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威圧的訴訟「SLAPP」に対する抑止もない日本

 Daily Daimond寄稿。週刊ダイヤモンドの購読者向けのサイトです。

 総合週刊紙が、名誉棄損訴訟で相次いで敗れている。週刊文春が「女優が元暴力団幹部の愛人だった」とする報道で、記事ページの冒頭で謝罪広告を掲載するよう命じる判決を受けた。週刊現代は「グリコ・森永事件」をめぐる報道で、犯人と推定される作家からの名誉棄損訴訟で敗訴が確定した。

  スキャンダル報道が雑誌の柱となっている、総合週刊紙においては取材の態勢とその切り込みに勢いを失する事態である。

 総合週刊誌を支えていたサラリーパーソンの読者離れもあって、「訴訟リスク」ばかりが要因ではないとはいえ、部数に歯止めがかからない事態は、政官財に対するスキャンダル取材の在りようの変化がうかがえるのではないだろうか。

 ABCの調査によると、2014年下半期の雑誌総売上部数は、計1543万部で、前年同期に比べて6.6%の減少である。

 主な総合週刊誌の部数と前年同月比(%)は以下。

  AERA 6万部 ▲11.9

 サンデー毎日 5万部 ▲0.9

 週刊朝日  9万部 ▲12.6

  週刊現代 31万部 ▲13.1

 週刊新潮 32万部 ▲7.2

 週刊文春 43万部 ▲6.6%

 週刊ポスト 26万部 ▲18.4

  週刊文春が自民党公認で衆院比例に立候補予定だった、元女優が暴力団とつきあいがあった、との報道に対して、元女優が起こした名誉棄損訴訟は以下の判決は、これまでになく厳しい。 東京地裁は、週刊文春のグラビアをのぞく、つまり最初の記事ページにお詫びをだす、というものである。総合週刊誌の衰退を示すあるいは末期的な症状と、いずれ振り返られることになるかもしれない。

  週刊現代の「グリコ・森永事件」の犯人を追究する報道では、犯人と推定した人物について匿名であったにもかかわらず、作家が名誉棄損で訴えた。当事者は和解を望まずに、最高裁まで訴訟は持ち込まれて、週刊現代が敗訴した。

  賠償額がかつてよりも多額になっていることも、総合週刊誌を悩ませている。週刊文春のケースで440万円、現代のケースは583万円である。

 総合週刊紙は、部数が減少するなかで、1部当たりの純益は10円から20円と推定されているから、この金額は1号分の利益が吹き飛ぶ水準である。

  実は、最高裁判所の事務局が中心となって、2000年代初めに損害賠償額をそれまでよりも一桁多い500万円相当が適正である、という基準を実質的に設定したことが、スキャンダル報道をけん制する形となっている。

  さらに、欧米では政府や大企業などが、威圧的あるいは恫喝的に訴訟を起こす「SLLAP」訴訟を抑止する法律や、判例がある。日本ではいまのところそうした判例はいまだに出ていない。

 SLLAPの定義は、強者が弱者に対して訴訟を起こす、訴訟を起こすものが敗訴を気にしない、という点が重要である。

 日本でも最近、大企業が極めて高額な賠償金を求める、名誉棄損訴訟が増えている。

  もちろん、報道は真実であらなければならない。訴訟で争われるときには、真実であるとことに相当な理由がなければならない。後者を「真実相当性」という。

  総合週刊誌はかつて、フリーライターを編集部に抱えて、そこから多くのノンフィクション作家を輩出した。日本のジャーナリズムの一角を担ってきた。足で稼いだデータを、1本の記事に凝縮して、読者に提供する手法を持っていた。

  部数が減るにつれて、外部のライターを抱える余裕を失って、編集部中心の誌面づくりとなって、ある事象について談話をつぎはぎする記事が目立ってきたように思う。

 総合週刊誌の自由な雰囲気と、取材経費の豊富をかつてのフリーラーターたちは、懐かしがっている。

  往時を懐かしがってもしかたがない。新聞社系の総合週刊誌の経験者として、私見であるが、雑誌作りはやはり、いわずもがなであるが、他のメディアの常識を疑う編集長と、社外のライターを発掘できる編集者、魅力的なコラムニストの起用、にあると思う。とくに新聞社系の総合週刊誌の驚くべき凋落ぶりは、こうした基本が忘れられているのではないかと考える。

 

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有線放送のトップUSEN 2位のキャンシステムに出資と貸付

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 飲食店などの店舗や家庭に音楽を配信する、有線放送業界でトップのUSENと2位のキャンシステムが資本出資と貸付で合意した。USEN側からみると包括的な資本業務提携である。

  両社はこれまで業界で激しい営業合戦を繰り広げてきた。ときには中傷合戦とも受け取られかねない争いだった。それだけに、両社の提携は、有線業界のみならず音楽配信事業の世界で驚きをもって迎えられている。

  USENは、キャンシステムの株式の第三者割当増資に応じる形で、10%相当を取得する。金額は非公表である。振り込み期日は8月26日の予定である。

 さらに、9月1日の振り込み予定で、USENはキャンシステムに対して計35億7000万円を貸し付ける。

  キャンシステムは、資金を音楽配信のデジタル化や、音楽配信を有線ではない衛星放送経由にする新たな投資をおこなう、としている。こうした分野では、USENが先行しており、そのノウハウを得たい考えだ。

  両社の激しい戦いの歴史を振り返るとき、業界関係者ならずとも、今回の提携は意外性に富んでいるようにみえる。

  東京を発祥の地とするキャンシステムと、前身の大阪有線放送であるUSENは創立期がほぼ同じ1960年代初めで、全国制覇を目指して激突したのである。

 それぞれの創業者である、キャンシステムの現会長の工藤宏氏もUSENの故宇野元忠氏も、個性的かつエネルギッシュな経営者だった。

  両社が争ったのは、電柱への有線を張り巡らす競争だった。大阪有線は創業後40年間、電柱使用料と道路占有料を支払っていない、というキャンシステムの主張だった。いわゆる無断のケーブル敷設問題として、社会的な話題にもなった。

 これに対して、キャンシステムは電柱使用料と道路占有料を支払い続けたとしている。

  この「40年戦争」の軍配は、USENに上がった。この間に地方の有線音楽配信会社が200社余りも廃業した。この業界でUSENは圧倒的なシェアを獲得した。

  デジタル化による業界の変化にいかに対応していくか。USEN vs. キャンシステムの戦いと、今回の提携劇は他の業界にとっても他人事ではない。

  あらゆるモノがインターネットをつながる「I to T(Internet of Things)」時代のパラダイムシフトがいまや幕を上げようとしている。

  三洋電機がかつて、アップルなどに先駆けて「iTunes」のような仕組みを構想していた、といわれる。シャープも電子書籍リーダーの機器を考えていたともいう。しかしながら、実現化に躊躇しているうちに、インターネットのスピードは彼らを追い抜いてしまったのである。

  USENは現在の会長である、宇野康秀氏のもとで、有線放送会社としてはいち早くインターネット事業に乗り出したのである。

  2001年3月には、光ファイバーによるブロードバンドサービスを東京都世田谷と渋谷区の一部で開始した。2007年6月にはテレビ向けの動画配信サービスの「ギャオネクスト(現・「U-NEXT」)を、翌年春には、インターネットの動画配信を受託する「GyaO STREA」を始めた。

  今回の提携先であるキャンシステムの売上高について、帝国データバンクの会社情報をみると、2015年2月期にかけて、過去6期にわたって売上高が漸減している。

  キャンシステムも、インターネット配信については後進ながら、衛星放送経由の音楽配信も行っている。

  有線放送業界は、インターネットを通じた音楽配信の脅威にさらされている。スマートフォン向けの配信サービスは月額の定額制が一般的になろうとしている。有線放送会社と契約しなくても、スマートフォンとスピーカーをつなげば、格安で音楽を楽しめる時代となった。

  USENにとっても、今回の資本提携はこうしたパラダイムシフトを念頭に置いた方策だったろう。ブロードバンドサービスに切り込んでいった時のように、新たな地平を切り拓いていけるかどうか。会長である宇野氏の今後の戦略に、ネット業界の関心が高まっている。

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キー局の無料視聴戦略は食い止められるか ネットフリックスの成否は?

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 テレビをほとんどまったく見ない層が拡大し、かつ視聴時間が短時間にすぎない層も増えている。――NHK放送文化研究所が7月初めにまとめた「日本人とテレビ 2015」調査によると、1985年以降初めて、「短時間化」する傾向に転じた。

  さらに、2015年度に入ってから、調査対象の世帯のうち視聴している割合を示す「世帯視聴率」(HUT)が、かつてない水準で急落した。

  放送業界の危機感は高まるばかりである。今秋には世界最大のインターネット映像配信企業である、ネットフリックスが日本でサービスを開始する。

 キー局は今秋から、視聴者を拡大するためにインターネットを通じた無料視聴サービスを拡大する。

  新聞や雑誌、ラジオがすでに直面した読者、視聴者の急減と、テレビもどう対応するのか。キー局の反転攻勢はできるだろうか。

  「日本人とテレビ 2015」調査は、5年前の2010年調査と比較している。1日に「ほとんど、まったく見ない」層が全体の4%から6%に増加した。30分から2時間みる「短時間」層が35%から38%に増えた。

 長時間見る層は減る傾向にある。3時間の「普通」層は21%から19%に減少した。4時間以上の「長時間」層は40%から37%に。

  放送業界が購買層としてCMの効果を強調している、20歳代から40歳代で「ほとんど、まったく見ない」層が急増していることは、業界の経営を揺るがす。

 20歳代では、5年前の倍の16%となり、30歳代では8%から13%へ。40代も倍増して6%となった。

  放送業界のなかで、今年度に入ってからHUTをめぐって起きている「異変」を裏付けるものである。4月と5月の平均HUTが前年度から2ポイントも下落したのである。過去の年度では1ポイント未満であった。キー局全体で62%を切る水準になった。

 広告収入の水準を決める数値だけに、今年度が走り出した段階での急落は、放送業界にとって衝撃であった。

 

 日本の放送史は、一昨年還暦を経過して新たな歴史を刻み始めている。今秋のネットフリックスの日本上陸と、キー局の無料配信の拡充は大きな転機となりそうだ。

  ネットフリックスは、既存の映像だけではなく独自制作の映像も配信している。サービスは約50カ国で展開し、加入者は6200万人以上に及ぶ。料金は月額制度、米国では3段階になっている。最上位は11.99ドルである。

  日本でのライバルは、ネット配信の「ひかりTV」や衛星多チャンネルの「スカイパーフェクト」とみられる。しかし、視聴時間の獲得競争という角度から眺めれば、キー局も傍観はできない。

  フジテレビはまっさきに、ネットフリックスと提携した。両社で独自の番組を制作する方向だ。ネットフリックスは他のキー局にも、同様の提携を働きかけている。

 米国ではケーブルテレビのサービスが一般的で、ネットフリックスは新たなチャンネルのひとつとして契約を増やしている、という見方がある。日本では地上波テレビが無料で視聴できることから、ネットフリックスの契約者の開拓は難しいのではないか、という見方もある。

  キー局としては、無料・広告モデルの経営の基盤として、視聴者の獲得に戦略を練らなければならない。

  在京の民放5社は、今秋の番組改編時期に合わせて、合同のサイトで無料の配信を手がける。地上波で流している番組の著作権の処理などが必要になり、かつ各社の無料配信に対する姿勢の強弱があることから、提供する番組の分野には特徴がでるのではないか、とみられている。

  ライバル同士がネットで協業する例としては、新聞業界で朝日、日経、読売が共通サイト「ANY」が思い出される。新聞の読み比べ、をキャッチコピーにして、2008年に始められ2012年春に閉鎖された。

  民放5社の共通サイトの成否はこれからだ。しかし、新聞の例からはいずれ再び、個別の配信に戻る可能性がある。

 その意味では、東京ローカル局のMXTVが7月から、アプリを利用した番組同時配信を始めたことが注目される。

 MXは小回りの利いた映像配信サービスでは、業界のトップを走ってきたテレビ局である。発足当時にデジタル配信機器を整備した。ポッドキャストも業界で最も早い。

  映像の世紀である20世紀にメディアのトップに立った、テレビはいま厳しい経営状況のなかから新しい道を見出せるだろうか。

 

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電通、共同通信が着実に進める「国際化」が照らし出す

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 日本経済新聞社が、英国の有力紙ファイナンシャル・タイムズ(FT)を発行するFTグループを買収することで、親会社のピアソンと合意したことは、さまざまな面から論議されている。日本の新聞業界の将来性とからめて、その成否に焦点が当たっているようである。

  ここでは、電通と共同通信グループが実は着実に進めている、国際化の動きを追うことによって、今回の日経による買収を考えてみたい。

 日経をめぐる論議のなかでは、日本のメディアが国境を越えていくことに対して、いささか自虐的な評価が多い。そうした見方が一方的過ぎるのではないだろうか。

  電通が2012年夏に買収を発表し、翌年の3月に100%子会社として傘下に治めた、英国の広告大手・イージスのケースと、その出資の規模は小さいが、共同通信グループが2011年秋に傘下に治めた、アジア情報の配信会社であるエヌ・エヌ・エーである。

  いずれも、両社の「国際戦略」の大きな枠組みのなかで、出資が行われていることが重要である。日経本紙は、FT買収について、アジアと欧米の経済情報を補完するとともに、グローバルなメディア競争に勝つことが目標である、と解説している。

 ただ、これでは一般的な買収目的を示したに過ぎず、日経の国際戦略ははっきりとみえてこない。そうした戦略を隠しているのか、あるいはまったくないか、のいずれかである。前者であればよいのだが、企業の国際戦略を心配するのは余計なお世話かもしれない。

  電通はイージスの買収によって、それ以前とは経営内容が一変した。国内を中心とする売上高は、2006年3月期の連結決算において初めて2兆円を超えた。しかしながらその後は、リーマン・ショックの影響などで、大台を超えることが難しくなった。そもそも国内の広告市場は、6兆円程度であるから、電通が経営を拡大するためには、国内の大手を買収するか海外に進出するかの選択肢しかなかったのである。

  メディアがその広告の代理店である、経営について報道することは少ない。イージス買収から2年余りが経過して、その成果はどうなっているだろうか。

 2015年3月期の連結決算における売上高は、4兆6423億円、営業利益は1323億円に達している。従業員の国内外別の人員をみると、国内が1万6000人、海外が2万7000人となり、国際企業といえるだろう。

  イージス買収後に、その海外に関する情報を頼りにして、電通は海外の広告会社を次々に買収、出資していく。

  今年6月には、英国でインターネット通販の支援事業をてがける、eコメラ者を買収。ポーランドのネット広告会社のマーケティング・ウィザーズ社も買収した。

 今春には、米国の調査会社で消費者の行動分析をする、フォーブス・コンサルティングを買収。電通の海外企業の買収、出資は、イージスを買収してから30社を超えている。

  インターネット広告分野に対する戦略的な投資とともに、世界的な広告代理店としてのネットワークを構築する戦略は、鮮明である。

 ギリシャやカナダ、南アフリカ、ナイジェリアなど、イージスの本拠である欧州にとどまらない。

  共同通信グループが、アジアの経済情報を中心とする、エヌ・エヌ・エーの筆頭株主として、75%以上の株主を取得したことも、国際戦略のなかにある。

 エヌ・エヌ・エーは、1989年に香港で創業し、アジア各地に拠点を配置していった。当初はその地域の情報を進出してきた、日本企業に配信することから業務を始めた。

 現在は、北京、デリー、シンガポールなど、15カ国・地域に取材網を張って、1日当たり平均300本の記事を配信している。

 共同通信は、世界各地に取材拠点を配する通信会社である。エヌ・エヌ・エーは、それよりも地元の細かな、しかし企業や行政機関にとって重要な情報を配信して、保管している。各地の拠点には、現地の言語に堪能な記者を原則として配置している。

  エヌ・エヌ・エーは、共同通信の本社内にオフィスを置いて、共同通信の世界戦略を担っている。

  日経の喜多恒雄会長は、FTの買収について、以下のようなコメントを発表した。

 「FTという世界で最も栄えある報道機関をパートナーに迎えることを誇りに思います。我々は報道の指名を共有しており、世界経済に貢献したいと考えています」

  記者会見では、「(FTを)毎日眺めていた」と語っている。

  FTの買収が日経にとって、「名誉」ではなく、「世界戦略」の一環であることがわかるとき、その成否の判断ができるのだろう。              

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出版業界はポスト・スマフォのビジネスモデルを見出せるか

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 出版取次業の準大手である栗田出版販売が6月26日に、東京地方裁判所に民事再生法の手続きの開始を申請した。帝国データバンクによると、負債の推定額は約134億9600万円。

  書籍や雑誌を書店に流通させると同時に、出版物の販売代金を前もって出版社に支払う、いわば金融機能によって、支えてきた取次業の中堅企業が倒産したことは、改めて出版業界のビジネスモデルの再考を迫る。

  栗田出版販売は、大阪屋に次いで業界4位。1918年創業の老舗で、取扱書籍は文庫本から月刊誌、雑誌、一般書籍など幅広い分野を手がけていた。上位の取次と比べた特色は、中小や零細の書店を取引先に開拓する道を歩んできた。

 過去には1991年10月期に年間売上高が、約701億7900万円に及んでいた。しかし最近は、14年9月期(97年に決算期を変更)に約329億3100万円と半分の水準を切るまでになっていた。

  大阪屋が経営悪化から、一昨年に楽天などの増資を仰いだのと、今回の栗田出版販売の倒産の構造は同じである。書籍と雑誌の売上高が漸減傾向をたどっているうえに、スマートフォンやタブレット型端末の普及が進むなかで、コミックなどを中心として電子版が「紙」に置き換わっているからだ。

  栗田出版販売の再建にあたっては、すでに業界首位の日本出版販売グループの出版共同流通が、スポンサー企業として手をあげる方向である。さらに、大阪屋が当面、仕入れと返本業務を代行する。いずれは、大阪屋と経営統合が図られるとみられている。

  スマートフォンやタブレット型端末が登場してから、ほぼ5年を経て、この間に出版業界は電子化に取り組んできた。14年度には約1400億円規模まで成長して、18年度には3000億円を超える予測もある。しかしながら、「紙」の減少を補って、出版業界の低落傾向に歯止めをかけるまでには至っていない。

  「紙」のビジネスモデルをおおざっぱに図式するならば、出版社→取次→書店→読者、となる。これまでの電子書籍のモデルは、出版社による電子化→電子書籍取次(プラットホーム)→電子書店(アップルストア、グーグルプレイなど)→読者と、それぞれの登場人物が代わったようでいて、その機能は変わらず、ビジネスモデルも大きな意味では変化しなかったともいえるだろう。「紙」の流通と「電子」の流通で一番ワリをくったのが、取次といえるだけだ。

  「電子」の根本的なビジネスモデルは、いまのところはっきりとみえていない。携帯電話会社がサービスをしている「まとめ読み」や、無料とプレミアムの有料を組み合わせた「フリーミア」サービスも登場しているが、出版業界をうるおす決定打には欠ける。

  栗田出版販売が倒産によって、大阪屋といずれ経営統合するにせよ、第3位の取次の売上規模が大きくなっただけで、新たなビジネスモデルが不在の穴を埋めるわけではない。

  出版業界の新たな地平はどこに見いだせるのか。TwitterやFacebookなどのSNSばかりではなく、それ以前のネットのサービスであるメルマガ、ホームページを駆使して、読者を囲い込む方向が、ひとつは考えられる。

  出版社は新聞社同様に、定期購読者以外は読者の名簿をつかんでいない。作家やジャーナリストそれぞれに、読者の名簿を把握することは、ネットの手法で可能である。

  読者の属性に即して、新刊書や雑誌の最新号、作家やジャーナリストの新刊、エッセーを薦める仕組みを作ることである。

  この手法は、最近一部のコミックで、特定の作者のファンを集めることで活用されている。書店の「情報海」から、優れた作品を読者に発見してもらうのは、なかなか難しい。無料のコンテンツなども絡めて、読者のサークルを固める。コミック特有ではあるが、この閉じられた空間のなかで、単行本だけではなく関連のグッツも売れている。

  比喩としては、宝塚ファンのサークルがわかりやすい。本誌が特集を組んだ通りである。ファンクラブはチケットの販売だけではなく、書籍やグッツの販売に寄与しているのである。そこには出版業界も参考になるビジネスモデルがある。

  出版業界において、栗田出版販売の倒産は業界の将来を暗示するものとして受け止められている。しかしながら、そうした悲観論ばかりではなく、過去を振り切った先にしか、未来はないだろう。

 

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