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「そのとき、メディアは――大震災のなかで」第1部 ⑪ 映像を途切れなく

2012年4月20日

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映像を途切れなく

 東日本大震災をきっけとして、日本の放送局として初めて、ユーストリーム上でライブ放送を始めたのは、TBSテレビだった。報道局のデジタル編集部の担当部長・鈴木宏友は、同社のニュース専門CSチャンネル「ニュースバード」の映像を、“ワンクリック”で切り替え、Ust(ユーストリーム)で流したのだった。さらに、世界のテレビ局で初めてYouTube(YT)上でもライブ配信を開始した。

 

 私が所属するデジタル編集部でも緊急地震速報を発すると同時に、震災を伝える特別番組が始まっていた。CSの24時間ニュース専門チャンネル「TBSニュースバード」だ。

 そのとき、「Ustはいけないのか」と大きな声が響く。今放送中の「ニュースバード」の特別弁組みをUstで配信できないのかという指示である。

 1年前、私は編成替えに伴い『NEWS23』のチーフプロデューサーからニュースのWeb展開を担当するよう辞令を受けた。デジタル編集部の業務は地上波以外のニュース、つまりCS放送、Web、デジタルサイネージ等への動画ニュース配信が主な業務である。

 Ustを使うにしても課題はある。まず、配信画面に出る広告を配信側がコントロールできない。これは、Ust上にTBSの公式チャンネルを開設することでTBSのコントロールとなった。もう一つは、画面の横に併設されるツイッターなどSNSの掲示板。いまや映像を見ながらの書き込みはWebの必須ではあるが、書き込みに対し配信側のTBSが責任を持つのか、という問題。実際やってみるしか結論が出ない手詰まり状態が続いた。

 ところが昨秋。

 菅直人vs小沢一郎という構図でまれに見る盛り上がりを見せた民主党の代表選、事実上、次の総理が決まる選挙だ。投票から開票まで全てを放送したいコンテンツだ。報道局、編成局からもWeb配信実験が許可された。動画ニュースサイト『TBSNewsi』には映像だけが埋め込まれ、Ustの『TBStv』ではツイッターの書き込みが流れた。

 この間、Web上のもう一つの重要なパートナーであるYou Tube(YT)とも定期的な意見交換を繰り返した。いざというときのパートナーとしてTBS報道局は向き合い続けた。

 そして3月11日。

 報道・編成・営業への連絡が完了した。17時42分、メディアビジネス局のUstチームがPCをクリック。「最大の緊急事態」の決断だった。「ニュースバード」がUstに流れ出す。TBSが、TV局の意思で、番組をWebに配信した瞬間だ。その1時間後、NHK、フジが動画配信会社側の要請によって配信を認め始めた(19時00分)。この際、他局は地上波をそのまま配信したが、TBSはCSのコンテンツである「ニュースバード」を選択した。かねてより会見などのライブ情報、1次情報を重視した「ニュースバード」の編成の方がWebとの相性が良く、地上波と同じものをWebに出しても意味がないとの判断だ。

 TBSはその間、YTと詰めの交渉を続けていた22時35分、世界のTV局で初めて、TBSがYT上でライブ配信を始めた。

 既存メディアに対する不信が危機的水準まで高まっている。これまでわずかなエッセンスだけ放送に使い、それ以外死蔵されてきた1次情報素材をWebで公開し、TV局が編集したニュースと見比べてもらう。TV局の編集作業の証拠を示す。見る側、伝える側、相互のリテラシーを高められる。その際、TV局と視聴者のコミュニケーションは何らかのSNSで行われていくことになる。Webとの対立関係にはならない。

 TVは一見、ツイッターの速報性に敵わない。しかし震災時のようなカオスの時こそ、信頼性を担保した組織的、物質的取材が求められる。まだTVの発信力は圧倒的だ。上から目線と叱られそうだが、Webに対し既存メディア、TVが責任を果たすべきなのだ。「TVを諦めた人達」がWebの世界にいるのなら、追いかけてニュースを伝えに行かなければならない。

 

――

参考文献

新聞研究(日本新聞協会刊)2011年6月
膨大な被災者の今を伝え続ける  河北新報社・編集局長 太田巌
地方の視点で震災と原発に向き合う  福島民報社・編集局次長 安田信二
求められる情報、総力で迫る  朝日新聞東京本社・社会グループ 石田博士 | 朝日新聞名古屋本社・報道センター次長 日浦統
最初の6時間 テレビは何を伝えたか  日本放送協会「ニュース7」編集責任者・等々木健

新聞研究2011年7月号
危機に問われる新聞力  岩手日報社・常務取締役編集局長 東根千万億
未曾有の災害連鎖を伝える報道  福島民友新聞社・編集局長 加藤卓哉
総合力で新聞の力を示すために  読売新聞東京本社・編集局総務 松田陽三
特別紙面「希望新聞」の取り組み  毎日新聞東京本社・生活報道部長 尾崎敦
現場取材で感じる人々の思い  茨城新聞社・日立支社 川崎勉
被災者基点と共助を座標軸に  河北新報社・論説委員長 鈴木素雄

新聞研究2011年8月号
激動の原発事故報道  朝日新聞東京本社・前科学医療エディター 大牟田透 | 朝日新聞東京本社・政治グループ 林尚行
率直な疑問をぶつけていく  東京新聞・科学部 永井理
地元の安全対策論議に応える  静岡新聞社・社会部長 植松恒裕
食の安全・安心と報道の役割  日本農業新聞・農政経済部長 吉田聡
市民による震災報道プロジェクト  OurPlanet-TV・副代表理事 池田佳代

新聞研究9月号
地域社会との新たな関係づくり  河北新報社・メディア局長 佐藤和文
原発災害報道にツイッターを利用  日本放送協会 科学・文化部長 木俣晃
新聞社の高い取材力を実感  グーグル・プロダクトマーケティングマネージャー 長谷川泰
長野県栄の震災をどう報じたか  信濃毎日新聞社・飯山支局長 東圭吾
感情を抑えて、被災地に寄り添う  河北新報社・写真部 佐々木 浩明

新聞研究2011年10月号
取材で感じた報道写真の役割  毎日新聞東京本社 編集編成写真部 手塚耕一郎
後世に「教訓」を伝える  岩手日報社・編集局報道部次長 熊谷真也
全社的訓練とノウハウが結実  日本放送協会・福島放送局放送部 鉾井喬
頼られる存在であり続けるために  岩手日報社・編集局報道部長 川村公司
震災のさなかのある地から  河北新報社・編集局長 太田巌

調査情報(TBS刊)2011年7-8月号
未だ蘇る声  東北放送・報道部 武田弘克
震災特番 Web配信  TBSテレビ 報道局デジタル編集部担当部長 鈴木宏友

調査情報2011年9-10月号
テレビ報道が信頼を回復するために  映画作家 想田和弘
震災の前と後で日本の政治は変わっていないし、私も変わらない  文芸評論家・文化史研究家 坪内祐三
「災後」社会を「つなぐ」  政治学者 御厨貴
「焼け太り」のひとつだに無きぞ悲しき  フリープロデューサー 藤岡和賀夫
気仙沼で生まれた自分しか話せないことがあると思うから  スポーツジャーナリスト 生島淳
三陸彷徨 魂と出会う地で  JNN三陸臨時支局長 龍崎孝
結局私は、記者ではなかった  TBSテレビ・報道ニュース部「Nスタ」 森岡梢

放送研究と調査(NHK放送文化研究所刊)2011年6月号
東日本大震災発生時 テレビは何を伝えたか(2)  メディア研究部 番組研究グループ
東日本大震災・放送事業者はインターネットをどう活用したか  メディア研究部 村上聖一

放送研究と調査2011年7月号
3月11日、東日本大震災の緊急報道はどのように見られたのか  メディア研究部 瓜知生
東日本大震災に見る大震災時のソーシャルメディアの役割  メディア研究部 吉次由美

放送研究と調査2011年8月号
東日本大震災・ネットユーザーはソーシャルメディアをどのように利用したか  メディア研究部 執行文子

放送研究と調査2011年9月号
原子力災害と避難情報・メディア  メディア研究部 福長秀彦
東日本大震災・被災者はメディアをどのように利用したか  世論調査部 執行文子
大洗町はなぜ「避難せよ」と呼びかけたのか  メディア研究部 井上裕之

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