ヤフーは立ち止まらない ③
インターネットで情報を伝えることの利点について、川邊は次の3点をあげている。
第1は、メッシュの細かさ、つまり情報のエリアの細かさである。マスメディアは、エリアを大きくしか扱えない。検索という行為は、そもそも情報を引き出そうという利用者のものであり、どんない細かいマイノリティ向けの情報でも掲載できるという特徴を持っている。
第2は、双方向性である。判断や考え方の多様性を促して、議論の場を作る。大震災のなかで、原発事故や放射能汚染の問題について、利用者はこうだといって欲しかった、と川邊は振り返る。しかし、ヤフー・ジャパンのとったのは、双方向性の原則にこだわることだった。利用者の判断材料になる情報、つまり選択肢について、ソーシャルメディアからの情報も含めて、整理するという方向であった。
第3は、利用者重視の視点である。混乱する震災関係の情報をなるべく整理するとともに、同じ情報でも利用者が理解しように伝える工夫を考えたのである。「計画停電マップ」や「東京電力の電力使用状況のメーター」などが好例だと、川邊は指摘している。
川邊がもっとも悩んだのは、8月から始めた「放射線情報」だった。ひとつ間違えばパニックを引き起こしかねないからだ。いったんは、ヤフー・ジャパンは放射線についての情報の提供をあきらめたのであった。
福島の原発事故の事態がだいぶ落ち着いてくるとともに、全国的な放射線物質の飛散状況もわかってきた。
冷静になるというのは本当に重要なことだと思う。実は、放射線情報をどう扱ったらいいのか悩んでいたときに、WHO発表のチェルノブイリ事故における子どもの健康被害に関するリポー トを読んだ。そのリポートによると、放射線物質による汚染よりも、一連の騒動によるストレスのほうが子どもには悪影響で被害が甚大だったという。やはり、過度な情報の流通や言及がストレスに与えるのは避けなければいけない。冷静かつ客観的に放射線物質とつき合っていけるような情報提供の形を目指し、3カ月かけてようやく、定点計測された全国の放射線量情報を提供する「放射線情報」を公開する運びになった。
私は現代日本人のインターネット・メディアリテラシーを信じる。それでも、世の中がそもそも冷静ではないときには、情報の発信や提供にはかなり慎重にならなくてはならないことを学んだ。非常に良い経験になったと思っている。
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参考文献
放送メディア研究 No.9 2012 (NJHK放送文化研究所、丸善刊)