4歳の詩人の肖像
作家の曽野綾子が月刊誌に寄せた次のような文章は、読売新聞東京本社写真部の立石紀和の撮影した写真が 生んだものだ。曽野はいう。
「3月31日付の読売新聞はこの災害の中でもっとも胸迫る詩を書いた4歳の詩人の作品を載せた」と。
震災発生から1週間後、まだ報道すらされていない辺鄙な地域に焦点をあてたいと思った写真部の立石紀和記者は、岩手県のリアス式海岸に点在する漁村を歩いていた。
宮古市の重茂半島・千鶏地区に入った時だった。漁港は跡形もなかった。集落の大部分が流され、残った家屋は十数軒しかない。高台にある家を訪ね、「こんにちは」と声をかけると、引き戸が開き、おばあちゃんが出てきた。背中の後ろから顔をのぞかせたのが4歳の女児、昆愛海ちゃんだった。漁師をしていた父親と母親、妹を津波に流され、愛海ちゃんだけが漁網に引っかかって奇跡的に助かったという。恐怖の体験をした女の子は心を閉ざし、笑顔はなかった。
立石記者は、会った当日はカメラを向けなかった。その後、何度も愛海ちゃん宅に通い、トランプをしたて遊んだり、絵本を読み聞かせたりして、少しずつ距離を縮めていった。ある日、いつものようにババ抜きをしていると、愛海ちゃんが突然、「ママに手紙を書く」と言い出した。愛海ちゃんは、覚えたてのひらがなで、1文字ずつ、ゆっくりと思いをつづった。分からない文字は幼児学習雑誌『めばえ』を開いて確かめた。
「ままへ。いきているといいね。おげんきですか」
そこまで書き終えると、疲れたのか、すやすやと寝入ってしまった。立石記者はノートにつっぷして眠る姿をそっとカメラに収めた。
震災から2カ月後の5月10日には、少しずつ笑顔を取り戻した愛海ちゃんを再び紙面に取り上げた。
――
参考文献
新聞研究(日本新聞協会刊)2011年6月
膨大な被災者の今を伝え続ける 河北新報社・編集局長 太田巌
地方の視点で震災と原発に向き合う 福島民報社・編集局次長 安田信二
求められる情報、総力で迫る 朝日新聞東京本社・社会グループ 石田博士 | 朝日新聞名古屋本社・報道センター次長 日浦統
最初の6時間 テレビは何を伝えたか 日本放送協会「ニュース7」編集責任者・等々木健
新聞研究2011年7月号
危機に問われる新聞力 岩手日報社・常務取締役編集局長 東根千万億
未曾有の災害連鎖を伝える報道 福島民友新聞社・編集局長 加藤卓哉
総合力で新聞の力を示すために 読売新聞東京本社・編集局総務 松田陽三
特別紙面「希望新聞」の取り組み 毎日新聞東京本社・生活報道部長 尾崎敦
現場取材で感じる人々の思い 茨城新聞社・日立支社 川崎勉
被災者基点と共助を座標軸に 河北新報社・論説委員長 鈴木素雄
新聞研究2011年8月号
激動の原発事故報道 朝日新聞東京本社・前科学医療エディター 大牟田透 | 朝日新聞東京本社・政治グループ 林尚行
率直な疑問をぶつけていく 東京新聞・科学部 永井理
地元の安全対策論議に応える 静岡新聞社・社会部長 植松恒裕
食の安全・安心と報道の役割 日本農業新聞・農政経済部長 吉田聡
市民による震災報道プロジェクト OurPlanet-TV・副代表理事 池田佳代
新聞研究9月号
地域社会との新たな関係づくり 河北新報社・メディア局長 佐藤和文
原発災害報道にツイッターを利用 日本放送協会 科学・文化部長 木俣晃
新聞社の高い取材力を実感 グーグル・プロダクトマーケティングマネージャー 長谷川泰
長野県栄の震災をどう報じたか 信濃毎日新聞社・飯山支局長 東圭吾
感情を抑えて、被災地に寄り添う 河北新報社・写真部 佐々木 浩明
新聞研究2011年10月号
取材で感じた報道写真の役割 毎日新聞東京本社 編集編成写真部 手塚耕一郎
後世に「教訓」を伝える 岩手日報社・編集局報道部次長 熊谷真也
全社的訓練とノウハウが結実 日本放送協会・福島放送局放送部 鉾井喬
頼られる存在であり続けるために 岩手日報社・編集局報道部長 川村公司
震災のさなかのある地から 河北新報社・編集局長 太田巌
調査情報(TBS刊)2011年7-8月号
未だ蘇る声 東北放送・報道部 武田弘克
震災特番 Web配信 TBSテレビ 報道局デジタル編集部担当部長 鈴木宏友
調査情報2011年9-10月号
テレビ報道が信頼を回復するために 映画作家 想田和弘
震災の前と後で日本の政治は変わっていないし、私も変わらない 文芸評論家・文化史研究家 坪内祐三
「災後」社会を「つなぐ」 政治学者 御厨貴
「焼け太り」のひとつだに無きぞ悲しき フリープロデューサー 藤岡和賀夫
気仙沼で生まれた自分しか話せないことがあると思うから スポーツジャーナリスト 生島淳
三陸彷徨 魂と出会う地で JNN三陸臨時支局長 龍崎孝
結局私は、記者ではなかった TBSテレビ・報道ニュース部「Nスタ」 森岡梢
放送研究と調査(NHK放送文化研究所刊)2011年6月号
東日本大震災発生時 テレビは何を伝えたか(2) メディア研究部 番組研究グループ
東日本大震災・放送事業者はインターネットをどう活用したか メディア研究部 村上聖一
放送研究と調査2011年7月号
3月11日、東日本大震災の緊急報道はどのように見られたのか メディア研究部 瓜知生
東日本大震災に見る大震災時のソーシャルメディアの役割 メディア研究部 吉次由美
放送研究と調査2011年8月号
東日本大震災・ネットユーザーはソーシャルメディアをどのように利用したか メディア研究部 執行文子
放送研究と調査2011年9月号
原子力災害と避難情報・メディア メディア研究部 福長秀彦
東日本大震災・被災者はメディアをどのように利用したか 世論調査部 執行文子
大洗町はなぜ「避難せよ」と呼びかけたのか メディア研究部 井上裕之