ブログ

「そのとき、メディアは――大震災のなかで」第2部 ② ヤフーは立ち止まらない 中

2012年5月27日

このエントリーをはてなブックマークに追加

ヤフーは立ち止まらない ②

 翌3月12日、「震災対策特別室」が本社に設置された。官庁や報道機関、公共企業などに連絡して、正確な情報をすばやく伝える態勢づくりに取り組んだ。3月14日には、24時間体制を確立した。「Yahoo!トピックス」にかかわる技術、制作、企画のディレクターなど約70人を東京、大阪、名古屋の3拠点に分散したのである。 この日、ヤフー・ジャパン全体のページビューは、1日当たりとしては過去最高の23億6500万を記録した。

 3月26日には、「被災地エリアガイド」を公開した。地図などの地点情報サービスと口コミ機能を活用したものである。避難所や給水ポイントなどの情報を提供した。

 過去の経験から、PC上の情報は被災地の方には届きにくいということを学んでいたし、実際に被災地からのアクセスはほとんどがモバイル経由になっている。モバイル端末向けを最適化することをまず優先した。開発に少し時間がかかったが、被災された方にダイレクトにつながる重要なサービスでもあるため、十分なテストを踏まえて公開にこぎつけた。

 ヤフー・ジャパンは、震災対応がひと段落したあとも、立ち止まらなかった。「停電予報」と「写真保存プロジェクト」というかつてない取り組みである。インターネットの特性である双方向性が活きて、実ったプロジェクトといえるだろう。「読者」の呼びかけと、スタッフの自主的な提案が結びついた。 新聞やテレビ、雑誌、ラジオなど、既存のメディアの常識を越える試みである。

 「東京電力の電力使用状況メーター」をトップページに公開した際にはかなりの反響をいただき、我々自身も驚いたぐらいだ。情報掲載に当たっては最大で1時間20分の遅れが生じてしまうことになり、リアルタイムの状況を伝えられない。 利用者からも改善の要求する声が多数寄せられていた。原発事故を抱えて節電への意識が高まる中、現場からは、独自に電力使用状況を“予測”してしまいましょうよ、と大胆な声が上がった。

 優秀なエンジニアの活躍とYahoo!JAPANが15年以上培ってきたデータ解析のノウハウを駆使し、開発を始めてからわずか40日で東京電力館内に向けた「電気予報」を公開できることになった。4月27日のことである。東京電力発表の実績値および日本気象協会発表の気象データなどをもとに独自の集計方法で算出しいたもで、サービス公開時には誤差が2%程度とかなり精度の高いものとなった。

 東日本大震災で失われる前の町並みや風景、震災直後の様子、被災地に残された思い出の数々や今後の復興の過程などを写真で残す目的で4月8日に企画を発表、同月20日に利用者からの投稿受付を開始した。一見単純な企画のようだが、実は投稿の管理や、膨大な写真データを処理し保存するためのサーバーの維持など、費用も労力も膨大にかかるサービスだ。

 結果は好評で、震災の記録を残したいという利用者は多く、6月末には投稿数が2万枚を越えた。さらに、投稿写真 を活用して写真展が開催されるなど、活動の幅が広がっている。

 ――

参考文献

放送メディア研究 No.9  2012 (NJHK放送文化研究所、丸善刊)

このエントリーをはてなブックマークに追加