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メディア論

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キューレーション・アプリの広告事業と日経・エバーノート提携

ジャーナリズムがいかにして継続するか。スマートフォンとタブレット型端末が急速に普及するなかで、民主主義の基盤であるジャーナリズムを担うメディアは、生き残りをかける。有料路線を原則とする日経が、インターネット上に文書や写真を保存するエバーノート社と提携、キューレーション(ニュースを集めて分類する)・アプリが広告事業に参入し、メディアの経営に新たな選択肢となるだろうか。

 日経は一部のニュースを自社のサイトで公開する以外は、原則的に課金路線を歩んできた。インターネット上に文書や写真を保存する、エバーノート社に資本参加するとともに業務提携することを、今秋明らかにした。

 エバーノートは、その社名が表すようにネット上にノートを作るように、アイデアのメモや会議の議事録などを保存できる。PCだけではなくスマートフォンやタブレット型端末からも操作できる。

 日経は同社に2000万ドル出資するとともに、電子版やデータベースの日経テレコンのサービスと連動させる。エバーノートを作成中の利用者に関連のニュースを配信したり、データベースの情報を同時に保存できたりする。2015年初めからまず、電子版との連動を手始めに、両社でさまざまなサービスを企画していく、としている。

 日経からみれば、エバーノートの利用者であるビジネスパーソン向けに、自社のサービスを拡販することができるようになる。エバーノートは、米通信会社などとも同種のサービスを開始しており、利用者の囲い込みに有利になる。

 さまざまなメディアのニュースをキューレーション(集めて分類する)するアプリの登場については、このシリーズで取り上げた。

 SmrtNewsとGunosyである。こうしたニュース関連のアプリがテレビCMを打って、ダウンロード数を競ったのは、特筆すべきことである。両社は2014年冬から広告事業に本格的に乗り出した。

 どちらのニュース・アプリも自動編集、つまり人手を介さずにニュースの順序付けがなされる。

  SmrtNewsが東京都内のホテルで2014年12月初めに開催した、事業説明会やメディアが参加したシンポジウムを見た。

 この会合の目玉は、広告事業の発表にあった。

 共同創業者の鈴木健氏は、高質な情報の定義として「多様性と他者への理解」と「もうひとつの人生を歩むことができる」ことを挙げ、自動編集によって情報がそれぞれの個人にとって最適になると述べた。

 さらに、そのためには、ジャーナリストとメディアを支援する、と強調した。

 広告収入のメディアとの分配比率は、システム維持費用として同社が2割をとり、残りをメディと折半する。メディアに4割を還元するという。

 広告事業で先行していたGunosyが開催した11月中旬の事業説明会では、広告から契約・購買に至った件数が100万件に到達したことが明らかにされた。

 テレビCMやSNSなどによって周知されたことから、ダウンロード数はGunosyが700万件を強調するのに対して、SmrtNewsは月間のアクティブユーザー(利用者)の378万人を大きく取り上げる。

 キューレション・アプリの事業説明会で語られないライバルは、日本最大のポータルサイトの「Yahoo!ニュース」である。月間のユニークブラウザ(延べ利用者)は7930万、月間の平均ページビューは43億8000万である。

 記事の見出しや順序付けは、編集者によってなされている。メディアに対しては配信料が支払われている。支払金額の基準やメディアごとの配信料は公表されていない。

 SmrtNewsの広告事業のメディアとの按分は、明らかにヤフーのニュースサービスの対価に対する挑戦である。メディアはヤフーの草創期にインターネットの急速な普及を予想できずに、比較的格安に配信料を設定した。その後幾度か改定があったとされるが、金額的な不満がくすぶっているのも事実である。

 自社サイトに誘導するか、あるいは朝日新聞のようにデジタル版の普及のために記事の一部を出すか、メディアによって利用の目的も多様になってきた。

 日経のように一切記事を配信しないところもある。

 キューレーション・アプリの攻勢に対して、ヤフーも一般ニュースとビジネスニュース、それぞれのアプリを提供している。動画ニュースを中心とした、ソフトバンクモバイルの「スマトピ」は12月からサービスが始まったばかりだ。「LINE NEWS」のアプリもある。

 キューレーション・アプリの華々しい登場の先には、最終的にはひとつかふたつに絞られていくことが予想される。あるいは新たなサービスによって淘汰される可能性もある。

  日経のように原則課金の道を歩みながら、デジタルビジネスの発展の方向性を探るのか、キューレーション・アプリにコンテンツを開いていくのか、それぞれのメディアがその特性によって決めていかなければならないときを迎えている。

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2015年の言論空間はどうなるのか?

 正月元旦付の紙面で一面トップを飾りたい、あるいは新年の企画に参加して署名原稿を掲載したい。新聞記者ならそんな思いを抱くものである。毎日のように発行される新聞であっても、やはり新年の幕開きは特別なものだ。

  大手紙の新年紙面は、その年の言論空間の方向性の一端を示しているといってもよいだろう。ここでは読売、朝日、毎日、日経、産経と、ブロック紙である北海道、西日本、中国新聞の紙面を見ていきたい。

  いうまでもなく、今年は戦後70年にあたる。日本を取り巻く外交や安全保障、経済環境が大きく変化しているなかで、各紙は過去と現在そして未来を俯瞰しながら、歴史的な節目をみつめようとしている。

  大手紙の元旦紙面のなかで、読売だけは1面トップを戦後70年の連載で飾らずに、雑報すなわち一般の記事で飾っている。社会部の事件報道が伝統的に強いとされる、読売らしい紙面である。

  破たんした東京のビットコイン運営会社が、当初の説明では外部からのアタックによってビッドコインが盗まれた、としていたが、それが真実ではない、という報道である。失われた99%が実は、内部の口座の移し替えつまり、システムを知る何者かがいったん移動してその後に外部に持ち出された、とする警視庁の捜査結果を明らかにした。

  「語る 戦後70年」の企画は翌々日紙面からである。第1回は米国の国務長官などを歴任したヘンリー・キッシンジャー氏。戦後の日本の歩みについて、「米国が日本を作り直したのではない。日本自身が、自らの伝統的な価値観の中で、新たな状況、国際秩序に適応したのだ」とする視点を述べる。

 日本の未来については、「これから取りうる道は、三つある。一つは日米同盟の継続、二つ目は、従来より中国が強い存在感を持つ北東アジアへの接近、そして、より国家主義的な外交政策を取ること――である。どの道を選ぶかは、日本の指導者と国民が選ぶべき問題だ」と述べたうえで、「一つ言えることは、日本が『普通の国』になれるということだ。そして、抑制を聞かせた外交政策を進めていくことができる。ただし、独断的で攻撃的な外交を展開すれば、地域の懸念となりうる」と、昨年末の総選挙で大勝を収めた安倍政権の外交政策の方向性を提言している。

 このシリーズは、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏やデザイナーの森英恵氏、指揮者の小澤征爾氏ら、自らの戦後の歩みと、日本の将来に対する展望を語らせ、読みがいのある連載である。

 

 戦後70年にからむ雑報を元旦1面トップのもってきたのは、北海道新聞である。1943年(昭和18年)の時点で、米英軍は日本を終戦に追い込む作戦計画を立案、北海道上陸作戦が含まれていた、というスクープである。計画書によれば、北海道には、地上部隊を苫小牧、十勝・釧路、宗谷の三方面から同時に上陸させて、道内全域を占領する、とされていた。

 上陸計画はこれ以外にも、台湾、シンガポール、スマトラ島も対象としていた。

 その後の戦局の展開と、北海道上陸には気象面の制約があって、計画は幻になったという。

 北海道を中心とする同紙の読者のみならず、興味のある記事であろう。

  西日本新聞もまた、九州各地の米軍の低空飛行の目撃情報という雑報を1面トップに据えた。防衛省の資料や各県の情報などを総合して、2009年から14年6月までの5年半で約400件にのぼるとしている。

 沖縄の嘉手納基地の米空軍の飛行ルートが九州上空にもあることを突き止めた。沖縄の基地問題の広がりを報じたものだ。

  戦後70年の連載企画は、世界的な日本の位置づけと歴史的な考察の二つの側面からその内容の優劣が問われる。

 

 朝日の戦後70年:第1部の「鏡の中の日本」は、個人の生き方に焦点を当てて、そこから日本の実像を探るとしている。毎回のタイトルが「装う」では、森英恵氏ら日本のデザイナーの世界に与えた影響の意義を、「問う」ではハワイ州の知事に就任した日系米国人がいかに、日本人の血をひいていることと米国人であることに葛藤しているか、「学ぶ」では日本人で中国留学をしている学生の日中のわだかまりを説こうとしている活動を、それぞれ描こうとしている。

  このなかでは、日中間の留学生の交流の事実を上げて、日清戦争後から戦前は多くの中国人が日本に留学し、戦後は中国共産党の幹部として日中国交回復に尽くした、と略史が書かれている。

 しかしながら、中西輝政・京大名誉教授の最新刊「中国外交の大失敗」によれば、中国共産党によって戦前から日本留学生を中心にすえた、防諜活動の歴史であった、とされる。

 戦後70年を振り返るとき、歴史研究の多角的な分析の成果に眼を配らければならない。

  産経の「天皇の島から 戦後70年・序章」は、1944年(昭和19年)9月15日から74日間にわって、日米軍が戦ったペリリュー島を取り上げている。第一次大戦後に日本が委任統治した南洋群島の拠点を、戦史をひもときながらルポしたものである。

 日本軍は約1万人の死者と約500人の戦傷者をだして、ほぼ全滅。しかしながら、米軍に与えた被害も大きく、約1600人の死者と約7000人の戦傷者を出した。

  日米合わせて約2万人が死傷した「ペリリュー島の戦い」については、NHKが昨年夏に米国がその戦闘を撮影した、100本余りのフィルムを構成した「狂気の戦場 ペリリュー―“忘れられた島”の記録」を放送した。

 産経の戦史に基づいた記述も見事ながら、死にもの狂いで戦う日米軍の戦いの映像には驚かされた。そして、この島の戦いから、日本軍は戦い方を変えて、長期戦に持ち込むために塹壕や地下のトンネルを掘ったりして、米軍の圧倒的な機動力に対抗した。これは硫黄島の戦いにつながっていく。

 優れた映像の新たな戦史に、産経は言及してもよかった。

  毎日は昨年末から連載している、「一極社会:東京と地方」シリーズを年明けにも継続した。年末年始に日本の未来を読者とともに考える視点である。

 人口減少と高齢化は地方ばかりではなく、首都圏の問題でもあることを指摘するばかりではなく、どうしたら少子高齢化の社会をよくしたらよいかという、実例をもって書き進めている。戦後70年の節目にあたって、ジャーナリズムが問題指摘にとどまらず、提言能力を求められる。

 高度経済成長時代に開発された、東急沿線の住宅地も高齢化の波に洗われている。高齢化率が全国平均の約25%を上回って30%近い地区もある。行政と住民ばかりではなく、開発者の東急も一体となって、住民が集えるカフェの開設活動などが紹介されている。

  中国新聞も年末年始に長期企画「ヒロシマは問う 被爆70年」である。元旦の紙面では、長崎・広島で被爆した人々を全国に追って、アンケートしている。

 アンケートに答えた約1500のうち、7割以上が被爆体験を語ったり、何らかの形で伝えたりしてきた。そして、高齢化が進むなかで、こうした被爆体験の継承が困難になることを約9割の人が懸念していた。

 被爆地の新聞社として、70年の節目の年に被爆者の人生に向き合う姿勢は貫かれている。

  日経は「働き方Next」シリーズで年を明けた。高度経済成長時代からバブルとその崩壊、長期低迷する日本経済のなかで、人々の働き方の新しい潮流を紹介している。これもまた、戦後70年の日本人の暮らしを振り返って、よりよい未来を目指す道を探ろうとするものである。

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読売 vs. 朝日 小学生向けのバトル再び

 読売新聞と朝日新聞が今秋、それぞれ中学・高校生向けのタブロイド判の新聞を創刊して、読者争奪戦が激しさを増している。小学生向け新聞で読売は2011年3月に、老舗の毎日新聞と朝日の牙城に攻め込んで、20万部を突破して大きなシェアを確保した。中高向けでもその再現はなるだろうか。

  本紙の部数競争が他紙の読者を奪い合うゼロサム・ゲームなら、中学・高校生向けは、新しい市場を切り拓くブルー・オーシャンにも見える。さらに新商品の開発競争ともいえるだろう。小学生向け新聞でかつては圧倒的な首位に立っていた毎日が、中高生向けでは朝日と読売に追随できない。

 「朝日中高生新聞」は10月5日に創刊した日曜発売の週刊紙(月額・税込967円)で、それまでの「朝日中学生ウィークリー」を全面的にリニューアルして読者層を高校生に広げた。

 小学生向けの「朝日小学生新聞」が中学受験する読者に、浸透してきたのと歩調を合わせるように、受験と結びついた紙面構成となっている。また、小学生新聞がそうであるように、ニュースをコンパクトにまとめてみせる、つまり大手新聞社らしさがにじむ紙面である。

  12月7日号の1面は、総選挙にからんで東京都内の高校で模擬投票が行われようとしている話題である。国民投票法の有権者の年齢について、18歳に引き下げる論議がなされている現状と重なり合う視点を提供している。

 3面は1週間の主なニュースをコンパクトにまとめている。エジプトのムバラク大統領の無罪判決や、日本国債の格付けの引き下げなど、入試の社会分野の出題に出そうな内容である。

 7面は本紙1面のコラム「天声人語」を使って、作文の練習をする。毎回次週のテーマを設定して、読者が応募したコラムを紹介する。

 英語検定に向けた問題や、入試にでそうな数学問題なども多面で展開している。

  「読売中高生新聞」は、読売の140周年記念事業の一環として11月7日に創刊された。金曜日発売の週刊紙(月額・税込780円)である。

 朝日と大きく異なるのは、その編集・デザインで小学館と協力していることである。小中高向けの雑誌の分野ではかつて、旺文社と並ぶ「学年別」雑誌を発行していた老舗である。

  12月5日号の1面は「アメリカ 超大国の現実」を大きな見出しと、黒人容疑者を射殺した警察当局に対する抗議デモの写真をあしらって、2面と3面で見開きの紙面を使って、米国の人種別の比率や収入格差などについて、グラフをふんだんにあしらって、解説している。

 まるで雑誌のようであり、本紙でも試みて欲しいような野心作である。

 独自取材の話題物も読ませる。青森県内の高校の演劇部が、活動が低調だった状態から全国大会で優勝するまでの軌跡をルポした作品である。

  こうした紙面は、小学生向けの「読売KoDoMo新聞」の成功体験が裏打ちになっているようにみえる。朝日と毎日の日刊に対して、週刊で挑んだ紙面はやはり小学館と協力してビジュアルに凝った内容になっている。

 日本ABC協会の今年上半期の調査によると、「KoDoMo」は20万部を突破して、朝日の10万部台を大きく引き離している。毎日小学生新聞は非公表である。

  スマートフォンに親しんでいる中高生向けのサービスでも、朝日と読売は競う。朝日は紙面の電子ブック版を読者に提供する。読売は読者の投稿のアプリ「Yteen」をリリースしている。深夜から未明の投稿を禁じるとともに、投稿のアップには編集室が事前のチェックをしている。

 読売はOL向けにスタートしたヒットサイトの「大手小町」が、15周年を迎えている。中高生向けの投稿サイトが成功すれば、ネット戦略のうえでも収穫となる。

  新聞記者の駆け出し時代に、「記事は中学生にもわかるように書け」といわれていたことから考えると、中高生向け新聞の創刊は意外な気持ちがした。しかし、本紙の読者の開拓、次世代の読者の養成と位置付ける、ふたつの新聞社の試みは、多様な紙面構成とともに、本紙自体を変えていくかもしれない。本紙の記者たちも楽しそうに中高向けのわかりやすい記事を書いている。

「週刊こどもニュース」のキャスターから、池上彰氏というニュース解説のスターが出現したように、新しいタイプの記者が生まれるかもしれない。

 

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 晩秋のみちのく旅行で、東北新幹線に乗る。バックパッカーの外国人男性は窓外の紅葉の山々を見やることもなく、手元の電子書籍リーダーのキンドルを手にして読書を始める。

  東京の通勤電車のサラリーマンと重なって、珍しい光景ではないのだが、キンドルの発売元であるアマゾン・ドット・コムに関する最近の数々のニュースが頭に浮かんで、彼のキンドルの画面が気になるのだった。

  キンドルの上位機種の購買者に対してワシントン・ポスト紙のコンテンツを無料で配信する、と11月中旬に発表した。同紙はアマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスが昨秋買収した。それから1年余りが経って、当初の予想通りに同紙とキンドルが組み合わされた。

 アマゾンの世界戦略のなかに、当然のこととして日本もある。

 日本での売上高が2013年度の推定で7000億円と、ネット・通信販売では他を寄せ付けないナンバー1の地位にある。

  日本ではすでに9月1日から、読売新聞が傘下の英字紙「ジャパン・ニューズ」とワシントン・ポストと提携して、同紙の電子版をジャパン・ニューズの購読者は無料で読めるようになった。同種のサービスは米国の新聞社にも提供されている。

 書籍販売の分野では、いわゆる取次大手のトーハンとの取引を始めることが10月末に、明らかになった。すでに日版との取引を始めており、日本の2大流通ルートと手を握ることになる。

 日本の出版業界の特徴である、全国一律の値引きを許さない「再販売価格制度」のなかで、アマゾンは着々と布石を打って市場を突き崩そうとしているようにみえる。

 まず、アマゾンが日本国内で打ち出した学生向けの書籍割引サービスである。「スチューデント・プログラム」と名付けて、10%のポイントつまり値引きをする。

 これに対して、中小出版社3社が、再販制度を切り崩すものだとして、アマゾンに自社の出版物の出荷を停止するとともに、取次にも同様の申し出をしている。出荷停止は5月から半年にわたり、さらに3カ月が延長された。

 小学館など大手出版社にも同様の措置を検討する動きが広がろうとしている。

 新聞業界とともに、再販制度のもとで成長を遂げてきた出版業界が、販売力を右肩上がりで伸ばしているアマゾンにどこまで対抗していけるのか。消費税が10%に引き上げられるときに、軽減税率の適用を求めているふたつの業界にとっては、再販制度はその前提となるだけに死守したいところである。

  次に出版業界を揺さぶったのは、アマゾンの書籍販売に関するデータの提供問題である。出版社に無料で流されていたデータが廃止されて、12月から原則有料とする、という内容のメールが一斉送信された。

 これまでは、出版社の「売上」「在庫」「需要予測」などを確認できる基礎情報は無料だった。「顧客の行動分析」や「競合のタイトル」などの分析は有料だった。こうした無料サービスがなくなったのである。

 さらに、アマゾンと直取引の出版社なら、データの配信は無料となった。

 出版社にとっては、アマゾンの販売状況に関する情報は、いまや欠かせない「ビッグ・データ」である。アマゾンがそのデータの配信によって、出版社を選別して、その出版物の販売に軽重をつけようとしているのではないか、と疑惑と反発が業界に広がったのである。

  すでに、米国では大手出版会社のアシェット・ブック・グループが、アマゾンが価格引き下げ交渉めぐる交渉のなかで、価格の決定権を握る方向を打ち出したことから反発。これに対して、アマゾンがアシェットの書籍の予約を受け付けなくしたり、配達を意図的に遅らせたりする動きに出たことも、日本の業界に不信を抱かせている。

 アマゾンはこうした動きに対して、日本の専門紙の記者らを招いて幹部らが懇談をする機会を設けて否定する事態となっている。

 最後に、キンドルを武器として、電子書籍分野でアマゾンが独走するというシナリオが現実のものとなっているのではないか、という慄きである。

  アマゾンキンドルが日本に上陸して以来わずか1年半余りの今夏現在、電子書籍は22万タイトルと初期の4倍以上となった。さらにコミックは、当初の7倍以上の7万7000タイトルである。

 注目すべきは、コミックの月次の売上高において、電子版がすでに紙を上回っていることである。

  アマゾンの日本における「現地化」は加速度を増しそうな勢いである。プラットフォームの争奪戦において、楽天など日本勢は巻き返せるだろうか。

 

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NHKが2強に割って入る

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「(今年)上期が厳しい中で必死に頑張って、平均視聴率で2位を堅持した。秋からは得意分野の人気大型ドラマもあり、新たな攻勢をかけたい」

  テレビ朝日の吉田慎一社長は、10月末の定例会見で視聴率競争の厳しさを正直に表明した。朝日新聞の編集担当から今夏に社長に就任した吉田氏にとって、就任1年目からテレビ界の洗礼を受けた形となった。

  今年上半期の視聴率は、全日(午前6時~翌日午前0時)帯で確かにNHKと並ぶ7.0%で2位だったが、ゴールデンタイム(午後7~10時)帯ではNHKに次ぐ3位にとどまった。プライムタイム(同7~11時)帯では、3位のフジテレビに0.8ポイント差まで迫られる10.7%の2位だった。

 いずれの時間帯も日本テレビが1位の3冠だった。日テレが独走する形となっている。全日帯では、昨年12月第2週から今年10月第4週まで連続46週間もトップの座にある。

  テレ朝は2013年に年間の視聴率が、ゴールデンとプライムの両時間帯で、NHK、民放を通じ首位になった。ゴールデンでの首位は開局初めてで、プライムも合わせた2冠の獲得も初めてだった。その後も日本テレビと首位の座を争ってきた。

  日テレとテレ朝の2強時代も束の間で、日テレ1強時代かつNHKが民放の視聴率競争に割って入ろうとしている。

  こうしたテレビ業界の潮流が変化の兆しをみせるなかで、NHKの経営委員会が11月11日にまとめた、来年度からの3カ年の経営計画の骨子が民放業界に波紋を投じている。

 東京・代々木にある放送センターの建て替え費用が固まるのを待って、収支計画の見直しがある前提とはなっているものの、計画の最終年度に受信料収入の増収を1000億円と見込んでいるからだ。

 受信料の支払い率を13年度末の74.8%から最終年度には80%を目標にしている。未払い者に対する簡易裁判所の手続き請求などによって、支払い率は向上する方向にある。今年度は過去最高だった11年度の6400億円を上回る見込みという。

  この額そのものが、フジ・メディア・ホールディングスの総売上高に相当する。この数字は放送事業のみならず出版や通販など多角的なものである。

 NHKの受信料は新たな放送センターの費用に一部が充てられるとはいえ、放送の制作費において民放をはるかにしのぐ規模にある。例えば、フジテレビの制作費は、13年度が983億円、今年度上半期が516億円である。

 放送業界では、民放のBS放送の制作費全体が、NHKのBS放送全体に過ぎない、といわれている。

 NHKの増収戦略は、民放にとってさらなる脅威である。

  視聴率競争において、テレ朝がいったんは抜け出したかにみえたのも束の間で、ゴールのみえない戦いになっている背景として、ここではいったんコンテンツの成否は脇において、編成つまり番組の構成の戦略、新聞や雑誌でいえば編集方針、メーカーでいえば商品構成の視点から眺めていきたい。

  NHKは総合放送のなかでニュースを骨格として、BSも含めてドラマやバラエティーなど、その編成方針を一気に変えようとはしていない。

 視聴者からみると、ある時間帯の番組がどのようなものであるか、習慣的に知っている状態を作っている。

  日テレが首位の座を固めている戦略もまた、この習慣性の重視にある。秋の番組改編において、ドラマの新番組スタート以外は基本的に番組を改編していない。

 週刊誌をもじって「習慣日テレ」と内部では標榜している。なかなかうまい表現である。

 これに対して、テレ朝は日テレへの挑戦から、長時間の特別番組などを改編の目玉に置いているが、視聴率が伸び悩んでいる。

  両社の編成の路線の違いが結果として、視聴率競争の現状につながっている、というのが放送業界の見方である。

  もとより、コンテンツ産業としての放送会社は番組が命である。

 テレ朝の名物ドラマといえる「相棒」や「ドクターX」の秋シリーズも出だしは悪くはないが、昼間の再放送によって全日の視聴率の底上げを図る戦略は、繰り返しになるにつれて視聴者の飽きを呼んでその効果が薄れているようだ。これに対して、日テレは秋のドラマで新作シリーズをずらっとならべる戦略をとっている。

  テレ朝が成功に向かって歩んできた軌跡の先に、さらなる成功はなさそうである。

 

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