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現代女優論   栗山千明

2012年9月12日

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日曜ドラマ「ATARU」 栗山千明を輝かせる中居正広

 ドラマをみるきっかけは何だろうか。主演の男優に魅かれてか、共演の女優か、その逆もある。主演と共演の魅力は分かちがたく、ふたりをみたいこともあるだろう。

  視聴率激戦区の日曜夜9時のゴールデン・タイム、TBS「ATARU」と、フジテレビ「家族のうた」はどうだろう。特異な才能で事件を推理するATARUを演じるのは、SMAPの中居正広である。オダギリジョーは「家族のうた」で、売れないロック歌手・早川正義を演じている。

  共演は、中居の相手は、警視庁刑事・蛯名舞子役の栗山千明である。オダギリジョーは、カメラマン・青田洋子役の貫地谷しほりである。

  ふたつのドラマは、春の新番組、いわゆる改編によって、2012年4月15日同時スタートした。ともに第5回となる5月13日、新聞の朝刊の芸能ニュースは、オダギリジョー主演のフジ「家族のうた」が、視聴率の不振から、第8話で打ち切りになる、と報じている。前回の平均視聴率は3.1%であった、と。

  オダギリジョーは筆者が注目している俳優のひとりである。西川美和監督の「ゆれる」(2006年)で、写真家の早川猛を演じた。恋人の川端智恵子役は真木よう子、兄の稔役は香川照之である。真木との男女の心理的な駆け引きにおけるオダギリの演技は、智恵子の死をめぐる裁判劇の伏線となる。

  週明けの仕事が頭の片隅をかすめる日曜日の夜、女優・栗山千明に魅かれて、筆者は「ATARU」を春の改変では選んだ。「ATARU」は、いわゆる事件もので1話ごとに殺人事件の謎解きがあるシリーズである。 5月6日放映の第4回を振り返る。中居は「チョコザイ」と名乗る。特別な領域に関して才能を持っているサヴァン症候群の男の設定である。栗山との会話は成立していない。

  殺人事件ではなく事故として取り扱われる「捨て山」といわれる事件を結果として、栗山と解決する。短い言葉を発して、捜査の方向性を決める。

  この回は、単発飛行機の操縦士が離陸しないでフェンスに激突、死亡して見つかった事件である。チョコザイは、もう一機の単発機が事故にあった飛行機の上をかすめるように急接近したのが原因で、死亡した飛行士が激突したことを明らかにし、殺人事件の解決へと導く。  犯人は、操縦士の指導教官であったかつての恋人であった。死んだ男がこころがわりして、別の女性と結婚することを恨んだ犯行だった。

  チョコザイは、事件の捜査の「開始」と「終了」を短く英語でつぶやく。事件が解決すると瞬間的に眠りに入り、涙がほほを伝う。

  中居のチョコザイには、ほとんどセリフらしいセリフはない。刑事・蛯名役の栗山は、事件現場に行ったり、聞き込みに行ったりする、その行動によって舞台回しを演じるとともに、チョコザイに好意を寄せる感情を表現する。

  栗山の演技力に筆者が魅入られたのは、NHK連続ドラマ「ハゲタカ」の放送記者役であった。大森南朋が演じる元銀行員のファンドの経営者と、経済事件をジャーナリストとして切り込む。栗山の人生と大森の数奇な人生が絡み合うのが、ドラマの魅力だった。

  主演男優と女優が、そのドラマを成功に導く方程式があるとするならば、筆者は男優が女優に光りをあてるような演技がいいのではないか、と考える。あるいは、そうした設定のドラマは観るものをゆったりとした気持ちにさせて、くつろがせるのではないだろうか。

  オードリー・ヘップバーンのデビュー映画「ローマの休日」で、グレゴリー・ペックが演じた新聞記者役は当初、ケリー・グラントが予定された。脚本を読んだグラントは、物語の主人公が自分の役ではなく、オードリーが演じた王女であることを理由にして断ったという。ペックは即座に引き受けた。

  さらに、映画のタイトルのトップに彼女の名前を出すように製作会社にいったのである。「この映画で彼女はオスカーを受賞する」と予言して。

   オダギリの「家族のうた」はこころ動かされながらも、打ち切りの報道まで、観ることはなかった。5月13日の第5回を観た。相手役の貫地谷しほりもまた、感情の起伏を生き生きと表現できる美貌の若手女優である。NHKの朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」で、落語家を目指す主人公を演じて、豊かな才能をみせて観るものを驚かせた。

  主人公のオダギリの演技が直線的に正面に出て、貫地谷の魅力を光り輝かせていない。打ち切りが決まったのは予定されていた11回の途中であるから、即断はできない。ドラマは終盤にかけて、ふたりの演技がハーモニーを奏でたのかもしれない。オダギリはもともと、女優を輝かせる男優である。真木よう子を本格派女優の道の入り口に導いたのは「ゆれる」の共演であった。沢尻エリカを一躍スターにした映画「パッチギ!」でも、酒店の若旦那として重要な役回りを演じている。

  「家族のうた」の打ち切りは惜しい。オダギリと貫地谷のために。(敬称略)

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