当たり1日に1時間44分である。

 「情報メディア白書2013」(ダイヤモンド社刊)によると、「国民生活時間調査」の推移は、マスメディアに対する接触時間は2010年に1人当たり、1日に4時間28分である。

このうち、テレビが3時間28分、ラジオが20分、新聞が19分である。

  つまり、ニコニコ動画の会員の視聴時間は、テレビ視聴の半分もの時間を費やしていることになる。会員の年齢構成は、10代が約2割、20代が約4割、30代が約2割である。

若者たちの「活字離れ」と同様に、「テレビ離れ」の現象を推定できる。

  メディア企業の経営を支える大きな柱である広告費は、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ広告のいわゆる「4マス(メディア)」のパイを奪う形で、ネット広告が成長してきた。リーマンショックと東日本大震災の影響から脱して、4マスは底を打ち、テレビが上向く傾向をみせている。さらに、ネット広告が踊り場にさしかかって、成長の速度が落ちている、との見方が、世界の広告市場で広がっている。

  しかしながら、ネット広告はまず、テキスト分野の広告を奪って行ったのであり、ネットの「映像もテキストも」の時代がこれから本格的に進展する過程のなかで、再び大きな成長段階に入ると推測できる。

  ちなみに、2012年の日本の広告費は5兆8900億円。そのうち、テレビが1兆7700億円、それに続いてネットが8600億円、新聞が6200億円、雑誌が2500億円、ラジオが1200億円である。

  ネットメディアの起業家たちは、メディアの境目を軽々と越えている。YouTubeのなかで、自ら制作した番組を投稿する「ユーチューバー(YouTuber)」と呼ばれる若者たちが現れている。ひとりでネット上に放送局を立ち上げる、といえばそのイメージが浮かび上がる。自分の仕事を持ちながら、この分野でも活躍する人ばかりではなく、専業つまり事業として成り立つ起業家も、日本にも出てきた。

  MEGWIN(http://www.youtube.com/user/megwin)は、独自制作のバラエティーやコントともいえる番組を配信している。「アルコール全開でほどよい!?」は、テキーラやウォッカ、ピンクレモネードなどでオリジナルのカクテルを作って、悪酔いするというたわいもない映像だが十分に楽しめる。

 Hikakin TV(http://www.youtube.com/user/HikakinTV)は、商品や携帯電話の販売店とのタイアップを最初からうたって、チョコレート作りなどを演じる番組などを配信している。独自の卓上カレンダーやマグカップをプレゼントするという趣向は、テレビのショップチャンネルの発想を超えている。

  いずれも、大手企業のCMが流れる。

  新聞や雑誌の「紙メディア」がようやく、デジタルの世界に追いついたと思ったら、映像という新しい目標が目の前に現れた。

  記者や編集者たちは、新たなコンテンツ作りの技術を学ばなければならない。まずはやってみることなのだろう。ニューヨーク・タイムズのように。メディア企業の外には、ともにコンテンツを作る、才能ある若者たちがたくさんいるではないか。

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 今夏に経営破綻し、休刊した茨城県の地方紙・常陽新聞が、ベンチャーを育成する投資ファンドのユナイテッドベンチャーズ(東京・港区)によって買収され、来年2月にも復刊する。このファンドの代表取締役の楜澤(くるみざわ)悟氏が、常陽新聞の新社長に就任した。ソフトバンクグループの映像配信事業などにかかわった後、独立した楜澤氏は「地域情報を発信する新聞社の事業の将来性は十分にある」と語る。

 投資ファンドが新聞経営に乗り出すのは、日本で初めてのことになる。一方、米国では著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社がここ2年ほど、地方紙のネットワークを買収している。アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏によるワシントン・ポストの買収は今夏のことである。

 楜澤氏によって、常陽新聞はいま12月中旬のパイロット版の製作に向けて準備を急いでいる。休刊した紙面は、通常の新聞紙大のいわゆる「ブランケット判」であったのに対して、新紙面は「タブロイド判」である。さらに、スマートフォンやタブレット端末向けのニュース配信も予定しており、「常陽新聞」の題字は引き継ぐものの、実質的には新創刊といえる。新会社の従業員は20人、休刊前の従業員のなかから再雇用した人員が中心である。設立登記は11月29日になされた。

 茨城県土浦市とつくば市など県南部の市町村を販売エリアとしていた、常陽新聞は、今回の楜澤氏による買収によって、本社を土浦市からつくば市に移して、休刊前の底堅い地盤とともに、首都圏と結ぶ「つくばエクスプレス」沿線の新しい住宅街の拡販を目指している。

「紙」のみだった休刊前の部数は、約5000部。「第2県紙」と呼ばれる県全体のニュースにも目配りした紙面だった。

 新創刊号は、つくば市と土浦市を含む13市町村をターゲットに絞った紙面と、端末向けのニュース配信を志向している。「地域情報の発信に力を注ぎたい」と、楜澤氏は新紙面の狙いを語る。

 楜澤氏は1996年にソフトバンクに入社。スカイパーフェクトTVの経営企画にかかわったほか、ソフトバンクの子会社でブロードバンドの映像配信の経営を手掛けた。ベンチャー・ファンドの経営者として、いくつかのベンチャーの株式公開にも成功している。

 新聞事業に進出した経緯や事業の目論見などについて、インタビューした。

  ――常陽新聞の買収について、ソフトバンク出身であることから、資金の提供者として同社がとりざたされている。実態はどうなのか。

 今回の案件は、ソフトバンクとはまったく関係がない。自分の資金を投じた事業である

 ――新聞業界は部数と広告の減少に経営環境が悪くなっている。あえて、この業界に進出する理由はどこにあるのか。

 地域に根を張った地方紙や地域紙は、それほど部数が落ちてはいない。地域の情報を読者に発信していけば、事業として将来性はあると考えている。休刊するまで60年以上も地元に根付いた新聞だった。人口が増えている地域に対して、従来以上に拡販していきたい。

――「紙」と「デジタル」の情報発信の関係について、どのように考えているのか。

どちらも地域情報を届けるのに有効な手段だと思う。『紙』によって読者を掘り起こすとともに、30代から40代、さらに若年層にはスマートフォンなど、デジタルサービスを通じて、読者を増やしていきたい。

――新聞への新規参入はいつごろから考えていたのか。

 ソフトバンクグループに入って以来、映像サービスなど、メディアにかかわる仕事をしてきた。いずれ新聞も手掛けてみたいと考えていた。たまたま、常陽新聞が休刊した後、今秋に管財人と接触して、買収にこぎつけた。新聞づくりにかかわってきた従業員の方たちが、方々に散ってしまう前に、実質的に事業を継続できたのは幸運だった。

  新紙面の価格については、検討中であるが、紙とデジタルサービスのセット販売で、月額二千数百円となる見通しだという。

 ジャーナリズムを担う新聞経営のなかで、課題となる「編集権」と経営の関係については、組織を「編集・編成部門」と「販売・営業部門」の大きくふたつとしたうえで、楜澤氏は主に後者に力を入れるという。「編集・編成部門」のトップの人選は今後に残されている。

 「メディアウォッチ」のシリーズでは、すでに常陽新聞の倒産問題を取り上げて、首都圏の地域情報の担い手が、経営継続できるビジネス・モデルの必要性を指摘した。

 常陽新聞の新たな挑戦は、その回答を出すことができるだろうか。新創刊が待たれる。

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 スマートフォン向けの「ニュースリーダー・アプリケーション」の運営会社である、スマートニュース社が、東京・渋谷に開いた新しいオフィスのオープニング・パーティーに参加した。10月中旬の週末のことである。ビルのワンフロアの壁をほぼ撤去して、広々としたそのオフィスは西海岸のIT企業を思わせる解放感にあふれている。

 ニュースリーダーとはなにか。閲読者の関心に合わせて、最適なニュースを読むことができるアプリである。その最適なニュースを収集する機能は、アプリによってそれぞれ工夫がこらされている。

 スマートニュースは2012年6月の設立で、サービス開始から1年ほどで200万人以上がアプリをダウンロードしている。さらに、投資ファンドから第3者割当増資の形で、4億2000万円の資金を導入したばかりだ。

 創業者の浜本階生氏は、1981年生まれ。東京工業大学卒業後、ウェブのシステム会社で働きながら、ヤフーなどが主催するアプリのコンテストの上位入賞者の常連だった。

 アプリのダウンロード数の驚異的な伸びと、ファンドの出資を受けたことで、「サクラ・ドリーム」の体現者になるといわれている。ちなみに、サクラ・ドリームとは、東南アジアの若者のなかで、日本で仕事をして成功する夢をいう。アメリカン・ドリームよりも落ち着いた響きがある。

 スマートニュースをアイフォンの画面で見る。「トップ」から「エンタメ」「スポーツ」「グルメ」などのタグが上部に並ぶ。スライドさせると、「コラム」「国内」などのジャンルもある。

 「トップ」の上部には、カレンダー機能と天気の表示がある。その下にニュースの項目がある。ニュースを閲読するための操作、つまりユーザー・インターフェイス(UI)がスムーズで使いやすい。横にスライドする形で、ニュースのジャンルが次々に現れる。

 スマートニュースの機能のなかで、ネットのニュース配信のビジネス・モデルに変化をもたらす可能性があるのが、「プラス」である。ハフィントンポスト・ジャパンや共同通信ニュース、講談社のサッカー専門ネットメディア・ゲキサカ、ロイターなど、「チャンネル」と呼ぶメディアが20ある。購読者が選んだメディアは、ジャンルのバーのなかにタグとして現れる。

 スマートニュースが、閲読者に最適なニュースを選ぶ手法は、ツイッターのニュースに関するURLの分析にある。膨大な情報のなかから選別するシステムの「エンジン」が、スマートニュースのノウハウの核心部分である。

 新オフィスのオープニング・パーティーには、パートナーであるメディア企業の代表たちも詰めかけていた。スマートニュースのアプリの急速な普及によって、これを経由する閲読者の数が、自らのアプリやさまざまなサービスのプラットフォームを経由した閲読者の数にひけをとらなくなった、ともらす関係者もいた。

 スマートニュースのライバルと目されているのが、グノシー(Gunosy)である。閲読の登録にあって、フェイスブックやツイッターのアカウントを求める。閲読者の関心に従って、「朝刊」と「夕刊」が配信される。あらかじめ、「政治」や「経済」など、関心が高いジャンルも選択できる。

 記事を読んで、「いいね」や「シェア」をするたびに、閲読者の関心を読み取って、ニュースの選択がより最適化していく仕組みである。

 グノシーは2012年11月の設立で、東京大学の大学院生がシステムを開発した。

「サクラ・ドリーム」を実現しようとしている、若者のニュースリーダー・アプリにかける理念は、傾聴に値する。

 スマートニュースの創業者のひとりである取締役の鈴木健氏は、パーティーのあいさつで次のように語っている。

「われわれのライバルは、ヤフーニュースやグーグルニュースとお考えのかたが多いでしょう。でも、私はそうは考えていないのです。ライバルは、ゲームです。電車に乗っている若者が手にしているスマートフォンはいま、ゲームに一番時間が使われています。ニュースリーダーによって、良質なニュースを読んでもらうことによって、社会が変わっていくと信じています」

 ニュースを製作・制作するメディアの志とも通じる考えである。

 ニュースのデジタル配信のビジネス・モデルは、ニュースリーダー・アプリによって変化するだろう。従来のように、ホームページを立ち上げて、さらにスマートフォンやタブレット型端末に最適化する。あるいは、みずからのアプリを開発する。

 ニュースリーダーとの関係をこれからどう構築するのか。さらには、従来のデジタル配信のありかたそのものを見直すことになるかもしれない。

 その結果として、ニュースのデジタル配信による収益が向上できる可能性もでていくるだろう。

 新聞や雑誌界では、「紙かデジタルか」の神学論争はすでに決着をみて、「紙もデジタルも」の時代に突入している。

 デジタル分野の小さな変化が、ビジネス・モデルの再構築につながる大きな潮流になる。その瞬間を見逃さないことは勿論である。

 そればかりではなく、西海岸のIT企業の創造性に溜息をついてばかりいないで、「サクラ・ドリーム」の担い手たちにも敬意を払う時期にきている。

 

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