東京唯一の新聞
震災による火災を免れた東京日日新聞はどうであったか。『毎日新聞七十年』は、「関東震災と東京唯一の新聞発行」の項目を立てる。
東京の日刊紙17社のうち、火災をまぬがれたのは東日のほか報知新聞、都新聞、合わせて3社だけであった。東日では第一震によって事態が容易ではないことを察すると同時に、社屋を防衛する一方、城戸主筆の「新聞は絶対に休刊しない」との方針の下に、直ちに号外を発行することになった。
しかし、すでに電気もガスも切断されていた。ケースがくつがえって散乱した活字を、苦心して拾い集め、第1号外数百枚を手刷り印刷、午後2時ごろ配布した。次いで午後5時すぎ、大型の第2号外を発行した。しかし、とっさの間のこととて基本活字を夢中に拾い集めたために、第1、第2号外とも見出しも本文も基本活字ばかりの号外となった。
一方、右の手刷り号外はほとんど貼出し用、撒布用ぐらいの枚数しか発行できなかったので、印刷可能の場所を求めて、前橋上毛新聞に交渉、既発行の号外の記事をもととして、同工場で2日午後10時ごろから印刷開始、約10万枚(2分の1ページ大)を刷り上げた。うち約5万枚は各地主要言売捌店に分送、残りは東京、千葉に配布した。この2日附の東日は、非常事態のために体裁は整っていなかったが、その日の東京唯一の新聞であり、震災後の東京初めての新聞であった。
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参考文献
読売新聞80史
読売新聞
1955年12月
朝日新聞社史 大正・昭和戦前編
朝日新聞社
1991年10月
別冊新聞研究 No.5
石井光次郎
1977年10月
毎日新聞七十年
毎日新聞社
1952年2月
日本経済新聞百年史
日本経済新聞社
1976年
新聞研究 別冊No.13
務臺光雄
1981年10月