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現代女優論   堀北真希

2012年9月19日

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梅ちゃん先生 「戦後」は遠くなりにけり 昭和生まれの女優

  「下村先生なんておかしいよ、梅ちゃん先生でいいよ」

 近所で食堂を開いている三上康子(岩崎ひろみ)がいう。

 東京・蒲田で開業したばかりの下村梅子(堀北真希)が前夜、食中毒にかかった5人の工員を救った。そのお礼に現れた同僚が、「下村先生」と呼びかけた瞬間であった。徹夜に近かったその治療の疲れから、机に突っ伏している梅子を母親の芳子(南果歩)が揺り動かす。

 「患者さんですよ、梅ちゃん先生」

  NHK朝の連続小説「梅ちゃん先生」のなかで、主演の堀北真希が初めてタイトルンの名前で呼ばれたシーンであった。第16週(7月9日~14日)「ちいさな嘘の、大きな本当」を観た。

  シリーズは、終戦直前に蒲田が空襲に遭って焼け野原になったシーンから始まる。女学校に通う梅子が、浮浪児を助けたことをきっかけとして、医学部の教授である父建造(高橋克実)に当初は反対されながらも、女医の道を目指していく。

 朝の連続小説ではおなじみの女性の成長の物語である。戦後の混乱とその後の経済成長のなかで日本人がどのように歩んできたか。これも連続小説の大きなテーマである。

 「小さな嘘の、大きな本当」は、梅子に思いを寄せる、父建造の教室に所属している研究医の松岡敏夫(高橋光臣)の揺れる気持ちが縦糸になっている。そして、隣家の部品製作所の工員の退社騒動がからみあう。本当の気持ちをなかなか率直に表現できない、青春時代に特有の甘い香りのする感情劇である。松岡役の高橋の演技が、連続ドラマを観る楽しみになる。理知的過ぎて、恋愛感情を表現する方法を知らない。青森の素封家の娘との縁談を断って、大学の研究室に戻って、梅子と再会しても、うまく気持ちをだせない。突然、梅子が胸に飛び込んできて、ぎこちなく肩を抱く。

  連続小説は、若手女優の登竜門である。平成に元号が変わる直前に生まれた堀北真希は、若手とはいえ、いまや堂々たる人気女優であり、過去のシリーズの女優とは比較にならない。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの青森から集団就職で、自動車修理工場で働く星野六子役で、古くさい言い回しではあるが「国民スター」となったといえよう。梅子と松岡を演じる堀北と高橋をみていると、大物女優が若手俳優を育てる、といった趣(おももむき)がある。ほめすぎだろうか。青年医師を演じる高橋が上手くスターである堀北を支えているといったほうがよいのかもしれない。

  梅ちゃん先生「戦後の日本人」を語る――月刊文藝春秋6月号の堀北真希の聞き書きである。国民雑誌といわれた文藝春秋の中吊り広告に、若手女優の名前が躍ったのはいつ以来のことであろうか。国民スター・堀北真希の面目躍如である。聞き書きは文藝春秋編集部によるから、女性誌や芸能誌とは一味違う彼女の実像が浮かび上がる。

  「私はギリギリ昭和生まれで、誕生日の3カ月後に平成になりました。当たり前のように、部屋にお花を飾ったり、いい香りのするキャンドルを置いてみたり、ただ楽しむためだけのモノにお金をかけることができます。それはそれですごく幸せなことです。しかし、ゼロの状況から今の豊かな暮らしに至るまでに、当時の人たちがどれほど頑張ったか。それを忘れてはいけないなと思っています」

  連続小説が、戦後にこだわってきたことの意義があらわれている。団塊の世代に次ぐ筆者にとって、戦後は遠い存在とならうとしている。物心ついたころには、高度経済成長にかけあがっていく時代であった。

  「梅ちゃん先生」は、戦後の歴史について、ニュース映画の映像をつかって、ていねいに解説している。今回の第16週は、昭和30(1955)年が舞台である。朝鮮戦争後の好景気のなかで、人手不足が、梅子の隣家の部品製作所まで及んでいるのがわかる。

 思えば、梅ちゃん先生は筆者の父母の世代の大正生まれである。梅子の父は明治生まれであろう。連続小説は、祖父母、父母、子、そして、筆者の子どもの世代に戦後を追体験させる。それは、堀北真希の世代である。戦後を生きた人々が懐かしく観るばかりではなく、それらの人々に育てられた人々が、過去を思う瞬間を経験しているのであろう。

 そして、2011年3月11日に起きた、東日本大震災と巨大津波、原発事故である。終戦直後の風景と震災後のそれは、現実ばかりではなく、心象風景もまた重なり合う。

  堀北真希は、文藝春秋の聞き書きのなかで、次のように語っている。

  「クランクインは、終戦直後の東京・蒲田の焼け野原を再現したオープンセットでした。……戦後のバラック街や闇市が再現されています。大量のがれきや、実際に木材や家具を燃やしただけでなく、廃材に墨汁を吹き付けて焦げたように演出しているのです。あまりにリアルなセットに立ったとき、真っ先に思い浮かべたのは、3・11のニュース映像でした」

  「梅ちゃん先生」が、戦後の焼け跡から立ち上がる人々を描くとき、大震災後の人々にも勇気を与えているのだろう。                   (敬称略)

 

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